この記事の途中に、以下の記事の引用を含んでいます。
Clay Christensen’s Milkshake Marketing (2011)
常識破りの発想法!ミルクセーキから学ぶ“ジョブ理論”とは
「顧客は商品やブランドを買うのではなく、“ある目的”(=ジョブ)を果たすために、その商品を“雇う”のだ」──この意外性ある発想こそ、本記事で紹介されているクレイトン・クリステンセン教授らが提唱する“ジョブ理論(Jobs-to-be-done理論)”の中核です。
このコンセプトは、商品開発やマーケティング界で年々注目度が高まっている理論です。
従来の「顧客セグメント」や「製品機能」にとらわれない着想は、プロダクトマネジメントや事業戦略に新しい風を呼び込んでいます。
従来のマーケティング常識に異議あり!クリステンセン教授の提言
記事の冒頭では、以下のような指摘があります。
“The fact that you’re 18 to 35 years old with a college degree does not cause you to buy a product,” Christensen says. “It may be correlated with the decision, but it doesn’t cause it. We developed this idea because we wanted to understand what causes us to buy a product, not what’s correlated with it. We realized that the causal mechanism behind a purchase is, ‘Oh, I’ve got a job to be done.'”
(「あなたが18〜35歳で大卒であることは、商品購入の“原因”にはならない。購入の“相関関係”はあるかもしれないが、“原因”ではない。私たちが知りたかったのは、何が商品購入を引き起こすのか、その“因果メカニズム”だった。そして『やらなきゃいけないジョブがあるから買う』という仕組みこそが、購買行動の根本だと気づいたのだ。」)
つまり、従来のセグメンテーション(年齢や性別、機能やブランドで顧客層を切る手法)は、購入理由の”相関”しか明らかにしないと指摘しています。
本質的に「なぜ買うのか=原因」に迫るには、顧客がどんな“仕事(ジョブ)”のために商品を選んでいるのかを把握することが決定的だと主張されています。
朝のミルクセーキに秘められた真実!“雇用される”商品たち
クリステンセン教授のMBA授業の中で語られる“ミルクセーキの雇用”エピソードは、ジョブ理論の威力を端的に物語っています。
記事中、こんな場面が登場します。
“He discovered that 40 percent of the milkshakes were purchased first thing in the morning, by commuters who ordered them to go. The next morning, he returned to the restaurant and interviewed customers who left with milkshake in hand, asking them what job they had hired the milkshake to do.”
(「彼は、ミルクセーキの40%が朝一番、通勤客によってテイクアウトで購入されていることを発見した。次の朝、彼はレストランに戻り、ミルクセーキを持って帰る客に『どんなジョブを果たしてもらうため、ミルクセーキを雇ったのか?』と訊ねた。」)
これまでのマーケティング部門は、“理想のミルクセーキ像”(例えば「もっと濃厚に」「もっとフルーティーに」など)をリサーチし、レシピ改良に励んでいました。
ですが売上は伸びなかったのです。
なぜなら、朝の通勤客にとって“雇われている”ジョブは「片手で長く飲めて、朝の通勤時間が退屈しないこと」「お腹もちがよく、車内でこぼしにくいこと」だったから。
この“ジョブ”を理解しなければ、どんな改良も的外れだったのです。
“用途”や“動機”に目を向けよ!ジョブ理論の真価
ミルクセーキの事例で際立つのは、顧客が「商品そのもの」ではなく、「果たしてくれるジョブ」に価値を感じている点です。
たとえば、朝の通勤客にとって、バナナやドーナツ、ペットボトル飲料等も候補でしたが、「退屈で長いドライブにぴったりな食べ物」という“ジョブ“に、最もマッチしたのがミルクセーキだったのです。
この論点は従来の製品開発と大きく異なります。
機能追加や性能向上に固執しがちな「作り手目線」ではなく、顧客の“課題解決”や“利用シーン”を徹底して内在化する「顧客目線」の徹底。
これこそがジョブ理論の最大の強みです。
実はこのアプローチ、昨今の「カスタマー・ジャーニーマップ」や「デザイン思考」に通じるものでもあります。
あらゆる業種の製品・サービス企画に適用可能であり、顧客の“不満”や“未充足ニーズ”の発見につながるのです。
既存手法はもう古い?ジョブ理論が投げかける挑戦状
記事は、「One-size-fits-all」の従来型分析に痛烈な批判を投げかけています。
顧客の年齢や年収、学歴に合わせて商品や広告を“最適化”する発想は、たしかに直感的にも分かりやすく、マス・マーケティング全盛時代には一定の効果がありました。
しかし、現代はニーズや行動パターンが急激に多様化しています。
たとえば、同じ年齢・職業・年収でも「朝、息子を保育園に送っていくついでに車内で小腹を満たしたいシングルマザー」と「30分の郊外通勤で退屈しのぎを求めるサラリーマン」では、選ぶ商品・サービスが全く異なります。
「属性」ではなく「どんなジョブを果たしてほしいのか」に着目する視点こそ、持続するイノベーションの源泉だと言えるでしょう。
また、消費財だけでなく、SaaS(クラウドサービス)や金融商品、アパレル、教育サービスなど、あらゆる業種に応用できるのもジョブ理論の強みです。
無視できない“現場起点”の重要性——ジョブの観察こそが鍵
クリステンセン教授らが当初の調査方法を変更したように、現場や顧客の日常行動の“観察”を徹底する点が極めて重要です。
多くの企業では、アンケートやフォーカスグループに頼りがちです。
しかし、本当の「ジョブ」は、本人すら気付いていない潜在的な動機やシーンに現れます。
たとえば私の知る企業でも、お客様インタビューから「ソフトウェアAでやりたいこと」ではなく、「いまは面倒だけど、こうできればスムーズになるのに」といった“未充足ジョブ”を丁寧に拾い上げることで、新たなプロダクト改良に結びついた事例が多々あります。
ジョブ理論の落とし穴と課題点
一方で、ジョブ理論にも限界や課題はあります。
第一に、「ジョブの定義の粒度」が難しい点。
あまりに抽象的すぎると、具体的な商品やサービス設計に結びつきませんし、逆に細かくしすぎると全体像が見えなくなります。
また、「ジョブ発見」には地道な観察と仮説検証が必要なため、即席で使いこなせる万能のツールではありません。
さらに、顧客の感じる“ジョブ”自体も時代やライフスタイルの変化に従い進化します。
プロダクトサイクルのどこかで陳腐化する可能性もあるため、継続的な“顧客ウォッチ”が不可欠です。
結論:あなたの“本当の顧客”は誰なのか?深堀りしよう
クリステンセン教授のミルクセーキ事例が示唆するのは、「顧客=属性やターゲット像」ではなく、「顧客=今目の前で“特定のジョブ”を果たしたがっている人」なのだということです。
企業がイノベーティブであり続けるためには、「今ある製品の機能をどう良くするか」より、「この顧客の“やりたいこと”は何か?」「それを最も効果的に叶える方法は何か?」という根源的な問いかけが不可欠です。
【あなたが今日売っている商品・サービスは、“誰に”、どんな“ジョブ”を果たすために雇われているのか?】
この問いを、日々のプロダクト企画やマーケティングミーティングで問い直すことが、競争力のカギになるはずです。
一見当たり前に思えるこの視点こそ、実は見落とされやすい“真のイノベーションの種”なのです。
categories:[business]

コメント