この記事の途中に、以下の記事の引用を含んでいます。
Himalayas bare and rocky after reduced winter snowfall, scientists warn
未曾有の「雪不足」──ヒマラヤで今、何が起きているのか?
皆さんは、「ヒマラヤ山脈」と聞いてどんな光景を思い浮かべるでしょうか。
真っ白な雪化粧をまとった切り立つ峰々、澄んだ空へと続く静謐な白の世界――多くの人が、そんな雄大な風景を連想するに違いありません。
しかし、その常識が揺らいでいます。
2026年1月12日にBBCが報じた英語記事
Himalayas bare and rocky after reduced winter snowfall, scientists warn
では、今冬ヒマラヤの多くの地域で「山々が裸同然で岩肌が露出している」という衝撃的な現実が伝えられています。
本記事では、このBBC記事の主張や引用データを紐解きながら、その科学的背景や社会・環境へのインパクト、そして私たちが学ぶべき教訓まで、専門家の視点と客観的データを交えて詳しく解説していきます。
まさかの変貌:“ヒマラヤの多くが、雪のない冬”
記事はこう警鐘を鳴らしている
今回のBBC記事の要点は、「ヒマラヤの降雪量が劇的に減り、山々が例年の雪化粧を失いつつある」ということです。
これは単なる一時的な現象にとどまらず、直近5年間で平均的な冬季降雪量が1980〜2020年の平均を大きく下回る年が続いている、と分析されています。
まず最もインパクトの強いのは、次の一文です。
“Much less winter snow is falling on the Himalayas, leaving the mountains bare and rocky in many parts of the region in a season when they should be snow-clad, meteorologists have said.”
(引用元: Himalayas bare and rocky after reduced winter snowfall, scientists warn)
「本来なら雪に覆われているはずの季節に、ヒマラヤの多くが裸同然、岩むき出しになっている」――この深刻な状況を気象学者たちは強調します。
さらに、過去40年間の気象データと直近5年間を比較すると、北西ヒマラヤでの降雪量は25%も減少したとされています。
また、春の気温上昇により降った雪もすぐに融け、標高の低い地域では雨が増えて雪が減る現象も加速しているのです。
“Using datasets from ERA-5 (European Centre for Medium-Range Weather Forecasts Reanalysis), Hemant Singh, a research fellow with the Indian Institute of Technology in Jammu, says snowfall in the north western Himalayas has decreased by 25% in the past five years compared to 40-year long-term average (1980-2020).”
(引用元: Himalayas bare and rocky after reduced winter snowfall, scientists warn)
更に着目すべきは、降雪だけでなく「積雪の持続性(snow-persistence)」も過去23年で最も低い状態にあるという、国際山岳開発センター(ICIMOD)からの調査報告です。
“雪不足”の本当の恐ろしさ──なぜ大問題なのか?
水資源・生態系・災害リスク…複合的に広がる影響
ここで、「単に山に雪が少ない」ことが、なぜこれほど大きなニュースになるのか疑問に感じる方も多いかもしれません。
ヒマラヤが世界の“水がめ”と呼ばれるのは、季節雪解け水がインダス川やガンジス川等の流域に生活する「十億人規模」の人々に水を供給しているためです。
その仕組みは以下のように説明されます。
“As temperatures rise in spring, snow accumulated during winter melts and the runoff feeds river systems. This snowmelt is a crucial source for the region’s rivers and streams, supplying water for drinking, irrigation and hydropower.”
(引用元: Himalayas bare and rocky after reduced winter snowfall, scientists warn)
冬に降る雪は、春以降ゆっくり解けながら土壌や川へと流れ、安定した水供給の“天然ダム”として機能しています。
もし積雪量や積雪持続日数が減れば、その春以降の水供給が突如“細る”リスクが跳ね上がります。
ICIMODの報告によれば、12の大規模流域の年間流水量の「約4分の1」が雪融け水によるものであり、その供給の安定性が少しでも揺らげば、水資源に頼る10億〜20億人規模の日常―農業や水道、発電—の現場が大きなストレスに晒されることになります。
加えて、降水(降雪+降雨)の不均衡が高まると、次のようなリスクも連鎖的に生まれます。
– 雪の代わりに乾燥した暖かい気候が進行 → 森林火災の頻発
– 雪や氷が“山肌のセメント”として失われる → 崩落・地滑り・岩石崩落リスクの増大
– 不安定な融雪湖の決壊 → 下流域での大規模水害
まさに、単なる雪不足ではなく、「一地域のシステム全体が根底から揺らぐ危機」なのです。
「異常」は一過性ではない? データが示す“構造変化”
既に始まっている“雪の干ばつ”とその兆候
記事ではさらに、「これらは突発的な現象ではなく、異なる複数データセットで冬季降雪の減少が恒常的に見られる」と専門家が指摘しています。
“”There is now strong evidence across different datasets that winter precipitation in the Himalayas is indeed decreasing,” said Kieran Hunt, principal research fellow in tropical meteorology at University of Reading in the UK.”
(引用元: Himalayas bare and rocky after reduced winter snowfall, scientists warn)
また単に積雪が減るだけでなく、「snow drought」という現象――冬期に雪が極端に少なくなる事例――が3,000~6,000mの中高度帯で顕著になっている点も問題です。
この標高帯は流域の水供給に最も寄与しており、ここでの雪不足は全流域への水ストレス波及が現実化しやすいと言えます。
実際、ICIMODの2024-25年冬季レポートでは、過去23年で最も低い積雪持続性(snow persistence)を記録したことが明らかにされています。
この傾向が今後さらに加速すれば、「“雪の干ばつ”」は例外ではなく“新常態(ニューノーマル)”になりかねません。
ここまで進んだ異変をどう見る? ――筆者の考察
地域の危機が、アジア全域のリスクに直結
記事から読み取れるのは、ヒマラヤでの雪不足が「地球温暖化」と直結しているという確かな因果関係です。
気温上昇による「雪ではなく雨」「積もってもすぐ融ける」現象は、日本アルプスやヨーロッパアルプスなど世界の高山地帯にも見られますが、ヒマラヤは規模と影響範囲が桁違いです。
日本流の「夏の水不足」のように、ヒマラヤ域では農業灌漑・発電・都市生活の全てを左右します。
しかも、インド・中国・ネパール・ブータン・パキスタンなど、複数国家の国民の生活を同時に直撃する構造的危機です。
気象・水資源という専門領域でいえば、過去を基準とした河川流量やダム設計、作物プランは、こうした「新常態」のもとで再設計を迫られます。
想像してみてください。
雪解け水が予定より早く枯渇すればダムの貯水率低下、それを見越した発電・給水量コントロールという難題が突きつけられる…。
また、ヒマラヤが不安定になれば、下流に当たる巨大都市群(デリーやコルカタ、ダッカ、カトマンズ、ラホール等)の水危機や“大洪水→感染症の蔓延”という最悪シナリオも現実味を増します。
最後に:私たちが考えるべき“持続可能な未来”へのヒント
ヒマラヤの雪化粧消失は、未来からの警告灯
本記事を通じて明らかになったのは、「ヒマラヤの雪不足」は単なる風景の変化ではなく、アジアの十億人を日常生活から命まで直撃する実存的リスクである、という事実です。
私たちが学ぶべき最重要ポイントは以下の2点です。
- 異常気象や温暖化の兆候は“いつか日本にも”ではなく、“既にアジア全体で起きている”現実である
- 自然システムの小さな変化が、複雑に絡み合った社会・経済リスクを一気に高める時代に入っている
現地政府や科学コミュニティは、データに基づく観測体制の強化や、異常事態を前提とした水管理・災害予測システムの再構築に動き出しています。
日本を含む周辺国にとっても、「対岸の火事」ではありません。
経済・外交・防災政策において、これらデータや事例の知恵をアジア広域でどう共有・連携するかが今後の鍵です。
そして、一人ひとりの市民も「地球の反応=私たちの生活の“明日”へのサイン」であると受け止めることが、持続可能な未来へ歩む第一歩になるのではないでしょうか。
あなたも、ヒマラヤの雪消失のニュースを“遠い異国の出来事”ではなく、“私たちの未来への警告”と捉えてみてください。
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