この記事の途中に、以下の記事の引用を含んでいます。
When Execution Is Cheap, Judgment Becomes Scarce
「実行」はコモディティ化した——今、求められるのは「判断力」だ!
ここ数年、AIや自動化ツールの進化により「実行」そのもののコストが急速に低下しています。
メール配信から競合調査、営業資料の自動生成まで、ひと昔前なら数日かかっていたタスクが、今や数分でこなせる時代です。
この記事「When Execution Is Cheap, Judgment Becomes Scarce」では、実行が圧倒的に容易かつ安価になったことで、逆説的に「何をやるか」「どこに集中するか」という判断力がますます重要になっている——という鋭い問題提起がなされています。
筆者はこう指摘します。
The tools to execute have become remarkably accessible. Research that took days now takes minutes. Decks generate themselves. Forecasts, content briefs, and competitive analyses flow faster than we can use them. The bottleneck has moved.
「実行のためのツールは驚くほど手軽になった。調査は日単位から分単位に短縮され、資料や予測、競合分析もどんどん自動生成される。その結果、ボトルネック(組織が成長する上で最も大きな障害)は“実行”ではなくなりつつある」と述べられています。
まさに、今のAI・自動化ブームの本質を突いた一文です。
「判断」にこそ差がつく時代——その象徴がStripeやSalesforceの初期戦略
この記事ではStripe、Salesforce、Figmaなど、SaaS界の“勝者”たちの事例から「判断力の差」がいかに企業価値を生み出してきたかが語られています。
たとえばStripeの創業者であるCollison兄弟は、Y Combinatorのスタートアップコホートから「幅広く顧客を目指す」誘惑を振り切り、あえて「少数の顧客の課題掘り下げ」に集中しました。
Engineers were asked to sit in on failed sales calls and watch screen recordings of developers abandoning integrations. Docs were rewritten based on drop-off moments, not feature completeness. This is why Stripe’s docs read like a tutorial written by someone watching over your shoulder.
Stripeでは「なぜ営業が失注したのか」「なぜ開発者がAPI連携を途中でやめたのか」を徹底的に現場観察し、開発者ドキュメントも“全部入り”ではなく「本当に詰まる地点だけ補強」する形で作り込まれたといいます。
この積み重ねが“過剰な実行”よりも、意味ある「判断」を優先した姿勢を物語ります。
SalesforceのMarc Benioff氏も、中堅市場(SMB)で勢いに乗る中、いち早く「大企業の購買プロセスには全く異なる動きが必要」と判断し、リーダークラスへの直接訪問や、何度も現場に足を運ぶ投資を惜しみませんでした。
これらは何も“昔話”ではありません。
AI・ツールの高度化で「努力の差」がなくなった現代では、むしろこうした“粘り強い判断力”の価値が上がっているのです。
行動量ではなく「どこでNOと言うか」——決断の難しさと意味
AI型の自動化が進むと、誰でもボタン一つで“900通のパーソナライズ営業メール”が送れるようになります。
でも、どれほどハイテクなマーケティングを行ったとしても、「本当にアプローチすべき42社」「今まさに予算がある13社」「経営陣が興味を持つ7社」といった“見極め”は、経験と現場感覚からしか生まれません。
筆者はこう強調します。
Execution scales with tools. Judgment scales with context, experience, and accountability.
“実行”はツールによって簡単にスケールできる一方、“判断”は文脈・経験・責任に応じて初めてスケールする——この違いを見逃してはいけません。
さらに、判断が求められる意思決定は、大企業だけでなく現場レベルにも及びます。
たとえば以下のような難しい決断です。
- 人気ブランド企業を追いかける営業活動を中止する(意思決定者がいないため)
- 製品は完成しているのに、マーケットが成熟するまでローンチを遅らせる
- エンゲージメント指標は好調なのに、理想顧客像に合致しないためキャンペーンを終了する
ここに共通するのは、「量」を追う誘惑を断ち切り、“あえてコンストレイント(制約)を設ける”という勇気ある判断です。
判断を鍛える——「脱・仕組み依存」が今後の競争力になる理由
では、この“判断力”はどうやって育まれるのでしょうか。
筆者は失敗パターンとして「分析麻痺」と「判断の放棄(abdication)」の2つを挙げています。
Teams that treat every decision like it needs a framework, a model, a consensus process. They value judgment but make the act of judging so heavy that nothing moves.
Teams that delegate judgment to systems. … Models and playbooks serve as tools for execution. They don’t substitute for thinking.
前者は「判断大事!」と称賛しすぎて、すべて“重厚な意思決定プロセス”としてしまい、動き出せなくなるパターン。
後者は逆で、「システムがこれをやれと言っている」「プレイブック通りにやるべき」と判断自体を外部委託(放棄)してしまう落とし穴です。
このジレンマを解決するカギは、“試行錯誤できる現場力の強化”だと筆者は強調します。
Atlassian社(JiraなどのSaaS開発で有名)は初期、あえてセールスチームを置かず「現場が自然発生的に製品を広げる様子を観察」することで本質的なパターン認識を磨きました。
Figmaも売上データ上はマーケやエンジニア部門への拡販余地がありながら、“まずはデザイナーとプロダクト部門”に的を絞り、本当に勝てる市場を形成してから横展開したといいます。
要するに、「テクノロジーで“実行の型”を固める前に、現場でパターンを掴み取る学習期間を確保できるか」が、その後のヒットを左右するということです。
「判断力」をどう鍛え、組織で生かすか——私の考察
ここまで読み進めて、「うちの現場は『型にはまった実行』ばかりで、なかなか判断の訓練機会がない……」と感じた方もいるかもしれません。
私自身も、マーケティングや企業の成長支援に携わる中で、「繰り返しやすい業務ばかりを最適化・自動化した結果、“現場的な違和感”が失われ、企画や方向転換のブレイクスルーが生まれにくくなる」現場を多く見てきました。
特にカスタマーサクセスや製品開発の現場では、
「たくさん会議をしても、誰も“異常値”や“違和感”を言語化しない」
「KPIの変化が起きても、“じゃあ本当は何が起きている?”と問い直すことなく自動化処理してしまう」
——という悪循環に陥りがちです。
この記事が優れているのは、
判断力を「本人の才能やカリスマ性」に還元せず、「現場で学び、組織として育てる技術」として言語化した点にあります。
たとえば、著者が推奨する「担当者自身に判断の権限(余白)を持たせる」「決断理由を組織で言語化・共有する」など、組織開発論として極めて示唆的だと感じます。
そして、「良い結果(売上増や案件受注)だけでなく、“良い判断”も評価する」「時には間違った判断も、狙いが正しければ称賛する」という“カルチャーづくり”こそ、現場発の判断力を長期的に鍛えていくのだと思います。
AI時代の最強スキルは「何をやらないか?」の決断力
冒頭で引用した通り、「かつては実行する努力(量)こそが競争力」でした。
しかしAIによる自動化が進んだ現代では、だれでも同じレベルの“実行”は手に入ります。
これからは「最初に何をやるべきかを選び抜くこと」「一見合理的にみえる選択肢でもNOを突きつけること」「“完璧なデータ”がなくても、仮説を持ってリスクテイクすること」に価値が生まれます。
それこそが「判断」の力であり、誰にも真似されにくい独自の競争優位性です。
最後に筆者はこう締めくくります。
As execution continues to get cheaper, and it will, judgment will continue to get more expensive. The gap between teams that understand this and teams still optimizing for output will widen.
つまり「実行の効率競争」にしがみつくチームと、「判断力に投資する」チームでは、その差がどんどん広がっていく。
私たちの日々の業務や意思決定でも、“実行”そのものではなく「何に集中すべきか?」を問い直すこと——これこそが今後のキャリア・組織成長の鍵となるのではないでしょうか。
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