この記事の途中に、以下の記事の引用を含んでいます。
Indonesia has a waste problem. Does China have a solution?
目を引く中国のごみ発電プロジェクトがスタート!その裏にある本当のねらいとは?
インドネシアでは急速な都市化と人口増加により“ごみ危機”が深刻化しています。
この記事は、2024年にスマトラのパレンバン市で中国企業Zhejiang Jinneng Electric Power Technology(浙能锦江环境控股有限公司)が着工した廃棄物発電(WTE, Waste-to-Energy)施設プロジェクトを軸に、「中国式WTE技術による廃棄物解決策はインドネシアや東南アジアの廃棄物多発国を救うのか?」という問いを投げかけています。
背景には、インドネシア国内のごみ問題のみならず、中国国内におけるごみ発電産業の“過剰設備問題”、そして先進国から東南アジアへの“ごみの移転(waste colonialism)”も絡み合っています。
さらに、ごみ発電が抱える技術的・経済的・社会的課題や、環境運動との衝突リスクまで、幅広く論じられています。
まさかのデータが示す――中国式ごみ発電は救世主か?問題の複雑さを浮き彫りに
記事の中核は、中国企業Jinnengが建設を進めるパレンバン市のWTE施設への期待と課題についてです。
通商発表の中で、同社は次のように述べています:
“… promote China’s advanced waste-to-energy technology abroad, and contribute Chinese expertise and wisdom to environmental protection efforts in Indonesia”
(中国の高度な廃棄物発電技術を海外に広め、インドネシアの環境保護に対して中国の知見と知恵を提供する、とJinneng社は強調)
ごみ発電は廃棄物削減と発電を同時に叶える「一粒で二度おいしい」ソリューションのようにも映ります。
しかし、記事はこうした期待に対し、その実現には多くの条件や課題が控えていると指摘しています。
例えば、パレンバン市では毎日90トンものごみが川に不法投棄されており、それが排水路の閉塞による洪水多発の原因となっています。
また、インドネシア全体ではごみ処理率はわずか10%台、2030年までに埋立地は満杯になることがほぼ確実と言われています。
“The waste management rate in various regions of Indonesia has only reached around 10 percent, with landfills across the country projected to reach maximum capacity by 2030.”
(インドネシアの多くの地域ではごみ管理率が約10%しかなく、国内の埋立地は2030年までに満杯となる見込み)
この現状に対し、WTEプロジェクトは「渡りに船」とみなされていますが、実はここに複雑な経済・技術・環境・社会の課題が横たわっています。
「二重の危機」構造:なぜ中国企業が東南アジアへ進出するのか?
中国国内で起きている“焼却発電バブル”と“過剰設備”
中国はこの20年でごみ発電インフラを急速に拡大しました。
都市ごみの焼却率は2005年の9.8%から2023年には82.5%へと急上昇、焼却施設は67から実に1,010カ所にも増加。
しかし、その急成長の裏で「焼却設備の稼働率が約60%」と低迷、いわゆる“過剰設備(overcapacity)”に陥っています。
なぜなら新設工場の供給が処理できるゴミ量を上回ったためです。
これは典型的なインフラ投資バブルの弊害で、「新規参入の国内市場不足→海外進出の加速」という流れを生みます。
“A rough estimate puts the current load rate of WTE plants (in China) at around 60 percent.”
(中国国内のごみ発電所の稼働率は概ね60%程度)
この状況下、中国のごみ発電大手が近隣の東南アジア等“処理ニーズの高い新興国”に市場を見出そうとするのは、当然の成り行きです。
インドネシアの「ごみ輸入」と“真の独立”への一歩
もう一つ見逃せないのが、「ごみの国際移転(waste colonialism)」問題です。
これまで、欧米・豪州から膨大なプラスチックごみがインドネシアに輸入され続け、2024年には年間26万トンの輸入プラごみが記録されました。
しかし2025年1月から輸入を全面禁止――この背景には、「もはや他国のごみで自国が苦しむのはごめんだ」という強い自立志向があります。
やっとスタートラインに立った自国のごみ処理資源循環政策。
このタイミングで“外資”による「とっておきの焼却発電」が提案される。その光と影は?
光ばかりではない――焼却発電導入の知られざるハードルと社会的摩擦
経済コストと技術的ボトルネック
ごみ発電導入で一般に指摘される最大の壁は、運用採算性です。
記事でも触れているように、インドネシアのごみは含水率(水分含有量)が高く、プラスチック・有機・無機分別も不徹底。
そのまま焼却すれば燃焼効率は悪く、高コストに跳ね上がります。
しかも、「電力買い取り単価」や「ごみ受け入れ料(tipping fee)」が低すぎて事業として採算が合いません。
“Plastics should be separated, organics should be separated, and inorganics should also be separated. But what often happens is that everything is mixed, collected, transported, and dumped again. This is why our landfills practice open dumping…”
(通常ならプラスチック・有機・無機ごみを分別すべきだが、実際はごちゃ混ぜで集められ二次処理もされず、埋立処分ばかりという現状)
これはどの国でも共通の課題ですが、特に家庭ごみ分別インフラや「順法意識」が未成熟な新興国ではなおさら致命的です。
環境リスクと“公害輸入”への社会的反発
ごみ発電は“クリーンな再エネ”と言われがちですが、実際にはダイオキシンやフランなど有害物質排出への懸念が払拭されていません。
記事でも、「過去10年、中国各地で近隣住民の抗議運動が頻発」と指摘。
未だ技術水準の低い施設も多く、社会的合意が得られないまま押し進めれば、“見せかけのエコ”や“公害の輸入”と批判されかねません。
解決のカギは“上流でのごみ管理”と“透明性”――本当のサーキュラー・エコノミーへ
中国やシンガポール、日本、欧州資本まで投資熱が高まるごみ発電市場。
インドネシア政府も新しいWTE施設を2029年までに30カ所設置するという大号令を出しています。
しかし、記事はこう強調します。「廃棄物発電設備そのものより“ごみの分別・収集・輸送インフラのほうが重要”であり、この部分を欠いたままではWTEが機能しない」と。
また、将来的に住民反発が強まりうること、そして絶え間ない技術進化・排出管理の透明性公開が社会的信頼の要であることも指摘されています。
未来へのヒント:外資焼却発電は“万能薬”ではない。根本解決への道すじとは?
今回の記事から導き出せる最大の示唆は、「テクノロジーだけでは問題は解決しない」ということです。
もちろんごみ発電(WTE)は、未処理ごみの大量野積みや野焼きより遥かに進歩した方法です。
しかし、都市ごみの発生抑制・分別の徹底・情報公開・社会参加の仕組み――こうした地道な“上流対策”なしに、一足飛びの解決などありません。
中国式解決策にインドネシアは確かに期待できます。
それでも、「外部からの先進技術=正義」と短絡的に捉えず、“循環型経済”を根づかせるための賢い活用・国民参加型の意思決定プロセスを築くことが本当の持続可能な発展につながるでしょう。
おわりに:読者への問いかけ
今後のインドネシア、そして他の新興国が「ごみ危機」に向き合うにあたって、単なる“外部導入”ではなく、地域社会ぐるみでの分別インフラ構築や、最先端技術の持続可能な運用が肝要です。
私たち自身も、ごみ分別やリデュース・リサイクルの小さな一歩から、グローバルな課題解決へつながっていることを、ぜひ意識してほしいと思います。
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