この記事の途中に、以下の記事の引用を含んでいます。
Kilowatts or connections? Trump’s favored nuclear startups soar to riches
核融合か、コネか?――驚異の急成長スタートアップとトランプ時代の新たな力学
アメリカでは今、原子力産業に異変が起きています。
大統領ドナルド・トランプの再登場とAIデータセンターの「電力爆食」時代を背景に、ごく短期間で億万長者を次々輩出する新興原子力スタートアップが続出しているのです。
しかし彼らが誇るのは最先端テクノロジーや実績ではなく、ホワイトハウスや保守派有力者との“太いコネクション”。
本記事は、そうした「コネ資本主義」的現象がアメリカの原子力イノベーションと投資にどのようなインパクトを与えているかを、豊富な事例と共に解き明かします。
原子力という高規制・高ハードルな産業において、政治的パイプが企業評価や資金流入、規制当局の対応にどこまで影響するのか。
また、その波紋が社会や投資家・技術開発にどんなリスクと恩恵を生むのか。
読後には、ビジネスと政治が交差するこの最前線の「危うい現実」が、決して対岸の火事ではないことに気付くはずです。
空前の成金伝説、その実態は「元大統領人脈」――記事が指摘する主張と引用
冒頭から刺激的な実例が示されます。
“The fledgling Texas company Fermi America has yet to produce an electron, split an atom or survive the torturous gantlet of regulatory and manufacturing obstacles required to build a nuclear reactor. But investors are betting big that the Trump administration will help Fermi turn from a glossy, aspirational marketing brochure into a cutting-edge nuclear operation to meet the rapacious energy needs of AI data centers. So much so that they catapulted its founders into the ranks of the world’s richest men a few months after Fermi filed paperwork with regulators to build the ‘Donald J. Trump Advanced Energy and Intelligence Campus.'”
テキサスの新興企業「Fermi America」は、未だに電子を一つも生み出していません。
核分裂すら未経験、むしろ運転免許取得前のレーサーのような立ち位置です。
それにもかかわらず、投資家たちは“トランプ政権の後押しがあるなら”と一気に巨資を投下し、創業者たちは規制申請から数ヶ月で世界有数の富豪に名を連ねたというのです。
こうした異常な評価拡大はFermiに限りません。
記事では「Oklo」「General Matter」「Valar Atomics」など、いずれもトランプ政権やその側近、巨大ドナー(Peter Thiel、Palmer Luckeyなど)と深い関係を持つ企業群が次々紹介されています。
これらの企業は、従来の「実績」や「ビジネスモデルの完成度」ではなく、「政治的コネ」でキャピタルゲインを爆発的に獲得し、規制当局の承認や各種インセンティブを競うように獲得していると強調されています。
“Fermi’s corporate blueprint, d’Ornano said, essentially signals to investors “we have no proven execution capabilities in this field but what we do have is a team of politically connected people who make us believe attaining the needed regulatory clearance should not be too much of a problem.””
投資アナリストd’Ornano氏はこう皮肉ります。
「実行力は証明されていないが、政権と強固なパイプを持つメンバー構成ゆえ、規制クリアは(楽勝だと)投資家は信じて疑わないのだ」と。
ITバブルの再来か、核の危険なラッシュか? 社会的背景と現象の意味
この現象の背景には、2つの大きな潮流があります。
一つはAI(人工知能)データセンターの異様なエネルギー需要増大です。
業界関係者によれば、もはや既存の発電インフラでは追いつかず、原子力が唯一の「即効性ある大量電力」と目されている現状があります。
二つ目がトランプ政権による「原子力ルネサンス」政策。
産業界・ハイテク富豪層と政治エリートの間で“原子力解禁”のムードが盛り上がる中、規制の緩和や公的資金の多額投入、既存企業よりスタートアップが有利に働く人事・制度の再設計まで起きています。
こうした環境下で「実績ゼロ・リスク大」の新興企業でも、政権中枢との近しささえあれば次々に巨額資金が押し寄せ、株式評価が爆騰(単に創業者の家族や政界人脈がいるだけで数ヶ月で数十億ドル規模)。
しかも、事業進捗のみならず従来の産業格差や安全規範すら飛び越えて「一発逆転」を狙う“投資ゲーム”が現実化しています。
この現象は過去のバブル経済――特に90年代後半ITバブルや、2000年代前半の住宅ローンに端を発する金融バブルと類似性を感じざるを得ません。
当時もまた、「テクノロジーさえあれば」「ネットワークが爆速で増殖する時代」と囃し立てられ、実体の薄いスタートアップに巨額の資金が集まりました。
だが、AIや原子力は、そこに伴う物理的・倫理的リスク、社会的な安全基準が「IT以上に無視できない」点で決定的に異なります。
このため「夢と現実のギャップ拡大」が重大な社会的コストや安全リスクを孕む構造なのです。
“夢”か“危険先走り”か? 成功と失敗両方の実例――考察と批評
1. 政治コネ=早期上場&突発的富豪化の現実
記事では、FermiやOkloなどが「上場後わずか9ヶ月で創業者一族の紙上資産が5億ドル~20億ドルに激増」といった具体例を挙げています。
“The combined net worth on paper of Toby Neugebauer and his father […] surged to $5 billion when he and the Perrys took their company public nine months after forming it. Griffin Perry, the son of the former Texas governor, saw his net worth grow to $2 billion, according to Forbes.”
「法案署名前に株価急騰」「規制申請だけで数十億ドル」「現実の稼働ゼロ」…まさにドリームマシン状態です。
だが、同時に「企業の実体」や「安全性」は二の次で投機が先行。事実、Okloの幹部は自社株をかなりの頻度で売却し利益確定に動いていたと、コンサルタントが分析しています。
このような売り抜け(インサイダーによる換金先行)は、典型的な“バブルの兆候”であり、持続可能性に疑問符を残します。
2. 規制の緩和が生み出す“新型リスク”――安全審査の骨抜き
注目すべきは、規制当局(NRC)とエネルギー省(DOE)の連携・分業で「本来独立した安全審査」が政治的にコントロールされている点です。
“Some of the independent agency’s traditional safety reviews for projects such as Oklo’s reactor will be handled instead by the Energy Department, which is led by political appointees. The NRC and the administration signed an agreement in October saying that safety ‘risks that have already been addressed in DOE review’ will not be revisited by the NRC.”
従来、安全審査はNRCが独立実施してきましたが、本記事によるとDOEの(=政権の意向が強く及ぶ部署)の判断を部分的に“鵜呑み”する形で外部審査を簡略化。
これでは、危機管理や透明性、科学的検証プロセスが骨抜きになるリスクが急上昇します。
実際にValar Atomicsの「5分保持でCTスキャン並みの被曝」など、専門家が即座に危険を指摘しているにもかかわらず、会社側は具体的な反論やデータ開示を「後で説明する」とはぐらかすのみで済んでいます(結果として外部からの安全検証が事実上困難)。
3. スタートアップ信仰と失敗の歴史――なぜ“ゼロからの大躍進”が繰り返されるのか?
記事は、「従来型大手(BWXTやWestinghouse)こそ過去数十年の原発納入実績や技術信頼があるが、投資家は“政権べったり”なスタートアップに見向きもしない現状を嘆いています。
一方で、過去にも南部ジョージア州やサウスカロライナ州での原発新設が「数年遅れ・数十億ドルの予算大幅オーバー・一部詐欺で経営破綻」といった惨憺たる失敗例があることも記事は念押しします。
新興企業の創業者が「過去の失敗(例:Glorifi)」すら「インスピレーションになった」と自賛している点も皮肉的です。
“反グローバル・反リベラル”なムードやネット人気を狙った事業設計の危うさが見て取れます。
悲喜こもごもの原子力スタートアップ、そこから私たちは何を学ぶべきか?
政治と規制の「短絡」が日本にも警鐘を鳴らす
こうしたアメリカの事例を見て、「やっぱりアメリカ(特にトランプ政権)は特殊だ」と他人事にせず、日本や他国でも「政権と産業」「投資家と規制当局」「大規模インフラへの投機バブル」の関係に警戒が必要です。
特に原発やAI領域のように「安全・倫理・社会的コスト」が突出して大きい分野では、政治主導による規制の骨抜きや、株式評価膨張だけが暴走する構図が続けば、社会全体に深刻な禍根を残しかねません。
一方で、従来の“官僚主導”“大企業主導”のみでは進まなかったイノベーションや規制改革の芽もまた、確かに生まれつつあります。
そこにはスタートアップ的ダイナミズム、次世代技術への挑戦、カリスマ的起業家によるパラダイムチェンジといった正の要素も認めざるを得ません。
つまり、「政治コネ頼み」の暴走や“夢物語”だけが先走る状況には十分な批判的視点・ファクト重視の検証力を持ちつつ、
同時に変革のスピードや創造性も最高レベルでバランスを取る必要があるのです。
結論:バブルの果てに残るもの――カネと政治と科学の三つ巴
AIと原子力という超巨大市場の淘汰戦、トランプ政権の規制緩和バイアス、スタートアップ経済の光と影――。
この記事が映し出すのは、過剰な「コネ頼み」が生み出す一時的な資本の集中と、それに潜む制度的脆弱性、社会的コストの蓄積です。
原子力のような安全が極めて重視される分野で「政権中枢への通路=イノベーション実現」の方程式が続けば、一歩間違えば取り返しのつかないリスクも同時に内包されるでしょう。
ただ、日本や世界の読者として学ぶべき最大のポイントは、
「政治」「資本」「技術革新」のトリレンマにおいて、どこか一つの短絡――特に“政権との近さ”だけによる評価と成長――が突出しすぎることの危うさです。
同時に、社会の価値観や規制の意義とは何か、科学的・倫理的な検証とスピード化(イノベーション推進)の最適バランスとは何か、絶えず問い続ける視点が不可欠です。
短期ではバブルがもたらすキャピタル・ゲインや事業加速に目を奪われがちですが、その先に「何が社会に残るのか」「本当にリスクが制御されているのか」を見極めながら、新しい時代の産業変容に向き合うべきでしょう。
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