この記事の途中に、以下の記事の引用を含んでいます。
One criminal, 50 hacked organizations, and all because MFA wasn’t turned on
世界中で蔓延する「パスワードだけ」に頼る危険性――何が起きたのか?
今回私が紹介するのは、2026年1月に海外メディア「The Register」が報じた、重大な個人情報流出事件についての記事です。
タイトルにもある通り、この事件の核心は「MFA(多要素認証)が導入されていなかった」こと。
世界的な大企業から重要インフラ事業者、法律事務所、医療機関、航空会社まで、あらゆる分野の約50組織が被害に遭い、機密データや知的財産、個人情報がダークウェブ上で売買されるという衝撃的な事態となりました。
なぜここまで被害が拡大したのか?
そして、あなたの組織や個人はどう対策すべきなのか?
この記事の内容を紐解きつつ、いま目の前にある「認証対策」の本質的な重要性について深掘りしていきます。
「MFA」がなぜ、ここまで重要なのか――事件の概要と主張
同記事では、今回の被害について次のように指摘しています。
“Because the organizations listed below did not enforce MFA, the attacker walks right in through the front door,” the cybersecurity shop said in a Monday report. “No exploits, no cookies – just a password.”
(引用:One criminal, 50 hacked organizations, and all because MFA wasn’t turned on)
日本語訳すると、「これらの組織がMFAを徹底していなかったため、攻撃者は“正面玄関”から簡単に侵入できた。特別な脆弱性やクッキーの窃取すら必要ない。必要なのはパスワードだけだった」と述べています。
さらに、Hudson Rock社(イスラエルのサイバーセキュリティ企業)の分析によれば、被害者の一社であるProgress Software社のスポークスパーソンが次のようにコメントしています。
“these recent compromises of corporate file-sharing portals – including ShareFile instances – were not the result of platform vulnerabilities, but consistent with the use of credentials previously stolen from infostealer-infected devices,” … “appear to have involved the use of valid credentials in environments where multi-factor authentication was not enforced, which may have enabled unauthorized access.”
(引用:One criminal, 50 hacked organizations, and all because MFA wasn’t turned on)
要するに、「今回のファイル共有サービスへの侵害はソフトウェアの脆弱性が原因でなく、“infostealer”マルウェア(情報窃取型)に感染した端末から抜き取られた認証情報を使い、かつMFA未導入の環境だったから被害が拡大した」と明確に述べています。
MFA未導入企業に起きた“本当にあった怖い話”――被害規模の現実
なんとなく「MFAは大切」と思っていても、具体的にどんなリスクがあるのか、実感を持ちにくい方も多いのではないでしょうか。
今回の事件の特徴は、業界や規模を問わず“パスワードだけ”に依存した企業・組織が狙い撃ちされたという点にあります。
被害例(記事から抜粋)
- アメリカのPickett and Associates:米国大手電力会社の設計データ(139GB)がダークウェブで6.5ビットコイン(約58万ドル)相当で販売
- スペインのIberia航空:機密の航空機安全・艦隊情報(77GB)が流出
- トルコのIntecro Robotics:防衛産業関連の知財(11.5GB)が漏洩
- ブラジルのMaida Health:軍警察・家族の医療記録2.3TBがNextcloudサーバを通じて盗まれる
- 法律事務所Burris & Macomber:自動車訴訟データや顧客個人情報
特に注目すべきは、各社とも高度なファイル共有プラットフォーム(ShareFile、Nextcloud、OwnCloud等)を利用していたものの、「MFA未導入」だった点です。
どんなに有名なサービスや強固なインフラを使っていても、「入り口(認証)」が甘ければ“正規の鍵”で誰でも入れてしまう、という根本的な盲点があったと言えます。
ただの「パスワード盗難」では済まされない――「インフォスティーラー」時代の認証危機
今回の記事の本質は、侵入経路がいわゆる“ゼロデイ脆弱性”や複雑なハッキング技法ではなく、「infostealer」と呼ばれる単純な情報窃取マルウェアによるパスワード使い回しの横行にある点です。
実際、記事はこう警鐘を鳴らしています。
“The report illustrates the growing problem with infostealers, a favorite method of ransomware gangs and other financially motivated criminals. It also highlights the growing trend of criminals simply logging in – not breaking in – to cloud accounts, which security experts have been warning about for the past couple of years.”
(引用:One criminal, 50 hacked organizations, and all because MFA wasn’t turned on)
「入ってくる」ではなく「ログインしてくる」犯罪者。
このニュアンスが今のセキュリティの本質です。
技術者視点で補足すると、「infostealer」攻撃はRedLine、Lumma、Vidarなど比較的広まったマルウェアで、ユーザーが“うっかり”ダウンロードしたファイルに仕込まれているケースが多く、お膳立てとしては決して高度ではありません。
しかし一度抜き取られた認証情報は、何年も“保管”され、必要な時に好きなだけ悪用できてしまうのです。
そしてMFA(多要素認証)が未設定の場合、攻撃は「ただパスワードを入力してログイン」するだけ。
従来型の侵害検知やファイアウォールの枠を軽々と飛び越えてきます。
この構造的な脆弱性こそ、今回の事件の本質的な問題点といえるでしょう。
批評と考察:「なんとなく怖い」では済まない、“経営レベル”の問題
ここまで読んでみて、「またパスワードか…」「意識高い人がやることだよね…」と感じた方もいるかもしれません。
しかし、この事件が突き付ける現実はもっと根深いものです。
「MFA導入コストが高い」の呪い
私自身、企業ITコンサルティングの現場で「MFA導入に踏み切れない」理由として、“現場の負担感”や“コスト増”を真っ先に挙げる企業をよく目にします。
ですが、今回の被害額(数千万円~数億円単位)、信頼失墜、そして顧客情報や知財の毀損を考えると、その一時的なコスト感覚は破壊的に甘いものにすぎません。
事実、記事中にもこうした批判があります。
“It is time for organizations to enforce MFA and monitor their employees’ compromised credentials,” the security firm notes. We couldn’t agree more.
(引用:One criminal, 50 hacked organizations, and all because MFA wasn’t turned on)
つまり、もはや経営層が「面倒くさい」「いま被害は出ていないから大丈夫」と楽観すること自体が、ひとつの組織危機に繋がるといえるでしょう。
本質は「認証設計」と「人間の惰性」
もう一歩踏み込むと、深刻なのは「パスワード」そのものではなく、「認証設計」のアップデートが経営・現場レベルで徹底されていないこと。
たとえば、
– 社内ルール上はMFA必須だが実際には例外運用が多い
– 定期的なパスワード変更を怠っている
– 退職者や長期不在者の認証情報管理が甘い
– 重要度の高いシステムだけ選択的にMFAを導入し、他は野放し
こういったリアルな“人間の惰性”が、実は最も危険な“セキュリティホール”になっています。
個人ユーザーも「隠れ被害者」予備軍
また、企業だけでなく個人のクラウドサービス・SNS・メールなどでも、同様の“パスワード窃取→別サービスへの不正侵入”はすでに現実となっています。
この流れは今後、AIの進化、ビジネスのオンライン化加速によりさらに顕在化していくでしょう。
まとめ:今すぐ始めるべき「認証対策」――あなたの“明日は我が身”
今回の記事が私たちに突き付けているメッセージは、非常にシンプルかつ痛烈です。
「MFAを導入しない組織は、事実上“戸締まりのない家”である」。
どんなに壁やドアが頑丈でも、“鍵が一つしかなく、容易に複製されている”なら、侵入は時間の問題です。
読者の皆様へ“今すぐ”できるアクション
- 経営層・情報システム担当者なら、会社のあらゆるクラウドサービス、社内ポータルが「本当にMFA必須になっているか」棚卸しをしてください
- 従業員や個人利用者も、自身のGoogle、Microsoft、SNS等で「MFA(2段階認証)設定」がなされているか、再確認を
- 「パスワードの使い回し」は即日やめましょう
- 万一流出した場合の迅速なパスワード変更ルール、定期的なセッション無効化、退職者アカウント管理を組織ルールとして明文化
- 認証基盤のアップデート・自動化も検討する
これらは“他人事”ではありません。
今まさに、あなた自身や所属組織が次の「被害リスト」に載るリスクがあるのです。
セキュリティの入り口となる「認証」の甘さは、「今困っていないこと」こそ、最も危ない兆候です。
目を背けず、即行動に移しましょう。
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