この記事の途中に、以下の記事の引用を含んでいます。
The power of anime: using anime for education and outreach in STEM
アニメがサイエンス教育を変える日が来た!?
「アニメの力をサイエンス教育や普及活動に活かす」というテーマは、近年ますます注目を集めつつあります。
今回の論文は、米国最大級のアニメコンベンションAnime Expoでの実践や、アニメを用いたSTEM(科学、技術、工学、数学)教育の事例、さらにはアニメが持つ社会的・文化的影響力にまで話が及んでいます。
サイエンス教育の現場で、アニメがどのように活用され、どんな成果が見られているのか。
教育現場・研究者・アニメファン・一般の保護者──幅広い読者にとって新しい気づきをもたらすテーマといえるでしょう。
本記事では、論文内容を要約するだけでなく、その深層にある意義や、今後の日本社会・教育現場での示唆も交えつつ、徹底的に解説します。
論文が訴える「アニメ×STEM教育」の本質──現場の声とデータから
まず、この論文で最も重視されているのは、アニメが「若い世代へのSTEM教育・啓発の強力なツール」になりうる、という点です。
具体的には、Anime Expoのような大規模イベントで学術パネル(JAMS: Journal of Anime and Manga Studies)が開催され、「The Physics of Anime(アニメの物理学)」という科学トークイベントが大盛況だった事例に基づき、アニメ活用の効果を次のように述べています。
Pre- and post- “Physics of Anime” panel surveys administered at the AX 2025 JAMS symposium revealed a strong preference for using anime to teach Science, Technology, Engineering, and Mathematics (STEM) concepts, especially among the current target demographic (20–30-years-olds). Overall, the majority of the survey participants expressed greater comfort with the subject matter.
つまり、パネル前後のアンケートを通じて、20〜30代中心の層に「アニメでSTEM分野を教えること」への積極的な支持・関心が示されたこと、そして「科学を学ぶ上での心理的ハードルが下がった」という手応えがあった、という主張です。
なぜアニメが“科学のハードル”を下げるのか?──文化・心理・コミュニティの観点から読み解く
この論文の面白いところは、単なる「人気コンテンツだから使いましょう」以上の文化的・社会的背景にも光を当てている点です。
1. アニメは“共通言語”として機能する
アニメそのものが世界中で“共通言語”となっており、若年層だけでなく、世代・教育・職業を横断したコミュニティがイベント会場で形成されています。
Anime conventions attract patrons from diverse generational, educational, and professional backgrounds, presenting a unique opportunity for public scholarship and for generating enthusiasm for science education.
このように、アニメは分野や国境、さらに専門性の壁までを越えて“共感”や“対話”の土壌をつくりやすいという強みがあります。
特定の科学分野だけでは到底得られない多様な人材と、普段接点が無い若い層へのアプローチが自然に行える点は、大きな武器です。
2. 社会運動やメンタルヘルスとの実践的な結び付き
驚くべきは、アニメが単なる娯楽だけでなく、社会変革や精神的支えとしても機能してきた事例の豊富さです。
Anime yields a real-world power in its ability to unify people. During the 2011 student protests in Santiago, Chile, protestors were encouraged to contribute their “spirit energy” in a battle for guaranteed access to quality education … A pre-recorded message from Goku’s voice actor was played, calling out to the crowd – “Listen to me everyone–it’s me, Goku. A strange force is putting the educational life of Chile’s inhabitants in danger. I’d like to request a bit of each of your energy so that every young person in this country can be guaranteed access to free, quality education. All you have to do is lift your hands”
2011年チリの学生デモでは、「ドラゴンボールZ」ゴクウの“元気玉”を象徴的に用いて、教育改革を求める大規模な連帯行動が展開されました。
日本のみならず海外のプロテストや、自分自身を勇気づける「メンタルハック」としてアニメは社会的役割まで持っています。
また、コロナ禍においてもアニメやコスプレを通じたオンライン交流が社会的孤立やメンタルヘルスの維持に大きく寄与した、という報告がありました。
3. 「科学への馴染みやすさ」が劇的に向上
実験的なパネルイベントの結果、「科学は難しい」「自分とは関係ない」と感じていた層が、アニメ経由で科学をグッと身近に感じるようになった、というデータも示されています。
Of the 177 responses, 67% reported that they found science more accessible after attending the panel, while 33% did not change their opinion. None of the respondents reported that science became less accessible after the panel presentation.
「科学がより身近になった」と回答した参加者が67%もいたというのは驚くべき効果です。
この「アクセス可能性の向上」こそ、教育の現場で最も求められている成果といえます。
アニメが科学教育に“使える”理由を深掘り──米国イベント事例と日本社会への応用可能性
ここからは筆者視点で論考を深めます。
教育現場でのアニメ導入はなぜ議論されてこなかったのか?
「ポップカルチャー=教育的ではない」という“暗黙のバイアス”は日米共通の課題です。
論文内でも、カリキュラムが持つ「堅い文化資本」(habitus)が、教師や生徒にポップカルチャー導入の発想や実践を妨げていると指摘されています。
The ingrained “habitus” of their curriculum suppressed the inclination to use popular culture in education … as it has some influence on how students perceive and interact within their environment.
この課題に、アニメという媒体が風穴を開ける可能性は極めて大きいと考えます。
事実、「The Physics of Superheroes(スーパーヒーローの物理学)」や「The Physics of Anime(アニメの物理学)」のような題材で、参加者の興味関心や学習モチベーションが大幅に向上したデータは説得力があります。
なぜ科学(STEM)分野にアニメが“特に”有効なのか?
筆者が注目したのは「アニメの多くがサイエンスフィクションや超能力モノなど、“科学技術”をテーマにしている」点です。
登場人物に科学者やエンジニアが多く、“現実の科学原理”解説の導入部として最適です。
論文では、アニメ「Dr.STONE」や「STEINS;GATE」の科学描写や、ガンダム、マクロスなど「科学者・技術者」が主要キャラとなる作品、スポット的例として「AKIRA」のバイクを磁気加速・リニアモーターで解説するアプローチなどが挙っています。
また、「アニメでは女性や性的少数者など多様なキャラが科学分野で活躍している点も特長」だという指摘もあります。
これは欧米コミック・映画と比較して先進的で、STEM分野の「ジェンダーギャップ」克服やロールモデル提示につながると評価できるでしょう。
実際の「授業・パネルイベント」の構成と成果
「The Physics of Anime」パネルの構成は、単なる一方的な講義ではありません。
- 代表的なアニメやキャラクターのエピソードをつかって物理原理(相対性理論、量子力学、エネルギー保存則等)を解説
- 解説後は20分弱の“オフィスアワー”として、質疑応答・進路相談・アニメ作品紹介まで相談可能
- 参加者アンケートの効果測定も実施
アンケートに回答したうち、「アニメを題材にした理科のフルコースがあるなら受けてみたい」と答えたのは79%にものぼります。
さらに、「イベント後に科学が身近に感じられるようになった」と答えた人が7割近くを占めており、「科学の壁を下げる」有効なプロセスが検証されています。
どうすれば日本の学校や社会でも実現できるか?──その示唆と課題
日本は“アニメ大国”であるにもかかわらず、学校教育やサイエンスアウトリーチでアニメを積極的に応用する取り組みは(記事執筆時点では)欧米に遅れているのが現状です。
記事でも強調されていますが、「日本やヨーロッパには学術パネルを持つアニメコンベンションが存在しない」こともその証左です。
Currently, there are no anime conventions in Europe or Japan that host academic tracks coordinated by academics.
この現状を打破し、アニメ×STEM教育を広げていくための日本社会への応用課題・ポイントをまとめます。
1. 「学び」と「エンタメ」を対立させず、融合する土壌形成
- 教育関係者の“アニメ/マンガ=遊び”というステレオタイプからの脱却
- 学校・行政がアニメやマンガ業界と協働するプラットフォーム設計
2. 大規模イベントやオンラインでのサイエンスパネル開催を推進
- コミックマーケットやアニメジャパンなどで大学・研究者・教育系NPOとタッグを組み、科学パネルや実験イベントを公式プログラム化
- オンライン配信やアーカイブの蓄積で障壁をさらに下げる
3. 多様性やジェンダー観点からのロールモデル提示
- 女性・LGBTQキャラや科学者キャラの登場作品を活かし、「科学者=おじさん」イメージの刷新
- 実在の科学者・工学系女子・発明家などとコラボ企画
4. フィードバックループと効果測定
- 事前/事後アンケートやワークショップ後レビューを標準化し、行政や教育現場への知見還元
- eラーニング×アニメ教材の共同開発
批評的視点──“アニメ万能論”を避けるための注意点は?
アニメは強力なツールになり得ますが、もちろん万能薬ではありません。
論文にも記載されていますが、以下のような課題・注意点にも目を向けるべきです。
- “ポップカルチャーの参照”がすべての生徒にとって有効とは限らない(例えば、移民やアニメ未視聴者には逆に排除的に感じられることも)
- 作品選び(女子・マイノリティ偏重、またはバトル中心など)によって教育メッセージが偏る危険性
- 学校教育で使う際は著作権・倫理ガイドラインの策定も不可欠
このあたりは日本型の“生真面目”な学校文化、あるいは親世代の価値観ともぶつかりやすい分野です。
ただし、その壁も「まずはやってみて効果測定と修正を繰り返す」ことで乗り越えられる部分が大きいでしょう。
まとめ──アニメは“科学”を「自分ごと」にする最高の入口
アニメという共通言語・文化資本が、科学(STEM)教育や普及活動の現場に「楽しさ」「わかりやすさ」「身近さ」をもたらすことは、今やデータとしても証明されつつあります。
論文本文が示したように、「アニメは科学や技術の話題へ興味関心・参加意識・アクセスの障壁を下げ、人々を対話と学びへ巻き込むゆるやかな場」を生み出します。
日本は本来、その“文化的アドバンテージ”を最も持つ国の一つです。
学校教育に限らず、サイエンスイベント、地域振興、多文化共生、DX人材育成──さまざまな分野でアニメ×STEM教育のポテンシャルはまだまだ活かし切れていません。
- 「STEM教育は理系・エリートのもの」という古い印象からの脱却
- アニメやマンガを通じて“科学の壁”を下げる機会の設計
- 身の回り・自分の推しキャラの疑問から物理やテクノロジーを楽しく学ぶ
こうしたチャレンジが、“科学を一部の人のもの”から“みんなのもの”へと変える力になります。
興味のある教育者や研究者は、論文で紹介された「The Physics of Anime」パネルの運営プロセスやアンケート設計などもぜひ参考にしてみてください。
(参考)
categories:[society, science, 学習・スキル]

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