この記事の途中に、以下の記事の引用を含んでいます。
Fausto’s Code Review Process
- コードレビューの常識を揺るがす!「Fausto流」の全貌とは?
- 「ゲートキーパー」から「コラボレーター」へ──Fausto流の基本思想
- 「レビューは必ず次の行動を明示せよ」──曖昧さ追放の具体的ノウハウ
- Default Approve!「常に承認がデフォルト」の衝撃と効能
- 緻密に運用される「Request changes」の哲学──ボトルネック化を防げ!
- ラベル文化で「伝え方」「認識齟齬」を最小化
- 議論に流されるな!「PRの場を守る」高度な切り分けテクニック
- 独自プロセス自体も図解で共有──なぜ手順が重要なのか
- 批評と現場への応用──日本の開発チームはどう活かせる?
- 「完成度」よりも「前進」と「信頼」──あなたの現場を変えるヒント
コードレビューの常識を揺るがす!「Fausto流」の全貌とは?
ソフトウェア開発現場で日々繰り広げられる「コードレビュー」。
その形式や運用はチームごとに千差万別ですが、うまく機能しないことで開発が滞ったり、メンバーのモチベーションが低下したりした経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
そんなコードレビューの“あるべき姿”を再定義する先進的なプロセスが、今回紹介するFaustoさんの記事『Fausto’s Code Review Process』です。
この記事では、コードレビューを単なる「品質チェックの関門」ではなく、「チームの生産性と信頼を高めるコラボレーションの場」として捉え、実践的なガイドラインや具体策が示されています。
単なる理想論や精神論にとどまらず、各種のシグナルの使い分け、デフォルト承認の意義、議論の切り分け方などまで落とし込まれている点が大きな特徴です。
「ゲートキーパー」から「コラボレーター」へ──Fausto流の基本思想
まず冒頭、Faustoさんは自身のコードレビューポリシーの主目的をこう強調しています。
“My goal in code review is not to be a gatekeeper, but to be a collaborative partner in improving code quality while maintaining team velocity. This process is built on trust. I trust my teammates to make good decisions and address feedback appropriately.”
(私のコードレビュープロセスの目標は、ゲートキーパーになることではなく、チームの速度を維持しつつ、コードの品質を高めるための協働パートナーになることです。このプロセスは信頼に基づいています。チームメイトたちが適切に意思決定し、フィードバックに適切に対応してくれると信じています。)
この一節から読み取れるのは、“メンバーの自主性と信頼”を最重視する姿勢です。
コードレビュー担当者を「全権を握る審査官」ではなく、「対等な協働相手」として位置づけることで、レビューそのものの雰囲気や目的が根本的に変わります。
加えて、「迅速な承認」を重視することで、開発サイクルが停滞する最大の要因──レビュー待ちによる“文脈の断絶”やモチベーション低下──を防ぐ狙いが解説されています。
具体的には「簡単な変更なら6時間以上放置は長すぎ、複雑な変更でも2日以上未レビューは避ける」とあり、“即応レビュー”の重要性が強調されています。
「レビューは必ず次の行動を明示せよ」──曖昧さ追放の具体的ノウハウ
コードレビューにありがちな、コメントだけで結論が不明瞭なケースについても次のように述べています。
“Pull request reviews should always give the author a clear next step. It’s not acceptable for a review to open up a broad discussion without explicitly making a decision about whether the pull request should be blocked until the discussion is resolved.”
(PRレビューは必ず著者に明確な次のアクションを提示すべきです。解決されない議論を開くだけで、PRをブロックするかどうか明言しないレビューは受け入れられません。)
この主張は非常に本質的です。
「単なるコメント地獄」になりがちな現場では、レビュー担当者が“このPRは今どういう状態なのか”“次に何をすべきなのか”を明示しないことで、著者もレビュアーも共に迷子になります。
Fausto流では「ほとんどのレビューはApproveかRequest changesで必ず結論を出す」「結論を出せない場合は、よりふさわしい人物にバトンをパスして明言する」ことが大原則。
レビューを“宙ぶらりん”にしない仕組みは、PR著者だけでなく全チームのストレス削減・生産性向上につながるといえます。
Default Approve!「常に承認がデフォルト」の衝撃と効能
従来の「厳しいチェックで落とす」文化とは真逆ともいえる重要なポイントが、95%の確率で“Approve & コメント”をデフォルトとする設計です。
Faustoさん曰く、
“The question isn’t ‘is this perfect?’ but rather ‘is this good enough to merge, and can any issues be addressed afterward or through normal iteration?’”
(基準は「完璧かどうか」ではなく、「マージするのに充分良いか」「残課題は後から対処可能か」です。)
この柔軟な思想は、スピード感重視かつ「改善し続ける」チームに極めて合理的。
もちろん、「問題点や悪しき慣習を見つけた場合は別途Issueを立てて通報する」「ユーザーから見えないFeature-Flag下の実装は特に柔らかなタッチ」など、コンテキストによる強弱もきちんと設計されています。
絶対に止めない、ではなく「止めるときは責任を持つ」が徹底されたアプローチです。
緻密に運用される「Request changes」の哲学──ボトルネック化を防げ!
「修正要求(Request changes)」も乱用せず、慎重に運用されます。
ポイントは、“なぜ再レビューする必要があるのか”がはっきりしていないなら極力Approve、「設計や実装が大きく変わる見込みがある」「再確認したい論点が明確な場合」にのみRequest changesを使うという原則です。
しかも、「Request changesを出した時は再レビューを最優先」「要望がかなえられ次第、即座に承認し著者をアンブロックする」ことを明確にコミットしており、「自分がボトルネックになる」事態を極力避けようという強い意思が感じられます。
また、他のメンバーが十分文脈把握していれば、Request changesを“Dismiss”することも推奨されており、組織としての柔軟な運用、責任分散も重視されています。
ラベル文化で「伝え方」「認識齟齬」を最小化
レビューでよくトラブルになるのが、「言い方の強さ」「重み」「優先順位」が伝わりにくい点です。
Fausto流では以下のようなラベルやコメント指針を徹底することで、無用な誤解や衝突を防いでいます。
- Nit: 軽微な指摘。文法や命名等、機能には影響しない改善案。著者の裁量で無視してよい旨を明記。
- Super-nit: 極めて些細な好みや一貫性程度の話。こちらもほぼ無視推奨。
- Off-topic / Off-topic (product decision): 本PRには無関係、または仕様決定そのものへの意見(著者の責任領域外)を明確化。「ここでは議論せず、該当スレッド等で話そう」と筋を通す。
- Bug/Logic issue: 仕様を満たさない、明確なロジックミスについては、ダイレクトに要点を伝える。バグの認識が両者で一致し誤解がなければApprove、そうでなければRequest changesで明確化。
この“伝え方の差別化”は、レビュー初心者から上級者まで参考にしたい仕組みです。
また、“いい仕事には気前よく賞賛!”というスタンスも強調されており、ポジティブフィードバックの力を大切にしている点も特筆すべきです。
議論に流されるな!「PRの場を守る」高度な切り分けテクニック
しばしば現場で見られる、“PRが永遠の議論の場”と化す弊害。
これについてFaustoさんは、議論が枝葉に及びそうな場合は速やかに「該当IssueやSlackスレッドなどへ誘導し、PR場では“ノンブロッキング”と明言」する運用を徹底しています。
これにより、実装レビューのスピードとフォーカスを保ちつつ、同時に重要な問題提起や課題先送りもフォローできる体制が構築されます。
独自プロセス自体も図解で共有──なぜ手順が重要なのか
Faustoさんの記事は、レビューの意思決定フロー自体も図解化し公開することで、「この運用がどういうルールで回っているか」を可視化しています。
不文律・暗黙知にしないことで、新メンバーでも混乱なく参加でき、属人化を防げる点が現場的には極めて重要です。
批評と現場への応用──日本の開発チームはどう活かせる?
Fausto流は「信頼・スピード重視」と同時に、「フェアな行動」「自分が責任を持てない部分ははっきり他者に委ねる」「議論は管理しきれる範囲で」といった“合理と誠実”のバランスに優れています。
筆者自身、さまざまな企業でコードレビュープロセスを見てきましたが、
– レビューが面倒な“儀式化”してしまうチーム
– 小さな指摘で長期間承認されないPRが積み上がるチーム
– 職階による権威主義的レビュー文化に悩むエンジニア
にとっては、Fausto流の導入で多くの問題が劇的に改善する余地があると感じます。
ただし、「信頼」と「責任転嫁の回避」は紙一重。
“Approveしつつバグや設計問題を伝えたが、誰もフォローしなかった”場合の再発防止策やトラッキングの工夫は、チームとして追加で設計したい部分です。
また、日本の開発現場では「十分な議論がなされないままマージされてしまった」「合意形成の過不足に不安」という声が根強く、Fausto流“別スレッド”文化の定着には慎重な教育・運用も不可欠といえます。
「完成度」よりも「前進」と「信頼」──あなたの現場を変えるヒント
本記事で解説した「Fausto流コードレビュープロセス」は、単なる“やり方”ではなく“チームのあり方”を根本から見直すキッカケになりうるものです。
- 目的は完全無欠な正しさではなく、「十分な品質でチームが止まらず前進できるか」
- レビューは「引き止める手段」でなく、「次の行動を明確にする意思疎通・信頼表明」
- 議論は分離、手続きは明確化、責任は適切分担、賞賛は気前よく
このエッセンスを取り入れるだけでも、あなたの開発現場が格段に円滑かつ生き生きしてくる可能性があります。
自チームの現状課題と照らし合わせつつ、まずは「曖昧な指摘コメントの脱却」や「Approveベースの運用」から一歩踏み出してみてはいかがでしょうか。
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