SteamによるLGBTQ+コンテンツのロシア検閲問題──企業の姿勢、グローバル化と倫理の狭間で

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この記事の途中に、以下の記事の引用を含んでいます。
Steam censors LGBTQ+ content on behalf of the Russian Government


ゲーム業界を揺るがすSteamの対応──「Flick Solitaire」検閲事件の舞台裏

ゲームプラットフォームSteamが、ロシア政府の要請を受けてLGBTQ+コンテンツを検閲・削除した事例をご存知でしょうか。

今回取り上げるのは、英国のFlick Gamesが開発したカードゲーム「Flick Solitaire」が、Steamでロシア向けにリリースされた直後に、ロシアの公式検閲機関であるRoskomnadzor(ロスコムナゾール)から「非伝統的な関係(=LGBTQ+の描写)」を理由に削除命令が届き、Steam側が即座にロシア国内から同ゲームを削除した、というニュースです。

一方で、AppleやGoogleなどの他プラットフォームはこの命令に応じなかった──という点も極めて象徴的な事件です。

「即対応」のSteamと「抵抗」した他社──異なる企業倫理

この記事によれば、Roskomnadzorは2025年10月末、「Flick Solitaire」がロシア連邦法(2006年の「非伝統的性関係促進禁止法」)に違反するとして、各アプリストア運営会社へ即時削除を要求。

“Apple, Google, and its web host were all sent CC’d emails with formal notices from the censor ordering the immediate removal of Flick Solitaire from their platforms.”

ここで注目すべきは、AppleやGoogleはこの命令に対し「無対応」または「ノーダメージ」でやり過ごし、依然としてロシア国内で同ゲームを公開し続けている点です。

一方のSteam(Valve)は、

“Valve’s storefront sent a message to the team saying that the game ‘was determined by Roskomnadzor to be in violation of Russian requirements for distribution.’ It immediately added a country restriction to Flick Solitaire to take it off the Russian store, without offering the developer the chance to appeal or contest the decision.”

と、即座にロシアユーザーからのアクセスを遮断。

しかも、その際には「Steamディストリビューション合意書に基づき、全ての適用法を遵守することをValveに約束したにもかかわらず」と開発元を非難する一文を添えています。

背景にある国際企業のジレンマ

この出来事の背景には、「グローバル・プラットフォーム企業としての法令遵守」と「多様性・人権への貢献」の間にあるジレンマが強く浮かび上がります。

ロシアでは2013年にLGBTQ+に関する“プロパガンダ”を禁止する連邦法が制定され、「未成年者への『非伝統的な性関係』の広報」を取り締まる名目で、様々なエンターテインメントやSNSが政府の監視下に置かれています。

企業は「現地法を守る義務」を持つ一方で、グローバルには多様性尊重や人権の観点から強い批判も受けがちです。

GoogleやAppleの対応は、「国外企業の本社が国外法に直接従う義務はない」という立場の現れ。
対照的にValveは「現地法を尊重し、現地ユーザーへのサービスを維持するために政府要請に速やかに応じた」とも解釈できます。

Steamの「すべてを許可する」方針の限界——オートクラシー(独裁)的な法運用の影響

Steamは一般的に「違法及びトローリングでない限り、あらゆる内容を許可する」という寛容なコンテンツポリシーを標榜してきました。

しかし、

“its content moderation policy – which allows ‘everything’ on its store that isn’t defined as ‘trolling’ or ‘illegal’ – is a gift to autocrats who have weaponised the law to achieve their ends.”

との指摘が示す通り、一国が「LGBTQ+コンテンツの“違法化”」を通じて、自国利用者のみならずグローバルなサービスにまで自国ルールを強制できてしまう、という現実が露呈してしまいました。

本来“表現の自由”や“多様性への開放性”を担保するはずの寛容方針が、むしろ人権抑圧的な国の検閲制度の“道具”と化す危険性があります。

しかも記事内では、

“It bans LGBTQ+ content in Russia when ordered to by the government, while censoring sexual content in the West under pressure from payment processors. But it won’t block blatantly Russian-backed disinformation games like Squad 22: ZOV, unless a country has passed laws to ban specific propaganda…”

と、Steamが“検閲・削除”の実行基準を各国の「法」と「決済会社(民間ビジネス圧力)」に依存している不安定さが批判されています。

コンテンツ審査・削除の「一貫性」や「透明性」は確保されておらず、「もっとも声が大きい(あるいは罰則の強い)」権力に従ってしまう構造です。

表現の自由・多様性・倫理的責任──私見からみる課題と今後

筆者は、今回のケースが単なる一国の法令遵守問題を超え、“グローバルなIT企業がいかにして人権問題や多様性と向き合うべきか”という難題を突きつけていると感じます。

企業は法を守れという社会的義務を持ちますが、法自体が差別的/抑圧的である場合、そのまま従うことは倫理的責任や企業理念と衝突します。

AppleやGoogleのように“応じない”ことで法的リスクを背負う、もしくは公共の圧力を利用して「現地法の修正」や「国際ルールの標準化」を目指す道もあります。

一方、Steamの選択のように「即時削除」「開発元への責任転嫁」を行うやり方は、短期的には法的トラブルを回避しやすい反面、自社姿勢の不透明化と批判の的となります。

また、「説明責任」と「開発者やユーザーとの対話」のないまま決定を下す姿勢は、コミュニティの信頼を損ないます。

プラットフォームビジネスが拡大すればするほど、「どこまで現地法を取り入れ、どこまで企業理念を守るか」という判断はよりクリティカルかつ困難にならざるを得ません。

日本市場・アジア圏での含意

この問題は、日本を含むアジア圏でも他人事ではありません。仮に、今後日本政府が特定のコンテンツに不寛容な法的規制を設けた場合、グローバルプラットフォームはどのように対応するべきでしょうか?

各プラットフォームが「抜け道」としてユーザーに推奨するVPN利用や、アカウント国籍を偽る手段には当然リスクがつきまといますし、根本解決とはなりません。

子供向け/青少年向け規制(例:オーストラリアのSNS利用年齢制限)、国外宣伝規制(例:中国の“外国影響力制限”)など、各国固有の規制と多様性尊重理念の衝突はますます深刻化していくでしょう。

まとめ──プラットフォームの「公共性」と現行ルールの限界

この事件は「国ごとの異なる倫理観や法令」に順応することと、「国際的な企業倫理や多様性」「表現の自由の防衛」といった価値観の間に横たわる大きな溝を明らかにしました。

また、ゲームやデジタルコンテンツが“ただの娯楽”の域を超え、社会的/政治的な意味を帯びてきた時代においては、プラットフォーム事業者の透明性・一貫性・説明責任は極めて重要です。

開発者、ユーザー、そして規制当局自身が「なにが正しい選択なのか?」を問い直し、業界自主規制や国際的ガイドラインの策定も急務となるでしょう。

Steamの今回の対応は、今後の議論のたたき台として貴重な先例になるはずです。

自分たちが利用・応援するプラットフォームが「誰に、どの価値観に、どの基準で従っているのか?」を、いま一度ユーザー自身も問い直す時が来ています。


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