この記事の途中に、以下の記事の引用を含んでいます。
「AIに任せる仕事が足りない」—驚くべき現場の新しい課題
AI、特にコーディングエージェントの進化が激しい昨今、多くの人が「機械に任せる仕事がなくなる不安」に思いを巡らせます。
ですが、今回取り上げる記事「The Tast Supply Problem」で語られているボトルネックは、意外や意外、「AIにやらせる仕事自体が足りなくなる」というものです。
以下に、その主張や背景をひも解いていきます。
「仕事の山」が障害になる?—記事の主張と印象的な一文の紹介
著者はこれまでのAI導入現場を次のように振り返ります。
“Until recently, the constraint on AI coding agents was capability. Could they understand the codebase? Could they write code that actually worked? Could they handle ambiguity without going off the rails? Those problems are rapidly being solved. The emerging bottleneck is having enough work to give them.”
(これまで、AIコーディングエージェントの制約は“能力”だった。コードベースを理解できるか?動くコードを書けるか?曖昧さに対応できるか?こうした問題は急速に解決されつつある。いま新たに現れている“ボトルネック”は、彼らにやらせる“仕事”が足りなくなることだ。)
つまり、AIが追いつめられるのは“タスクの在庫切れ”にある—という逆転した発想です。
また現場の実態として、
“Teams adopting coding agents report the same pattern: initial excitement as agents chew through well-written and tightly-scoped issues, followed by a strange new pressure—the pressure to feed the machine. The agents are waiting. What should they work on next?”
(AIエージェントを導入したチームでは、「仕様がしっかり書かれ、範囲が限定されている仕事」は高速に消化される。しかしその後「次に何をやらせるべきか、機械に“エサ”を与え続けなければ…という新たなプレッシャー」に悩まされる。)
と述べています。
なぜ「仕事が余っているのにAIには足りない」のか?—人間と機械、能力の“ねじれ”
一見、「AIに任せる仕事が尽きる」などナンセンスに思えます。
あらゆるソフトウェアプロジェクトには“やることリスト(バックログ)”が山のようにあり、毎日新しい課題や改善案が湧いてくるからです。
しかし著者は、「AIエージェントが自律的に大量の仕事を並行処理できる一方、『“きちんと食べられる仕様書”として仕事を仕立てる』のはあくまで人間にしかできない」――この根本的な能力ギャップが今のボトルネックだと説明します。
例えば、以前は
– 仕様書を書く時間:1時間
– 開発者が実装にかかる時間:1週間
というように、人間の準備の手間は全体作業のほんの一部(5%)でした。
ところがAIでは
– 仕様書作成:1時間
– 実装:数分
となり、急に下準備が全体コストの50%にも膨れあがる。
この“手間の逆転”が、予想以上に大きな壁になるという主張です。
AIが“自分の仕事”を作る日は来るのか?—現状と突破の鍵
このような状況を打開する道として、著者は
“The only way to break this ceiling is for agents to participate in task generation, not just task execution.”
(この“天井”を突破する唯一の方法は、エージェントがタスクの実行だけでなく「生成」にも関与することだ)
と断言します。
実際、現行のAIでもリポジトリ全体を分析し、
– 「未使用の死んだコードの削除」
– 「テストカバレッジ追加」
– 「依存ライブラリの更新」
など、“コード文脈”だけで提案できるやるべきことはすでに見つけられます。
ですが、それ以上の価値のある「本当に事業に効くタスク」(例:“エンタープライズ向け機能を作る前に認証フロー全体をリファクタしよう”など)は、組織の議論の経緯や、顧客の要望、過去に試して失敗したアイデアといった“文書化されず散逸した文脈”なしには提案できないのが現実です。
人間がSlackや会議録、雑談、コメント、過去の判断履歴などの非構造情報から“今、本当に大事なこと”を直感的にくみ取るのと違い、AIエージェントはそれら“社内にバラ撒かれている文脈”へのアクセスと同期が決定的に足りない――このギャップが「タスク不足問題」の核心といえます。
「仕様化コスト」の逆転現象が意味すること—現場で起きている変化の深掘り
AIエージェントの有効活用が進む現場では、かつて「7割方はエンジニアの実装コスト、仕様は数%」だった構図が逆転しつつあります。
たとえば、ある開発チームでは
- フロントでどれだけ仕様や要件を分かりやすくドキュメント化し、粒度をそろえておくか
- どのように会話や方針、組織全体の“なんとなく感”を機械に補完させるか
といった新たなスキルや役割が、ソフトウェア開発の生産性に直結するようになっています。
一方で、AIが「自動で自分の仕事も作る」時代になれば、人間の役割も“労働を自動化する担い手”から、“価値基準や目的意識、意味付けを定めるリーダーシップ”へとシフトせざるを得ません。
つまり、AI時代の知的労働現場では“仕事をどう細かく工程分割するか”——いわば“機械が食べやすい形で調理するスキル”が非常に重要になるのです。
私の考察:こうなる未来に備えて“人もAIも成長”が必要
記事の主張は極めて重要なヒントを含んでいます。
今、AIコーディングエージェントに限らず、
– 仕様の詳細化
– 意図の明文化
– コンテキスト整理
は、人間しかできない“ナルシステック”な仕事として残されています。
しかしこれは裏を返せば、
– ドキュメントの標準化
– 全データの横断的な連携・集約
– 意思決定プロセス自体の構造的記録
など「人にもAIにも使いやすい“文脈共有インフラ”」を開発できれば、機械の生産性は今の比にならないほど跳ね上がるということです。
現状でも、ChatGPTやClaudeといった大規模言語モデルは、非構造情報(非定型テキスト、要約、決算、議事録)の“情報抽出”にすでに驚くほど便利です。
これを社内のあらゆる業務データセットと結合し、「Slackもミーティングも議事録も説明資料も、すべて統合検索→AIが自動で“やるべきこと”を抽出」となれば、エージェントの自律的な価値創出が現実味を帯びてくるでしょう。
結論:「作業の供給」—AI時代にこそ問われる“仕事作り”の本質
AI導入の次なる生産性ブレイクスルーは「AIが何でもできる」ではなく、
『AIが“何を”やるべきかを自律的に見つけ、意味あるタスクへ細分化する』
という根本的な転換点にある——これが記事の一番根っこにあるメッセージです。
最後に、著者の一文を添えます。
“The next wave of productivity gains won’t come from agents that can do more. It’ll come from agents that know what to do.”
(今後の生産性向上の波は、“より多くできるエージェント”からではなく、“何をすべきか分かるエージェント”から生まれる。)
現場のエンジニア・企画・マネージャー、そして「AIと協業するすべての職種」にとって、「タスクを切り出し、意味づけ、誰でも再利用できる形式で残す」——この新たなスキルセットが、ますます重要になっていくのは間違いありません。
今後は、「AIも自分の仕事を提案し、時には“上司”と交渉までしてくる」ような時代が到来するかもしれません。
準備すべきは「技術」だけでなく、「人間とAIが情報を共有しやすくする組織文化と仕組み」なのです。
categories:[technology, business]

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