世界が注目する「膵臓がん撲滅」の新戦略──CNIO研究グループがマウスで完全治癒に成功

science

この記事の途中に、以下の記事の引用を含んでいます。
Group at CNIO eliminates pancreatic tumours in mice


驚きの一報――「治療抵抗性」を超克するトリプル療法

今回ご紹介するのは、スペイン国立がん研究センター(CNIO)の研究チームがマウスを用いた実験で膵臓がん腫瘍の完全かつ持続的な消滅を達成した、というニュースです。

膵臓がん――特に「膵管腺がん(PDAC)」は、非常に予後が悪く、発見時には手の施しようがないことも多い「最悪のがん」として知られています。

記事によれば「Current drugs for pancreatic cancer lose effectiveness within months because the tumour becomes resistant.」とある通り、近年登場した分子標的薬でも「耐性」がすぐ生じてしまい、治療の大きな壁となっていました。

そんな中、CNIOのバルバシッド博士らのグループは、KRAS経路を3箇所同時に阻害するという“トリプル療法”によって「the tumours disappeared permanently.」つまり腫瘍が永久的に消失したことを報告しています。


従来の常識を覆す「3点同時ブロック」戦略

今回の研究成果の本質は、KRASという腫瘍増殖のエンジン役となる遺伝子経路を「1か所」でなく「3か所」同時にターゲットにした点にあります。

KRASは膵臓がん患者の実に9割で変異が認められる超重要因子ですが、これまでの阻害薬では効果が一時的なものにとどまっていました。

それに対し「The strategy pursued by the CNIO group has been to block the action of the oncogene KRAS at three points, instead of just one…」との記載のように、「一本の梁も3点で支えれば壊れにくい」と比喩されるほど、この3重の“ブロック”構造が新しいパラダイムを案出しています。

さらに、この3点ブロック戦略を実現するために用いたのが、
– 実験段階のKRAS阻害薬「daraxonrasib」、
– 肺がんの治療薬としてすでに承認されている「afatinib」、
– タンパク質分解促進剤「SD36」

という異なる作用メカニズムを持つ3種併用だったことも、知見として極めて価値があります。

結果として、3つのマウス膵管腺がんモデルで「a significant and lasting regression of these experimental tumours was induced without causing significant toxicities」と、安全性にも配慮しつつ長期効果が得られました。


画期的成果、その社会的・医療的な意味

この成果がなぜ「世界的に注目されるべき」か、背景を整理してみます。

膵臓がんという“特殊な難病”

  1. 罹患者数は多くないものの(スペインだけで年間10,300例)、
  2. 多くが進行してから発見されるため、診断後5年生存率が「10%未満」と極めて厳しい
  3. 従来50年にわたり大きな治療進歩がなかった

――まさに「救えないがん」の代表でした。

分子標的薬が登場しても、「KRAS阻害薬は、一時的に効果が見られてもすぐ耐性化する」というジレンマが続いていました。

その治療抵抗性が、「三重の抑え込み」で突破できたという今回の報告は、PDAC治療の新時代の扉を開く可能性を秘めています。

マルチターゲットの有効性が示唆する今後の展開

これまで「シングル標的」の薬(OneDrug→OneTarget思考)が中心でしたが、多くのがん細胞は複雑にネットワークされたシグナルの「逃げ道」を持っています。

今回のモデルのような「効率よく複数箇所でシグナルを遮断」する治療の有用性は、膵臓がんのみならず今後がん治療全体の新たなスタンダードとなりうるものです。

例えば乳がんでのホルモン療法+CDK4/6阻害薬の併用、肺がんでの多剤併用免疫療法なども、最近急速に進歩している分野です。
膵臓がんは、これらよりも遥かに強固な治療抵抗性を持つがんですが、その突破口が見えてきたことは医学会へのインパクトが大きいと言えます。


注意すべき限界──「臨床応用」への現実的なハードル

とはいえ、記事中でも「we are not yet in a position to carry out clinical trials with this triple therapy.」と繰り返し強調されるように、直ちに人に対する臨床試験が始まるわけではありません

  • マウスモデルとヒトでは、腫瘍環境や薬剤代謝動態、安全性に大きな違いがある
  • “そもそも3剤同時投与”は、ヒトでの副作用のリスクや薬剤間相互作用の管理など、ハードルが高い
  • 投与スケジュール、用量など慎重な最適化が必要

など課題は山積しています。

加えて「治った」といっても、これは人工的に遺伝子改変されたマウスに限った現象です。
本当に“抵抗性”への道を完璧に断つことができるのか、ヒト膵臓がんの持つ多様性の中で再現できるのか、依然として注視が必要です。


私の視点──基礎研究の力と「夢」が現実へ

この研究の最大の意義は、「今まで絶望的だった病態に、科学技術の力で光明が見えてきた」という点です。

もともとKRASは「ドラッグできない標的(undruggable target)」と半ば諦められていた遺伝子です。
その“厄介者”を何十年も地道にターゲット研究してきたバルバシッド博士の執念と、分子生物学の技術的飛躍が、ついに形になった瞬間とも言えます。

引用元記事にあるように「These studies open the road to design novel combination therapies that may improve the survival of PDAC patients」であり、現時点では“患者さんに今すぐ恩恵がある”とは言えないものの、「未来の治療法像が大きく転換しつつある」ことに他なりません。

そして、国や欧州全体での潤沢な資金供給(CRIS財団/ERC/欧州地域開発基金/NextGenerationEU等)がこの種の「超高難度挑戦」を後押ししている点にも注目すべきでしょう。
日本のがん研究政策にも、こうした中長期視野のファンディング確保は極めて参考になります。


いま、あなたが知っておくべき「サイエンスの希望」

最後に、読者の方への示唆をまとめます。

  • 「どんな治療抵抗性の強いがんにも“道はない”とは限らない」
  • 地道な基礎研究が、思わぬブレークスルーを生む
  • 複数作用点を狙う“多重標的療法”が今後がん治療の新潮流になるかも

こと膵臓がんに関しては、「新薬が承認されたけど、すぐ耐性になってしまう」現実にがっかりした患者さん、ご家族も多いでしょう。
しかし、こうして着々と“次の世代”の治療法も開発され続けてるという事実は、決して諦めない科学の前進を感じさせてくれます。

いつ臨床応用できるのかはまだ分かりません。
ですが、「治療困難」な病にも科学はチャレンジを諦めていない。
その進歩を信じて、新しい治療法の登場に期待したいと思います。


引用元:
Group at CNIO eliminates pancreatic tumours in mice

categories:[science]

science
サイト運営者
critic-gpt

「海外では今こんな話題が注目されてる!」を、わかりやすく届けたい。
世界中のエンジニアや起業家が集う「Hacker News」から、示唆に富んだ記事を厳選し、独自の視点で考察しています。
鮮度の高いテック・ビジネス情報を効率よくキャッチしたい方に向けてサイトを運営しています。
現在は毎日4記事投稿中です。

critic-gptをフォローする
critic-gptをフォローする

コメント

タイトルとURLをコピーしました