この記事の途中に、以下の記事の引用を含んでいます。
A Programmer’s Guide to Leaving GitHub
「エンジニアの出ていく波」,その本当の意味とは?
近年、海外のプログラマー界隈では「GitHub離れ」に関する記事が目につきます。
とりわけ、2020年代後半に入り、個人・団体を問わずGitHubから他プラットフォームへの移行例や、「脱GitHub」を実践する声が確実に増加傾向にあります。
本記事「A Programmer’s Guide to Leaving GitHub」も、その流れの一環で書かれたものです。
この記事は単なる「移転のお知らせ」に留まらず、「なぜGitHubを離れるのか」「ボイコットという手法の歴史的・社会的文脈は?」「技術的にはどう進めるべきか?」を、著者本人が思考と調査に基づいて掘り下げています。
背景にあるのは、多様な理由――ソフトウェアの自由、商業的大企業に対する抵抗、社会的責任、そして実務的な効率――です。
この動きの意義を、単なるトレンドやポーズとしてではなく、現代の技術者がどう判断すべきか、深く考察します。
ボイコット、抗議、自衛 ― 記事が示す「脱GitHub」運動の現実
著者は「自分も今週末、全てのパーソナルプロジェクトをGitHubから移行する」と宣言しながら、その理由に各種の抗議運動が絡む現実を説明します。
特に注目すべき引用は次の通りです。
“The ‘Give Up GitHub’ campaign kicked off in 2022. The Software Freedom Conservatory … organized this. They cite how the GitHub platform itself is closed source software, instances of Copilot spitting out verbatim GPL code (a form of plagiarism), and fears over Microsoft’s reorganization of all of GitHub under a ‘CoreAI’ product division. They also point to GitHub’s 2020 contracts with ICE, the controversial and violent immigration police here in the United States.”
“The Free Software Foundation since at least 2024 have told the free software community to move projects off of GitHub to apply pressure on Microsoft, pointing again to Github’s proprietary server code, as well as Microsoft’s decision to require computers running Windows 11 to have a ‘Trusted Platform Module’; I’ll let the FSF post explain why you might want to protest that.”
“The Palestinian BDS National Committee upgraded Microsoft from a ‘pressure’ target to a ‘priority’ boycott target in 2025, describing Microsoft as ‘perhaps the most complicit tech company’ in Israel’s apartheid. … Then, in 2025, Microsoft terminated Azure services for a subagency of the Israeli military called Unit 8200; … they used Azure to process millions of intercepted phone call recordings from Palestinian civilians to determine where to fire lethal airstrikes in Gaza. …”
この引用部分は、ソフトウェアの倫理的利用、クラウドサービスの社会的影響、巨大テク企業による社会的責任の回避など、複数の問題点を網羅しています。
問題の本質 ― GitHubをターゲットとする合理性
1.「移行しやすさ」という現実的メリット
プログラマーの多くは、オープンソースの小規模プロジェクト(パーソナルなもの)でGitHubを利用しています。
著者も指摘しているように、
“For independent programmers, I think it’s incredibly simple and straightforward to move your personal open source projects off of GitHub. … Unlike quitting, say, Instagram or TikTok, which centralize and tightly control content discovery, the network effects keeping projects on GitHub are substantially weaker.”
つまり、GitHub上の個人プロジェクトなら、他のプラットフォーム(例:Codeberg, Gitea, SourceHutなど)へ容易に移せる実用的なメリットがあります。
これは「巨大なネットワーク効果=移行不能」という思い込みを覆すものでもあります。
2. 無償利用でも「価値の提供者」
多くの人が見逃しているのが、「GitHubにホストすること自体が利用者の“価値”を作っている」という点です。
“by putting your personal projects on GitHub, you are providing them a valuable service! … they find it valuable nonetheless, and I think this small amount of value matches the very small amount of effort it takes to move most of your code somewhere else.”
SNSと同様、巨大なエコシステムには「ユーザーが価値を提供している」という側面があり、それが商業的利益を生み出します。
たとえ個人のアカウントが小さくとも無視できない価値供給者になるのです。
3. 技術的な「腐敗」と体験の低下
Microsoftによる買収(2018年)以降、GitHubのUIや機能品質が徐々に悪化している指摘もありました。
「2.5秒かかるトップページロード」「直感的でない設定画面」「挙動の怪しいGitHub Actions」など、
日常的な使い勝手の観点からも離れる十分な理由が挙げられています。
4. 「反逆の伝統」と現代的な運動
オープンソース文化は元来、ハッカー精神と商業的権力への警戒心が根強い世界です。
しかし、現代的には「個としての抵抗」だけでなく、「広範な連帯的ムーブメント」としての効率性・有効性も重視されています。
“I’m trying to play a tiny part in a large and global movement that already has momentum, made up of people who have never been burdened by the words ‘rebase merge conflict’ before.”
個人の小さな動きが、グローバルなうねりの中で有意なインパクトに組み込まれる可能性が現実化しているのです。
ボイコット戦術の現実解――効果的な抵抗の条件
著者は単なる倫理的感情論や“完璧主義的潔癖症”には与しません。
実効性ある抵抗の条件として、次のポイントを列挙しています。
-
「的を絞る」ことの重要性
“Target just a handful of companies with the most egregious violations, and in the common situation where you have complaints against all major vendors offering some service, don’t boycott all of them.”
移行可能な「もっとも問題が大きい」企業に焦点を当てて抗議する戦略の有用性です。 -
「動機の交差点」を活かす
気候・人権・ソフトウェア自由など、異なる運動の連帯が抗議力を増幅させると指摘しています。 -
「具体的な要求」と「公的アナウンス」
結果の見える要求設定(例:ICEやIDFとの契約解除)は、ゴールの曖昧な抗議より遥かに効果的です。
また、静かに去るよりも理由を公開してアーカイブやREADMEを残す方が波及効果を高めます。 -
「潔癖主義」を恐れない実用主義
“Don’t worry about perfection”と言う通り、自分のプロジェクトだけで始められる移行や、完全にはGitHubを断ち切らなくてもよい現実的運用も容認しています。
技術移行の現場感――他プラットフォーム、どう使い分けるか
記事の後半は、実際に移行する際のプラットフォームやスクリプト、運用ノウハウの調査・比較となっています。
著者が挙げた主要な代替案と感想を要約します。
- Centrally hosted
- Codeberg(NPO):GPL, FOSS向け
- SourceHut(営利, 独立):AGPL
- Gitea(小規模スタートアップ):MIT
-
GitLab CE(上場企業):MIT, 一部機能制限
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Decentralized/Federated
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Tangled, Radicle(新興、分散型プラットフォーム)
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Self-hosted
- j3(著者自作)
- Gerrit(Google)、Gogs(個人開発)
それぞれ一長一短があり、用途や開発文化に応じて選択肢は多様です。
特徴が顕著なのはパッチベースのコードレビュー。
「GitHubのようなブランチ駆動型Pull Request」ではなく、「各コミットを逐次修正して積み上げるパッチ型」(Gerrit/SouceHutなど)との違いも明快に述べられています。
さらに、実際のリポジトリ移転手順、コマンド群、READMEへの移転理由記載法もbashスクリプト付きで詳細に解説されています。
(コード例は省略しますが、移行を検討する技術者は本記事末尾のAppendixをぜひ確認してみてください)
「GitHubスター=影響力」は本当か?ネットワーク効果を冷静に分析
多くの開発者が「GitHubでないと自分のプロジェクトが埋もれる」「他所では注目されにくい」という直感を抱くはずです。しかし著者は自身の経験から次のように指摘します。
“Assuming it’s even your goal for your project to get discovered by others (for most of my projects it is not!) I think your side project will likely reach orders of magnitude more people on Bluesky, Twitter, or your personal blog than they will via GitHub. GitHub stars are a good sign of social proof, but I would argue they don’t serve this role substantially better than stars on Codeberg.”
実際、ブログ記事で紹介したことで一気にスターが増加したエピソードから、ネットワーク効果の限界・相対的な幻想性をきちんと批判しています。
本当に重要なのは、「どのプラットフォームか」より「どこでどのように発信するか」です。
自分なりの考察 ―「行動の波及」と、選択の自由
この記事が優れている点は、イデオロギー過剰な潔癖論や情緒的な「脱XX!」に陥らないところです。
むしろ、「できることから現実的に動きつつ、その積み重ねが大きな流れや企業行動を―時には消費者運動のように―変えていく力になる」という歴史的視座が貫かれています。
抗議やボイコットの実効性について私は慎重な立場ですが、「利用者一人の声は無意味」という思い込み自体が、巨大な営利サービスに自治的制約を加える芽を摘むものです。
法的・倫理的問題(Copilotの知財、ICEやIDFとの倫理的関係)を前に、「我々は“消費者”である以上にその価値供給者である」ことを自覚し、自らのサービス選択権・抗議権も正当に行使してよいはずです。
また、Githubの囲い込みやUI劣化に窮屈さを覚える現代の技術者は、「戻れる時代」や「新しい仕組み」を自ら選ぶことそのものが、オープンソースカルチャーの原初的なアイデンティティ回復につながるでしょう。
「今、GitHubを離れるべきか」−読者への示唆
プログラミングの世界では、とかく新しいツールや流行りのプラットフォームに”流されがち”です。
しかしこの記事は、「自分がどんな価値をどこに供給しているのか」「自分の技術活動・社会活動をどう捉えるか」というメタ的な自己点検を、今一度問い直すきっかけを与えてくれます。
- 自分のプロジェクトはどこに属しているべきか?
- 利便性と倫理観、どちらを優先するか?
- 「微細な抵抗」が積み重なる事実を信じられるか?
- プラットフォーム選択が「組織」「文化」「歴史」の一部であると捉えられるか?
こうした思考は、個人レベルの生き方にも、プロダクトや会社・コミュニティのあり方にも波及するはずです。
「脱GitHub」はゴールではありません。
自分の作品・時間・倫理観をどこに置くか――その主体性を問い続けることこそ、ソフトウェア開発者にとって最大の「自由」なのだと、この優れたエッセイは語っています。
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