トランプ政権の2025年国家安全保障戦略 ― その衝撃と変質を読み解く

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この記事の途中に、以下の記事の引用を含んでいます。
Breaking Down Trump’s 2025 National Security Strategy


世界を揺るがす「2025年国家安全保障戦略」―何が語られているのか?

2025年12月、トランプ政権が発表した新たな「国家安全保障戦略(NSS)」。
本稿は、ブルッキングス研究所による多角的な分析を題材に、その骨子と論点を解きほぐし、今後の米国そして世界にとっての意味を探ります。

なぜこの戦略文書が、これほどまでに国内外から注目を浴びているのか。
その意義と課題を、専門家の目線と筆者の独自解釈を交えてお伝えします。


“大国間競争消滅”と“アメリカ・ファーストの再定義” ― 記事が訴える新たな現実

まず本記事の研究者たちは、2025年NSSを従来型の国家安全保障戦略と明確に一線を画すものとして捉えています。
たとえば、欧州に対する攻撃的な文体や、ロシアとの関係正常化への露骨な欲求等、従来の米外交路線とは対照的な傾向が浮かび上がります。

“There is a lot to digest in the Trump administration’s National Security Strategy—from its needlessly offensive tone toward Europe to its astonishingly transparent desire to normalize relations with Russia.”

(トランプ政権のNSSには、ヨーロッパに対する無用な攻撃的な言い回しや、ロシアとの関係正常化に対する驚くほどあからさまな欲求など、消化すべき多くの内容がある。)

また、記事は「同盟の価値」「グローバル化の美徳」「アメリカの組織的指導力」への確信が、現代のワシントンから薄れつつあると指摘しています。
ウクライナ・ガザ戦争の混乱、中国との競争の巻き返し、そしてエリートへの反発…。
トランプ政権の戦略は、こうした「構造変化」に対応するものと説明されます。

特に、

“A future NSS—perhaps even under a Democratic administration—would likely retain some Trump-era themes: burden-shifting, criticism of global institutions, a narrower definition of U.S. interests, and the centrality of economic interests.”

(将来のNSSは、たとえ民主党政権下でも、負担の転嫁、国際機関への批判、米国の利益定義の縮小、経済利益の重視など、トランプ時代のテーマを保持するだろう)

と述べ、トランプ的世界観が今後も米外交の主流要素になっていく可能性を示唆します。


“大国間競争”はどこへ? ― 対中・対露戦略の劇的変化

従来、米国の安全保障戦略は「大国間競争(Great Power Competition)」を主軸に据えてきました。
ところが本NSSでは、これを中心課題から外し、むしろ“移民”や“経済的自己防衛”が主座に置かれます。

(引用:)

“The disappearance of major power competition as a US foreign policy priority”

(米外交政策の優先事項としての大国間競争の消失)

この変化には幾つかの構造要因があります。
1つは、中国との経済的相互依存が高まる中で「全面対決」路線のコストと限界があらわになったこと。
2つめに、人口動態や社会的な分断、テクノロジーの変化が、米国の伝統的な力の行使モデルを浸食していることが挙げられます。

たとえばロシア政策では、

“Russia’s responsibility for the aggression against Ukraine is omitted; instead, the Europeans are criticized for sabotaging the peace process.”

(ウクライナへのロシアの侵略責任が省略され、代わりにヨーロッパが和平プロセスを妨害したと批判されている)

といった記述がなされ、「敵対国を脅威認定するよりも欧州諸国に問題を求める」姿勢が明確です。

これは一見、「現実主義的」なのか「政権内部の親露路線」なのか、と賛否分かれますが、世界秩序全体への影響は無視できません。


“モンロー・ドクトリンのトランプ版” ― アメリカ南北大陸シフトとその危うさ

今回もっとも特徴的なのは、米外交の地政学的重心が「米州」に移された点です。
アジアや欧州よりも、ラテンアメリカやカナダ(しかもカナダはわずかな記述のみ)が強調され、その根底にはモンロー主義の現代版とも言うべき「トランプ補足条項」が敷かれています。

“The Trump administration’s 2025 National Security Strategy reorients the United States toward the Western Hemisphere and reiterates the Monroe Doctrine and a ‘Trump Corollary’ to it, essentially asserting a neo-imperialist presence in the region.”

(2025年NSSは、米国の関心を西半球に再方向付けし、モンロー・ドクトリン及びそれにトランプ版の補足条項を繰り返している。本質的には、地域における新植民地主義的プレゼンスの主張である。)

このため「移民の全面的阻止」「犯罪・麻薬と中国の影響排除」がラテンアメリカ政策の主軸となっています。
合法移民すら脅威視し、米軍の“テロ組織指定の有無にかかわらず南米全域のカルテルへの軍事攻撃”という、きわめて軍事的介入志向が強調されているのです。

さらに、カナダやメキシコに関しては、中国との貿易制限のみが言及され、歴史的な同盟国であるカナダへの配慮すら示されない点は注目すべきでしょう。


同盟国分断と欧州蔑視 ― “文明の消失”がアメリカの関心?

戦略文書において最も論争的なのは、ヨーロッパ諸国の扱いです。
従来“共に自由と民主主義を守るパートナー”だった欧州諸国が、今や「文明消失=civilizational erasure」の危機を自ら招いてるとみなされ、アメリカが「欧州の愛国的右派政党」を積極的に支持する姿勢すらにじみます。

“The document makes clear that the major transatlantic divide these days is not between the United States and Europe; it is between transatlantic liberals and transatlantic illiberals.”

(現在の大西洋間の溝は、米欧間ではなく、大西洋を挟んだリベラルと反リベラルの溝である、と文書は明示している)

ここには「伝統的な欧米協調体制=リベラル国際秩序」への根本的な疑念、さらには米欧の関係すら“イデオロギー的な条件付き”にしてしまう危うさが見受けられます。

この欧州戦略の急激な転換は、ヨーロッパ内部におけるポピュリストの伸長やEU分裂の懸念を一層強め、世界のリベラル秩序を根底から揺さぶる要素となるでしょう。


“経済こそ国力”―同盟こそが米国力の源泉ではなかったか

経済至上主義は、トランプ政権のNSSの中核にあります。
“Strength is the best deterrent,”(力こそ最大の抑止力)との気概のもと、経済的活力が軍事力の源泉であり、通商・金融・技術面での米国主導を押し出します。
その一方で、ここに過信と脆弱さが潜む点についても、ブルッキングスの専門家は鋭く警鐘を鳴らしています。

“America’s strengths are not permanent. They are the product of our ingenuity and policy discipline, and they can be degraded by our own decisions as easily as by external pressures…”

(米国の強みは永続しない。それは我々の創意工夫と政策規律の成果であり、自らの判断次第で簡単に失われうる)

この観点は、トランプ流の「関税乱用」や「同盟国への金融圧力」が、かえって米ドルの基軸通貨やサプライチェーン支配に揺らぎをもたらし、各国が“脱アメリカ”の動きを強めるリスクを示唆しています。

つまり、「経済的優位を短期的利益のために浪費するな」という忠告は、今こそ重要性を増しているのです。


“国際秩序・国際法”を切り捨てる危うさ

従来のアメリカの戦略文書が「国際秩序」や「ルールに基づく国際体制(rules-based international order)」の擁護を明言してきたのに対し、2025年NSSではこうした概念が完全に切り捨てられています。

“the 2025 National Security Strategy … drops the premium the 2022 National Security Strategy placed on ‘international order’ and the ‘rules-based international order’ as the foundation for global—including U.S.—peace and prosperity.”

(2025年NSSは、2022年NSSが重視した「国際秩序」や「ルールに基づく国際秩序」への優先的地位を取り下げている)

この変質は、「アメリカの行動の正当性を国際法に求めてきた外交手法」から、「米国の利害=唯一の行動基準」へと移行したことを意味します。
その帰結として、アメリカが自らのリーダーシップを正当化し、同盟国やパートナーを団結させる根拠が薄れていく懸念が生じます。
実際、アジア諸国の多くは“中国か米国か”の2択よりも「国際法に基づいた秩序維持」を重視する傾向が強く、この点の軽視は今後の日米関係やアジア戦略に影響を及ぼすでしょう。


見せかけの“抑制” ― 実像は拡張主義的“アメリカ・ファースト”

興味深いのは、トランプ政権自体が本作戦文書を「選択的介入」「コア国益優先」「無用な対外関与からの撤退」と称しつつ、その実態はむしろ「強硬な軍事力強化」と「グローバルなアメリカ優位の追求」である点です。

“Although the NSS describes Trump’s foreign policy as ‘pragmatic,’ ‘realistic,’ ‘principled,’ and ‘restrained,’ the strategy instead conveys the opposite: a vision of U.S. primacy and global dominance…”

(NSSは現実主義・抑制と謳うが、実際は、米国の優位と世界的支配のヴィジョンを伝えている)

「世界最先端かつ最強の軍隊を維持」「いかなる敵にも米国を脅かせない」とし、巨額の国防支出や新兵器(例:ゴールデン・ドーム)の開発投資を正当化しています。
これでは“抑制”どころか、「より硬質なアメリカ例外主義」とすら言えるでしょう。


批判的視点:現実の複雑さと戦略の“矛盾”

本NSSは“理念なき現実主義”と“政策上の矛盾”を孕んでいます。
「主権尊重」を謳いつつも他国への軍事介入を正当化し、移民への厳格さと「万人の自然権」の唱和、同盟の重荷を訴えつつ軍事主導の関与拡大を志向…。
理念と現実、掲げる価値と実際の行動がしばしば乖離している点は、多くの研究者が共通して懸念を寄せるところです。

一方で、専門家の間には「現実への調整としては避けがたい側面もある」との冷静な評価もあります。
たとえば、「負担転嫁」「経済安全保障」「技術力投資」などは、多くの米国民の“体感的現実”に根差しており、米国内政と密接に結びついています。

また、同盟国への過度な依存から「自立した欧米安全保障体系」へと舵を切ること自体は、長期的な集団安全保障体制の成熟とも受け取れます。

しかし、短絡的なイデオロギーや“文明的優越感”、排他的パートナー選別が長期的に米国の威信と外交的地位を損なうリスクを無視するのは危ういでしょう。


俄然問われる「アメリカ型リーダーシップ」の再定義―これからの示唆

2025年NSSの発表は、「アメリカ・ファースト」に代表される内向き志向と、現状維持への反発が頂点を迎えていることの証左でもあります。

読者にとって、この文書が示す最大の示唆は以下の点にあります。

  • 国際秩序や法の軽視は、アメリカ自身の基盤をも揺るがす
    「力」と「自己利益」のみを強調すれば、長期的には世界の信頼と同盟網を失い、かえってアメリカの力を減退させてしまう。
  • 多様で分断された世界における“リーダーシップ”とは何か?
    秩序維持の主体が不在となれば、対立の激化や“撤退後の混乱”は避けられません。
    それを補うビジョンや理念が求められています。
  • 経済、技術、社会全体を貫く“戦略的規律”の必要性
    「経済の強さ」も「技術の優位性」も、不用意な政策や内向き志向によって損なわれかねない。
    競争力の維持には、開かれた競争環境、健全な同盟・パートナー関係、そして持続的な自己更新力が不可欠です。

最後に、NSSはつまるところ「今のアメリカが世界にどう向き合おうとしているか、その精神状態を映し出す鏡」であり、実際の外交争点やリスクも、この内外ギャップの中から噴出してきます。
私たちは、こうした文書そのもの以上に「背後にある構造変動」と「理念と現実のズレ」に敏感でありたいものです。


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