この記事の途中に、以下の記事の引用を含んでいます。
Loss of moist broadleaf forest in Africa has turned a carbon sink into source
驚きの事実:アフリカの森林が「炭素の収容庫」から「炭素の排出源」に転落
私たちはこれまで、アフリカの広大な森林が地球温暖化対策の「最後の砦」となる炭素の収容庫(カーボンシンク)であると信じてきました。
しかし、最先端のリモートセンシング技術を活用した最新の学術研究が、その神話を根底から覆しています。
Loss of moist broadleaf forest in Africa has turned a carbon sink into sourceという、Nature系列のジャーナルで2025年に公開された論文は、アフリカ熱帯広葉樹林の消失が「炭素の貯蔵庫」から「排出源」への転換を引き起こし、地球規模の気候収支に警鐘を鳴らしているのです。
科学が解き明かす森林バイオマス動態:極めて精密な監視手法とは?
本論文が画期的なのは、「アフリカ大陸規模で森林バイオマスの長期ダイナミクス」を高精度で評価するため、従来不十分だった現地観測の壁を打破し、各種衛星搭載レーザー(LiDAR)を使った新たなモニタリング枠組みを導入した点です。
“To overcome the low availability and quality of reference data, we used the spaceborne Geoscience Laser Altimeter System (GLAS) onboard the Ice, Cloud, and land Elevation Satellite (ICESat)… The Global Ecosystem Dynamics Investigation (GEDI) LiDAR instrument… providing a dense network of training and validation data on forest canopy height.”
すなわち、地上調査だけでは把握が難しいアフリカ大陸全域の「樹冠高」や「バイオマス」の変化を、GLASやGEDI、さらに日本のALOS/PALSARといった多様な衛星データを高度に組み合わせて推定しています。
これには機械学習(ランダムフォレスト回帰)を駆使し、年間・100m四方という高い空間分解能でバイオマス分布データセットを作成するという、現在考えうる最高レベルの技術が投入されています。
この手法が意味するもの―従来の「炭素収支」評価を大きく塗り替える
なぜ、これほどまでに厳密な手法が必要だったのか?
その理由は、地球温暖化対策の中核を担う「森林による炭素吸収量(カーボンシンク)」が、従来過大評価されていた可能性があるからです。
従来のモデルは、「長期間安定して森林が炭素を吸収し続けている」という前提に立ち、地上の不完全データや、局所的な観測からバイアスが生じていました。
研究者らはこうした弱点を克服するため、年次ごとの樹冠高・バイオマス推計、さらには林分の撹乱履歴までも詳細に追跡することに成功しています。
論文によれば、
“The aboveground biomass density maps and associated standard deviations were used to estimate the African aboveground woody biomass stock and its annual changes (with confidence intervals)… with the aim of contributing to improvement of carbon inventories, understanding trends, and testing whether the aboveground biomass change rate has increased, reduced or changed sign over the period 2007-2017.”
つまり、実際に増減が「どの程度信頼できる変化なのか」を厳密に検定し、従来の単純な「炭素収支黒字」を否定する根拠を整えたわけです。
研究が描いた衝撃の「実態」―本当に森林は守られているのか?
今回の研究で明らかになったのは、湿潤な広葉樹林帯(いわゆる熱帯林)のバイオマスが、「全体として減少傾向」にあるという現実です。
この減少は局所的な森林伐採のみならず、森林火災や土地開発など複合的な要因が背景にあり、結果としてアフリカ全体のカーボンバランスを転換させてしまっているのです。
興味深いのは、単純な森林面積の減少だけでなく、「成熟林」においてもバイオマス回復の兆候が見出しにくい点です。
論文は次のように指摘します。
“biomass gains were very scarce in forest areas with high aboveground biomass density (i.e. mature forest). Either change is negligible in such areas due to a balance between mortality and growth, or it simply cannot be detected due to insufficient sensitivity of the Earth observation signal when biomass is high.”
成熟した森ほど「成木の死亡と成長が均衡」しているため、バイオマスの純増減を測定しにくい一方で、伐採・火災直後の森林では回復が期待ほど進まず、未知の撹乱が「シンクからソース」への転換を加速していることがわかります。
なぜ森林は「本来回復するはず」なのに、回復しない?現実とのギャップを考える
持続的な森林経営が実現すれば、理論上は伐採や火災の後に新しい樹木が成長し、「損失分」を中長期的に補填します。
しかし現場のデータは、実際の回復は想定よりもはるかに緩慢で、下手をすれば「回復しないまま追加的な伐採」や「土地利用転換」にさらされているのが実態です。
これは何を意味するのか。
ひとつは、単純な面積復元(伐採面積=植林面積)では十分でない、という警鐘です。
土地の劣化、外来種の侵入、局所的な干ばつや気候変動といった複合ストレス下では、バイオマス(カーボンストック)は容易には元に戻らないのです。
さらにデータの分析手法にも示唆があります。
衛星データでは小規模・断続的な損失やゲインを高感度に捉えることは難しいため、実態は「見かけ上一見安定」だとしても、実際は継続的な劣化が起きている可能性があります。
また、論文で重要な点として
“small gains and losses are hard to detect using this method, and biomass gains were very scarce in forest areas with high aboveground biomass density (i.e. mature forest).”
と述べられているように、成熟林の生物多様性価値や「見かけ上の安定さ」と、サブリミナルに蓄積される損失は区別しなければならないということです。
カーボン・オフセットや植林推進政策への影響―「面積」だけでなく「質」にも目を向けよ!
この研究の深刻なインパクトは、いわゆる「カーボン・オフセット事業」や植林プロジェクトだけでなく、それらに投資する企業・自治体・個人にまで波及します。
従来は「アフリカの植林や森林保全に投資すれば、必ずCO2吸収アップにつながる」と考えられてきました。
しかし現実には―
– 保全を徹底しなければ森林は徐々に劣化し、貯蔵される炭素は減る
– 「新たな林」が増えても、成熟林の損失を補うには膨大な年月が必要
– 衛星データで厳密な監視体制を作らなければ、実際の炭素フローは把握困難
という三重苦に直面しています。
投資家や政策決定者は、「面積」だけでなく「生態学的質」の維持・回復、「シンクからソース」へ転落する前兆を早期につかむサイエンスベースの評価指標設定が急務です。
結論:データ駆動型の気付き―アフリカ森林は警告サインを出している
この記事を通じて伝えたい本質は、「私たちは実情以上に森林の回復力・安定性を信じすぎている」という事実です。
衛星観測やAIをフル活用した最新の科学は、「熱帯広葉樹林がもはや強力なカーボンシンクではなく、場合によっては多量のCO2発生源となりつつある」という警告を発しています。
今後は「先進リモートセンシング」と「現地データ」の併用による正確な実態把握こそ、政策・投資・市民意識のいずれにおいても不可欠になってきます。
表面的な「緑の回復」に一喜一憂するのではなく、「炭素の動態」「生態系の質」まで視野に入れた科学的なモニタリングが求められるでしょう。
この研究は、アフリカだけでなく、世界中すべての森林管理に対するパラダイム転換の一助となるはずです。
categories:[science, society]


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