この記事の途中に、以下の記事の引用を含んでいます。
Open Printer is an open source inkjet printer with DRM-free ink
問題提起:なぜプリンターは“閉じて”いるのか
私たちが日常的に使うプリンター。
けれど一度使い始めると、多くの人が「純正インクしか使えない」「故障したら修理が難しい」「ソフトウェアが制限だらけ」など、不満を感じた経験があるのではないでしょうか。
プリンターメーカー各社は、独自の技術や規格によってユーザーの選択肢を制限し、高額な純正カートリッジを使うよう強制することでビジネスを維持してきました。
しかし、この“閉じられた”環境は、コストや環境面、そして所有者の自由という面で無視できない課題を生んでいます。
そんな中、従来の“当たり前”に真正面から風穴を開ける新製品として登場したのが、「Open Printer」です。
オープンソースプリンター、革命の狼煙
パリを拠点とするOpen Tools社が発表したOpen Printerは、開放性と修理性、ユーザーの自由を追求した新たなインクジェットプリンター。
この記事ではこう紹介されています。
“The Open Printer features a modular and highly repairable design, and while it uses the popular HP 63 cartridges, it lacks DRM blocks that lock out third-party cartridges. It also allows printing on paper rolls, so you can either use the in-built cutter to make A4 sheets, or print longer items like banners.”
(Open Printerは、モジュール式で高い修理性を持ち、人気のHP 63カートリッジを利用しつつ、サードパーティカートリッジを排除するDRMがない。また、ロール紙への印刷も可能で、内蔵カッターでA4に切ることも、さらに長いバナーの印刷もできる。)
この主張は、“オープンソースの精神”をプリンター市場に持ち込むものとして極めて画期的です。
単なる「コスパのいいプリンター」ではなく、「誰もが自由に使い・修理し・拡張もできる」ユーザー主権のハードウェアだ、と言い換えることもできます。
プリンター業界の現実:“純正囲い込み”とその弊害
なぜこの製品がこれほど注目に値するのか。
実はプリンター業界は、スマートフォンの世界の“脱Google/脱Apple”と同様に、“選択肢の少なさ”という深刻な問題を抱えています。
DRMによるカートリッジロック
“Printer companies (and HP is most notorious for this) embed chips and firmware in their printers and cartridges, which help authenticate whether a cartridge is genuine and disable use if it isn’t. Third-party suppliers who make identical cartridges (or provide refillable modifications thereof) try to find workarounds to thwart these locks with varying levels of success, and that issue is precisely what the Open Printer will sidestep.”
(プリンターメーカー各社、特にHPは、カートリッジとプリンター本体にチップやファームウェアを組み込むことで、純正かどうか認証し、非純正なら使用をブロックする。サードパーティ製造業者は様々な工夫でこれを回避しようとするが、Open Printerはそもそもその問題自体を回避できる。)
一般消費者にとって「自分で選んだ安価なインクを使いたい」と考えるのは自然な要求のはず。
しかし現実には、最新のプリンターほど“カートリッジロック”が厳しく、安価な互換カートリッジでさえ動作しない事例が続出しています。
逆に、DRMのせいで動作しない不具合が頻発し、ユーザーサポートを混乱させている皮肉な面さえあります。
“修理する権利”の観点から
ハードウェアの多くは、「修理コスト>新品価格」となりやすく、そして設計そのものが分解や修理を前提としていません。
オープンプリンターが「modular and highly repairable design」としている点は、まさにこの潮流(Right to Repair / 修理する権利運動)への実装例としても価値があります。
斬新な仕様と設計思想――使い手に“自由”をもたらすディテール
Open Printerの特徴をさらに具体的に整理してみます。
1. 既成部品&ラズパイ活用――ハッカーのおもちゃにも
“it’s ‘built with standard mechanical components and modular parts’, which should simplify assembly, modification, and repair. In fact, the printer runs on a Raspberry Pi W board.”
これは、DIY愛好家や教育現場にとっても魅力です。
通常のプリンターがブラックボックス化しているのに対して、「標準部品」「自作可」「全部見せます」という姿勢。
しかもRaspberry Pi W搭載ですから、ネットワーク機能やカスタム制御など、“ちょい足し改造”が容易です。
2. ロール紙対応&カッター内蔵
“it can print not only on standard A4 and A3 sheets, but also on 27 mm wide paper rolls. There’s an integrated cutter that’ll cut the roll into A4 size, but if you have a longer longer format printing job like a banner, then that’s possible too.”
通常のプリンターでは比較的珍しい、ロール紙・長尺印刷対応。
更にハードウェアカッターまで内蔵し、A4オンデマンド化も。
同人誌印刷や業務用ラベル、イベント用バナー制作など、「標準プリンタの限界を超えたい」層には大きなインパクトです。
3. ワイヤレス&物理UIの両立
“there’s a small LCD screen and jog wheel for basic controls, but wireless connectivity via Wi-Fi and Bluetooth are available, so you can send print jobs from any laptop or phone without tangling with those pesky cables.”
アナログな操作パネルと、現代的なWi-Fi/Bluetooth対応。
用途や好みに合わせて使い分けられます。
パーソナルユース・学校・SOHOなど、「とにかく煩わしい設定が嫌」というニーズにも応えるものです。
4. スマートな外観で壁掛けも可能
プリンター=“大きくて邪魔”という先入観を、50x10x11cmのスリムな筐体で裏切ります。
壁掛け時の見た目は、まるでキッチンペーパーホルダーのよう。
これは省スペース&導線効率にも優れています。
業界構造を揺るがすインパクト――従来型メーカーとの決定的な違い
Open Printerの意義は、“単なるガジェット好きの玩具”にとどまりません。
むしろ「ユーザーとメーカーの力関係を逆転させる」というテクノロジー史的な意義さえ感じます。
フェアフォンとの類似性
“Think of it as the printer-equivalent of the Fairphone 6.”
“オープン”で“修理可能”な思想をスマートフォン界で実践したFairphoneの名が引き合いに出されるのは象徴的です。
あちらは「サステナビリティ×脱囲い込み」の象徴、そして今回のプリンタも同様のポリシー。
ハードウェア分野の多様化・民主化は、こうしたプロダクトの登場なくしては進みません。
“誰でもカスタム出来るプリンター”が広げる可能性
プリンターの世界では、“標準外”は排除され、「今ある形に従え」という不文律が支配的でした。
しかし、もしOpen Printerのような製品が普及すれば、
– 使い方も拡張も、ハードもソフトも「自分仕様」にできる
– 学習・研究向け素材として新たな価値創出
– 中小事業者や個人クリエイターのコスト圧縮
– ハッカブルなハードとしての“技術伝播”
など、多方面に“副次効果”が拡大します。
覆されつつある「所有の意味」――私たちはどう向き合うべきか
ここで少し視野を広げてみます。
1. “プリンターは消耗品”の常識に再考を
これまで多くのプリンターは「壊れたら買い換える」「ちょっとした故障も直せない」「寿命の先はゴミ箱」。
Open Printerが示すのは、「自分で直し、改造でき、長く使う」という新しい所有体験です。
サステナビリティやエシカル消費が叫ばれる時代、これは資源の無駄を減らす現実的な選択肢でもあります。
2. ユーザー/コミュニティ主導の発展余地
オープンソースハードウェアの特徴は、「改良や新機能はユーザーコミュニティから生まれる」こと。
Raspberry Piエコシステムや3Dプリンタ界隈の爆発的発展が好例です。
既存メーカーが提供しない「こんな機能があったら」をユーザー自身が設計・共有できる世界。
プリンターにもその流れが到来するかもしれません。
3. “DRM抜き”の意義と今後の課題
一方で、DRM(デジタル著作権管理)の不存在は、「便利」と「リスク」の両面があります。
「粗悪インクによる故障やトラブル」なども、サポート範囲の問題として浮上するでしょう。
とはいえ、知恵と経験値の高いユーザー層に向け、「自由と責任」をセットで提示する設計思想は、これからのガジェットに不可欠だと感じます。
まとめ:Open Printerが拓く“もう一つの選択肢”、その先へ
Open Printerの登場は、「プリンターとは何か」「メーカーとユーザーはどう関係を結ぶのか」という本質的な問いを投げかけます。
しばしば“地味”な存在として扱われがちなプリンターですが、その裏側に眠る社会構造や所有観、そして自由と制約のせめぎ合いは、思いのほか深いものです。
Crowd Supplyで近くクラウドファンディングが始まるとのことで、価格や発売時期など詳細は未発表ですが、日本からも大きな注目が集まる可能性は十分。
もしあなたがプリンターの“当たり前”に疑問を感じているなら、この製品の動向をチェックしてみてはいかがでしょうか。
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