この記事の途中に、以下の記事の引用を含んでいます。
『Nth Country Experiment』(Wikipedia)
「素人」でも核兵器は設計できる? 衝撃の冷戦実験
核兵器の開発といえば、極めて高度な専門的知識が必要で、ごく限られた技術大国だけが成し遂げられると思われがちです。
ですが、実は過去に「ごく普通の物理学者」が手に入る情報だけで核兵器を設計できるのか? という、危険かつ衝撃の実験がアメリカで行われていました。
その名も「Nth Country Experiment」。
冷戦時代真っ只中の1964年、アメリカのローレンス・リバモア国立研究所が主体となり、ごく新米の物理学博士に、あえて“非機密情報だけ”を与えて核兵器の設計を依頼したのです。
本記事は、なぜそしていかにこの実験が行われたのか? そして、その「驚きの結果」を通して私たちが核兵器と情報化社会について考えるべきポイントを、一次資料の引用を交えつつ分かりやすく解説していきます。
核拡散リスクの“実験的証明”―記事の主張を解き明かす
記事では、Nth Country Experimentの概要について以下のように述べています。
“The experiment consisted in paying three young physicists who had just received their PhDs, though they had no prior weapons experience, to develop a working nuclear weapon design, using only unclassified information, and with basic computational and technical support.”
実験は、兵器の経験が一切ない三人の新進物理学者たちに、非機密情報だけを使い、わずかな技術支援のみで、実際に機能する核兵器の設計を求めるというものでした。
さらに、このプロジェクトは約2年半続き、3人・年という労力で終了します。
その成果について次のように説明されています。
“a credible design for a two-point implosion-style nuclear weapon… judged likely that they would have been able to design a simpler ‘gun combination’–type weapon even more quickly”
チームは「二点起爆方式」の核兵器設計を実現し、もっと単純な“砲身型(ガンバレル型)”爆弾であればさらに短期間で設計可能だっただろうと評価されています。
この実験結果に対し、記事は「材料調達が最大の壁であり、設計自体は難題ではない」とも指摘します。
実験が映し出す「核開発のリアル」―なぜこれは重要なのか?
このNth Country Experimentは、核拡散防止の分野で知る人ぞ知る伝説的実験です。
注目すべきは2点。
- 設計の困難さが「技術力」でなく「情報の入手可否」と「材料調達」に大きく依存している
- 基礎知識と公開情報だけで、実戦レベルの核爆弾設計に至れる――情報化社会でこの壁はさらに低くなり得る
という深刻な核拡散リスクが、図らずも露呈したことです。
核兵器を「まだ保有していない国」=“Nth Country(第N番目の国)”でも、インフラや諜報能力が限定的でも、「設計図」は作れてしまう。
この実験は、核兵器開発が「一部のスーパーパワーにしかできない神秘的技術」というイメージを根本から覆しました。
核設計の「ハードル」とは何なのか?その本質に迫る
実験から半世紀が経ち、さらに世界中で技術文献・シミュレーションツール・計算機リソースやサイエンスコミュニティが高度に発展しています。
今ならば、同等以上の設計がもっと短期間で誰でも再現できてしまう危険が現実味を帯びています。
実際に記事中でも、
“Due to increased publicly available resources about nuclear weapons, it is reasonable to assume that a viable weapon design could be reached with even less effort today.”
現在公開されている情報が増加したことで、有効な兵器設計が以前より少ない労力で実現しうるだろう。
と述べられているのが核心です。
核拡散防止(NPT体制)やIAEAによる監視の枢要部分は、ウランやプルトニウムの「製造・入手・搬出」の統制であり、設計図や理論式の機密化ではない――これは専門家も常々指摘してきたポイントです。
「情報の壁」が低くなったいま、最も重要なのは、核分裂物質(核燃料)サイクルの厳密な国際管理と可視化。
それが、現代における核拡散防止の最後の防波堤であることは、Nth Country Experimentを知れば自明といえます。
「設計できても作れない」――本当か? 核開発技術の現実
ここで冷静に考えるべきは、「設計できても実際に兵器を組み立てるには別の壁がある」という主張です。
本当に、技術熟練やインフラに乏しい「小国」や非国家主体が、核兵器を短期間で持ちうるのでしょうか?
確かに、
- 超高純度のウラン235や兵器級プルトニウムを用意する
- 高精度の爆薬成形や、電子回路工学分野の知見
- 秘匿的な人的・物的リソースの維持
――これらは設計段階を大きく上回るボトルネックです。
ですが、科学知識・設計情報の拡散が進み、製造インフラや調達チャネルまで多様化する現代で、「だから抑止できる」と楽観するのは禁物です。
たとえば北朝鮮やパキスタン、イランなどの事例や、核関連技術を「個人レベルで持ち出す」ネットワークはいくつも可視化されています。
Nth Country Experimentの教訓は、こうした将来的潜在リスクを絶えず再評価・見直す必要性を、冷戦時代以上に私たちに示唆しているのです。
知識社会×拡散リスク―今、我々が得るべき教訓
結局のところ、このNth Country Experimentは「核兵器設計の民主化」そのものを証明した冷戦時代の警鐘です。
現代社会は、
- オープンサイエンス/オープンアクセス
- グローバルな技術ネットワーク
- 市販ツール・小型化技術の高度化
により、「必要な理論知識」が世界中どこでも瞬時にアクセス可能となりました。
ですが、核兵器の恐ろしさは、設計だけでなく、“作らせない”ための監視と国際協調の枠組みがあってこそ抑え込めているという現実にあります。
個人の科学的良心、市民社会の成熟、安全保障上の国際枠組み――その全てが揃ってようやく「核なき世界」へと一歩を踏み出せる。
Nth Country Experimentの記事は、いま我々が直面する情報社会と核兵器リスクの「交差点」に、鋭い問いを投げかけている、と感じざるを得ません。
まとめ――一枚の設計図が世界を変える時代に
Nth Country Experimentは、技術的な知識と「材料入手の困難さ」という2点に、核拡散防止の存立基盤があることを白日の下に晒しました。
- 『知識の革命』は、リスクの「民主化」でもある
- 技術進展は利便だけでなく、脆弱性も相乗する
- 安全保障は「現場の対策」+「根源的な倫理や法制度」の両輪でしか完結しない
核兵器問題は一見遠い海外の話に見えても、情報社会に生きる私たち自身のリテラシーの在り方にも直結します。
いま一度、「知識」と「倫理」、「抑止」と「規制」――N番目の国にならない備えを、集団的知恵で問い直すこと。
それこそが、この記事から得られる最大の気づきではないでしょうか。
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