この記事の途中に、以下の記事の引用を含んでいます。
Renewable-powered system uses calcium to reduce emissions and scale for farmers
いま注目の「グリーン・アンモニア」革命とは?
みなさんは「アンモニア」と聞くと、どんなイメージを持つでしょうか?
家庭用洗剤やガラスクリーナーに使われる身近な化学物質、という印象が強いかもしれません。
ですが、実は全世界で毎年1億7000万トン以上も生産されている産業の要となる化学品であり、そのほとんどが「肥料」として農業を支えています。
今回ご紹介するPhys.orgの記事では、「アンモニアを再生可能エネルギーとカルシウムを使って環境負荷を劇的に抑えつつ、農家が自宅で手軽に生産できるシステムを開発・拡大中」という、化学業界と農業にとって革新的な試みについて報じています。
見過ごせない現状――アンモニア生産の「負の遺産」
まず、伝統的なアンモニア生産法について、記事はこう指摘しています。
“It’s usually produced by smashing the elements together under high temperatures and high pressure in what’s called the Haber-Bosch process. While muscular enough to meet the world’s growing ammonia demand, the Haber-Bosch process is energy-intensive and responsible for 1–3% of global carbon dioxide emissions.”
(従来は「ハーバー・ボッシュ法」と呼ばれる高温・高圧下で窒素と水素を反応させるプロセスで作られる。これは膨大なエネルギーを必要とし、世界の二酸化炭素排出量の1~3%を占める。)
世界中の肥料需要を満たすには巨大なプラントが必要で、多くの化石燃料を消費し、地球温暖化にも直結しています。
SDGsやカーボンニュートラルが叫ばれる今、このまま「大量生産大量消費」の座に甘んじてはいけないという危機感がにじみます。
カルシウムが救世主? 環境負荷ゼロの新発想とは
今回、UICの研究チームはこうした状況を打破する画期的なプロセスを提案しています。
“Singh tried cooling the reaction with a more abundant mineral: calcium, which binds with nitrogen to form calcium nitride. He combined the calcium nitride with hydrogen atoms to create ammonia without emitting any carbon dioxide.”
(Singh氏は、より豊富な鉱物であるカルシウムと窒素を結合させてカルシウムナイトリドを生成し、それに水素原子を反応させ二酸化炭素を排出せずにアンモニアを作り出した。)
ここで注目すべきポイントは以下の3つです。
- 反応が室温・常圧で進行すること(つまり大規模プラントや高価な装置は不要)
- 原料となるカルシウムが極めて豊富かつ安価であること
- 再生可能エネルギーで駆動できるためCO2排出ゼロも実現できること
これまで言われてきた「分散型」「省エネ」型アンモニア生産の理想像にまた一歩近づいた、まさにブレイクスルーです。
技術の実際――実験室から農家の“庭先”へ
今回の研究の現段階の成果について、記事ではこう触れています。
“Physically, this looks like a 1-square centimeter, lab-scale reactor that produces about 1 gram of ammonia per day—about the weight of a jellybean… Currently, Singh’s team is scaling up the reactor in collaboration with General Ammonia, Co. to produce 11 pounds of ammonia per day.”
(物理的には、1平方センチメートルほどの実験室スケールのリアクターで1日あたり約1グラムのアンモニアを生産…現在はGeneral Ammonia社と協力し、1日11ポンドの生産を実現すべく拡大中。)
現時点では実証プラント、つまり「証明のための小型スケール」ですが、すでに大手企業との実用化・量産化への道筋も付き始めています。
最終的には1㎡(=10,000倍規模)へのスケールアップが目標であり、「分散型アンモニア生産」の社会実装が現実味を帯びてきました。
グリーン化への真の意味――なぜこの発明が重要か
なぜこの研究がこんなにも意義深いのか。
背景には次のような要請があります。
1. 農業と食糧生産の持続可能性
世界の多くの地域で、人口増加や気候の変動によって食糧の安定生産が益々重要な課題となってきました。
記事でも、
Farmers need fertilizer to grow food faster,” said project lead Meenesh Singh… “I hope our project can help provide on-demand fertilizers to farmers, people and communities facing food scarcity.”
(「農家は食料を速く育てるために肥料を必要としています…私たちのプロジェクトが、肥料を必要なときに提供し、食料不足に悩む人々や地域社会を支援できることを望みます」とプロジェクトリーダー・Singh教授は語っています。)
と述べられている通り、肥料自給や調達高度化は飢餓対策に直結します。
2. 地域分散型のメリット
従来のアンモニア生産は、大規模工場での集中型生産が主流でした。
しかし今後、個々の農家や地域でオンデマンドに肥料を作れるならば、
- 物流や中間コストの削減
- 貧困地域や小規模農家への裨益
- 地方の経済活性化
など、多面的なメリットを期待できます。
3. 脱炭素社会の牽引
ハーバー・ボッシュ法からの脱却はすなわち二酸化炭素排出を劇的に削減する道筋を切り開きます。
世界全体の1~3%ものCO2を改善できる技術は、カーボンニュートラル社会の実現に直結するインパクトがあります。
「アンモニア」新生産技術の課題と今後の展望に迫る
革新的な技術であることは間違いありませんが、現段階で実用化・普及させるためにはいくつかクリアすべき課題があります。
1. 生産効率とスケーラビリティ
今は「毎日1グラム」のラボスケールから始まったものを、いかにコストを抑えながら大規模化するかが肝です。
記事にもある通り、既に“Proof-of-concept”から「1日11ポンド」レベルへの工程を踏み出しましたが、商用プラント級にはまだ段階があります。
2. 給源の確保・プロセスの自動化
Singh氏自身、「究極の目標は水から直接反応を起こし、農家が“自作”できる本当のDIYアンモニア生産システムを目指す」と述べています。
この「完全なDIY」には、効率的な窒素・水素(あるいは水)供給、反応プロセスの遠隔制御・自動化など、エンジニアリング面でのブレークスルーも必要です。
3. 安全性・運用管理・標準化
新しいマイクロプラント技術は、爆発や毒性といった既存のリスクコントロールの枠組みから外れる側面もあります。
現場での安全管理基準や運用マニュアルの整備、それに合わせた政策・法規制のアップデートも求められるでしょう。
日本農業や国内化学産業への波及効果――現実的なシナリオは?
日本国内に目を転じても、肥料価格の高騰や輸入依存リスクが顕在化しています。
いわゆる「グリーン・アンモニア」への取り組みは、政府や大手化学メーカーでもすでに進行中ですが、再生可能エネルギー+自営型生産という観点ではさらなる可能性があります。
この技術がもし10年、20年以内に実用化・コスト削減されれば、
- 農業現場でのコスト軽減・環境負荷低減
- 国内における肥料の安定供給体制強化
- 自動化・省人化を支える新たな装置産業への波及
など、「次世代の食糧安全保障」に直結する分野で競争力を発揮できると考えられます。
“自家製肥料”時代への示唆――読者へのメッセージ
今回ご紹介した技術の本質は、「小さな装置」で「地球規模の課題」を解決するダイナミズムにあります。
エネルギー転換や食料危機に直面する21世紀だからこそ、
– 分散型生産
– 脱炭素
– 持続的農業
といったキーワードを、技術革新によって“現場目線で”実現する道が一気に開けようとしています。
みなさんの暮らしや仕事においても、「肥料だけでなくあらゆる資源・エネルギーが、より自給的で、環境に優しいものに変わっていく」という未来像を想像してみてください。
逆に言えば、産業界・政策サイド・研究開発者だけでなく、「社会全体」(つまり私たち一人ひとり)が、こうした変化を受け止め、自ら関わっていくことが、サステナブルな社会実現の重要な一歩になります。
参考・引用記事:
Renewable-powered system uses calcium to reduce emissions and scale for farmers
categories:[science]

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