この記事の途中に、以下の記事の引用を含んでいます。
What’s going on here, with this human?
はじめに:「人材をどう見抜くか」の本質論
ビジネスやチーム運営、さらには友人・パートナー選びまで、「この人はどんな人で、何をもたらすのか?」という問いは、極めて根本的かつ実践的なテーマです。
今回紹介・考察するのは、投資家であり膨大な人材評価・採用経験を持つGraham Duncan氏によるエッセイ「What’s going on here, with this human?」。
単なる採用ノウハウではなく、「人をどう見て、どう活かすか」を哲学的・体系的に掘り下げた示唆に富む内容です。
特筆すべきは、採用そのものや性格診断ツールに対する実践的知見にとどまらず、「自分自身をどう観察するか」「人を“文脈”でどう捉えるか」といった、普遍的な人間観・組織観にまで射程が及んでいる点です。
驚きの視点:「適切な質問」より「本質的な観察力」がカギ
本記事の冒頭でDuncan氏は、哲学者のAppiahの言葉を引用しています。
“in life, the challenge is not so much to figure out how best to play the game; the challenge is to figure out what game you’re playing.”
「人生における課題は“いかにゲームを上手くプレイするか”ではなく、“自分がどんなゲームに参加しているのか”を見極めることだ」との指摘です。
Duncan氏自身も、
“I see that for the last 25 years I have been playing a game of strategy applied to people, a game where over and over I try to answer the question ‘what’s going on here, with this human?’”
と述べ、何千人もの候補者を評価し続けてきた経験から、「目の前の人間で、今何が起きているのか?」を見抜くことこそが、人材判断の本質的なポイントだと訴えています。
ただの面接テクニックで終わらせない、「人間観」の構造
●“問いの質”だけでは足りない
多くの採用プロセスが「巧みな質問」「スキル見極め」「ロール定義」に力点を置きがちです。
しかしDuncan氏は
“what most people think of as the hard parts… are less important than a more basic task: how do you see someone, including yourself, clearly?”
と主張します。
つまり、「本当に難しいのは、“自分自身も含めて”、クリア(偏見や投影を極力排したまなざし)で相手を捉えること」なのです。
この指摘は鋭く、日本でも「自分の色眼鏡」に気づきにくいまま形式的な質問リストやテストに頼りがちな“面接ごっこ”が氾濫している実態に、警鐘を鳴らします。
●「自己認識=鏡」「文脈=水」「無意識=象」という3つの視点
Duncan氏は、人間観察・評価力を鍛えるには
- 自分自身のバイアスに気づく(鏡を見る)
- 相手の本質的な欲求や無意識に注目する(象を見る)
- 相手が置かれていた・置かれる文脈=環境を見抜く(水を見る)
という3層構造のアプローチが不可欠だと説きます。
たとえば、「象」の例えでは心理学者Jonathan Haidtのメタファーを用い、
“your conscious mind as the rider and your unconscious drives as the elephant…”
と紹介。意識はほんの“御者”でしかなく、本当は巨大な無意識の「象」が進行方向を決めているというのです。
さらに、「水」つまりその人が活躍してきた文脈・組織文化(“ecosystem”)への適応性や、そこでの体験によって発揮される特性も無視できない要素です。
たとえば
“I now believe that there is no such thing as an A player in the abstract…”
と語り、どんな“エース級人材”も、環境が変われば力を失うこともしばしば起きると指摘しています。
実践例で読み解く「人材を見抜く本質技法」
Duncan氏はこの「多層の観察法」を、具体的な質問や評価ツールを交えて解説しています。
●面接・リファレンスの現場から
- 「何を熱中してきたか」「自分を他人がどう形容するか」等の深掘り質問
-
「候補者に質問させる」ことの価値
質問力や知的好奇心、役割理解の深さを観察する材料に。 -
情報=「一次情報・二次情報」の重視
面接で得られる印象より、現場で長期間その人と接してきた他者(リファレンス)が語る具体エピソードに重きを置き、
「1時間の面談よりも、信頼に足るリファレンスの声が5倍、時に10倍の価値」と端的に語る点は極めて実務的です。
このような手法は、日本の転職・採用現場でも、「面接官の直感だけに頼る」「候補者自身の自己PRや印象操作に左右される」といった問題に対する実効性の高い突破口となるでしょう。
●自己観察を助ける「診断ツール」の賢い活用法
Duncan氏は
“I’ve taken well over thirty different personality assessments…”
と述べ、Myers–Briggs(MBTI)やBig Five(OCEAN)、Enneagramまで多様なツールを自ら試しています。
ただし彼自身「一つのフレームワークへの過剰な依存」を戒め、
“The risk of becoming too steeped in any one framework is you start to be ‘subject’ to that framework…”
とも警告します。
つまり、「診断は使い方次第」であり、多面的に自己・他者を観察する補助線、メタ認知のトレーニングとして活用すべきなのです。
●どんな人の“成功”も文脈依存
驚くべきは、「Aプレイヤーか否か」という二元論的な評価そのものが意味をなさないことを指摘している点です。
“there is no such thing as an A player in the abstract, across all time, in whatever ecosystem they end up in…”
実際、アップル小売の名マネージャであるRon JohnsonがJCPenneyに移ると“Cプレイヤー”になってしまった事例(アメリカ企業界隈では有名な失敗譚)を引き、「活躍とは環境×本人のマッチングでしか測れない」という原理を書き抜いています。
独自の考察:日本的組織文化・人材観との接点
彼の視点を日本のビジネス・組織文化に当てはめてみます。
●リファレンス重視はなぜ日本で難しいか?
欧米に比べ日本では、「リファレンスチェックの活用度が低い」のが現状です。
一因として
– 元上司や同僚が、シビアなフィードバックや私的見解を提供しづらい文化(和を乱さない配慮)
– 長期雇用慣行の名残として「転職者の評価情報」の流通経路が希薄
などが挙げられます。
ですが、Duncan氏のような「仲間選びこそ組織の命運」「直接的・正直なフィードバック文化の育成」の価値観は、
今後グローバル展開やプロジェクト型組織を重視する日本企業ほど、必須の視点でもあるでしょう。
●「メタ認知」トレーニングが採用者に不可欠な理由
例えば彼が自己観察ツールとしてあげるBig FiveやMBTI的な観点は、
採用担当者自身が「自分はどういう価値観バイアスを持ちやすいのか」という省察から始めるべきだという主張につながります。
この種の“メタ認知訓練”は、単なる面接ノウハウ本を100冊読むより現場力を高めるはずです。
●「優秀な人」より「マッチした人」を探す転換へ
最も示唆的なのは、「この人はウチでエースか?」という問いを捨て、「この人の強み×我が社の生態系が結節する“座”はどこか?」というマッチング型思考に切り替える提案です。
こうした転換は「総合職大量採用→配属ガチャ」という日本的大企業の旧来型モデルを壊す契機にもなりうると感じます。
結論:『「人を見抜く力」は、自分を知り、環境を見極めてこそ磨かれる』
この記事が私たちに与える最大の気づきは、「相手(あるいは自分自身)の本質を見抜くとは、“鏡”の自己観察、“象”の無意識理解、“水”の文脈認識の三位一体である」という点です。
形式論(質問事項やフレームワークの暗記)に堕することなく、
– 自分がどんな色メガネを持ちやすいか
– 相手の無自覚な思考・行動パターンは何か
– 本人の特質がどんな環境で最大化/最小化されるか
この3点を繰り返し省察・対話し、チームに取り入れていくこと。
それが結果として「一人ひとりが自分らしく活躍できる居場所=最高の組織作り」に直結する──。
Duncan氏のエッセイは、単なる採用ガイドではありません。
現代を生きるあらゆるリーダー、人事担当者、そして「仲間」「パートナー」選びに悩む全ての人に向けた、
“人間理解のアップデート”を促す必読の一篇だと断言できます。
ぜひ一読をおすすめします。
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