この記事の途中に、以下の記事の引用を含んでいます。
An explosion in interconnect complexity
イノベーションの静かな進化──なぜ「インターコネクト」が爆発的に複雑化したのか
半導体業界には「革命」は少なく、「進化」が大半です。
最新のチップ設計を巡っても、革新的な何かが突然現れるのではなく、実は“次の一手”が徐々に積み重なって現状が形成されています。
今回紹介する記事An explosion in interconnect complexityでは、電子機器設計の中核である「インターコネクト構造(配線・接続)」の爆発的な複雑化と、それに伴う設計思想・実装工程の劇的変化について論じています。
「配線」は2段階構造から5段階へ──記事が示す衝撃の変化
まず、この記事で提示されている最大のポイントは、「かつて電子機器のインターコネクト構造は2段階(IC内部と基板)で事足りていたのに対し、いまやそのプラットフォームが5つに増え、設計複雑度が飛躍的に高まった」という事実です。
“For decades, electronics offered two levels of routing structure to manage signals that originate or terminate in an integrated circuit. Recently, that number has risen to five, and while it adds far more flexibility for structuring electronic equipment, it also brings greater complexity and ratchets up the number of design decisions needed to complete a project.”
この文で語られているように、従来のチップ設計では「IC内部(金属配線)」と「プリント基板(PCB)」という2つの明確なレイヤがあれば差し当たり十分でした。
しかし、近年は「パッケージ基板(サブストレート)」「シリコン貫通ビア(TSV)による3D実装」「インターポーザ(2.5D 中間配線基板)」を加えた5階層が必要になっているのです。
配線の階層・次元が増えることで設計者に求められる検討事項や物理現象、コスト・歩留まりへの影響、設計変更・検証フローが大幅に増しているというわけです。
現代半導体の配線階層化──その背景と意義を読み解く
なぜ5階層もの配線が求められるのか
この記事では3つの大きな要因を挙げています。
1. 性能ニーズの高騰と配線スケールギャップ
微細化されたチップ内部(nmオーダー)と、基板(mmオーダー)には、物理寸法で「6桁もの差」があります。
アナログ/高速デジタル回路では、こうしたスケールギャップが遅延や信号品質に与える影響が年々深刻化し、単純な2階層設計では最適化しきれなくなりました。
2. 電力密度の急増と熱問題
小型パッケージ化・高集積化により、同じ面積内での発熱(パワー密度)が跳ね上がり、従来のリードフレーム・単純ヒートシンクだけでは熱設計が立ち行きません。
3. 圧倒的なI/O数増加とインパッケージ統合
フリップチップやパッケージ基板の技術進化で、チップ外とのやり取り(I/O)が飛躍的に増大。
これにより従来分担していた「チップ設計」「パッケージ設計」「基板設計」の境界が曖昧になってきました。
このような要因が重なった結果、パッケージ内部に「微細な配線・信号分割の階層」を設け、場合によってはチップ自体を縦や横に分割(例:チップレット化、3D積層化)しながら、最適な回路実装を追求する必要性が生まれてきたのです。
配線階層化がもたらした具体的な技術例
- サブストレート(基板): ICと母体基板の間に挿入される有機配線基板。従来のリードフレームより細かいI/O接続・放熱路を提供。
- TSV(スルーシリコンビア): シリコンを貫通するメタルビア。3D積層化で信号/電力/熱の上下方向経路を確保。
- インターポーザ: 複数チップ(例: SoC、メモリなど)間をきめ細かく配線する中間層。特に高性能計算(HPC)用途で不可欠。
このような「配線の多階層化」により、チップ・パッケージ・基板全体をトータルで最適化する設計哲学が主流化しつつあります。
システム設計の“連携戦略”が全てを決める!新世代インターコネクト設計の本質
もはや「チップ設計者だけ」「基板設計者だけ」では済まない
配線階層の爆発的拡大につれて、従来の「チップ/パッケージ/PCBの壁」は意味をなさなくなっています。
“The process of designing and verifying a five-level system has become far more complex than in previous decades, which had chip and package designers on opposite sides of a wall. PCB design is still separate, but four of the five levels are inside the package, and the entire package’s contents must be designed and verified together.”
この記事が指摘するように、パッケージ内部にはIC、TSV、インターポーザ、サブストレートの全てが共存し、これらは「一体で総合設計・検証」しなくては成立しません。
しかも熱設計から材料工学、機構強度、信号/電力整合(インテグリティ)まで、設計検討の幅は格段に広がっています。
システムアーキテクトと“インテグレーター”の重要性
配線階層の複雑化が生む最大のパラダイムシフトは、「アーキテクチャ初期段階から全エンジニアが連携し、初期の設計分割=最適配線資源配置にダイレクトに結びつく設計戦略を練る」点にあります。
たとえばSoCの大規模設計では、「どこでチップレットに分割し、どの配線階層で信号を割り振るか?」がトータル性能(PPA: Power, Performance, Area)を大きく左右します。
加えて、記事が指摘するように「統合担当者(インテグレーター)は、従来は推定値でしかなかった全体の動作・信号・熱・構造強度の検証を、実データでもって最終確認せねばならない」段階に入りつつあります。
私見:「爆発的複雑化」は本当に脅威なのか、それともチャンスなのか?
ここで少し考えてみたいのは、「複雑化」の功罪のバランスです。
複雑化の功罪、そして次のイノベーションへの誘い
- 功:多階層・多次元配線化がもたらしたのは、結局「設計上の自由度」です。限られた寸法の中で、配置・配線・電力経路・熱逃がし――全てに“勝ち筋”を無数に用意できるようになった事実は、明らかに強みです。
- 罪:一方で、設計自動化(EDAツール)や検証フロー、テストコストは飛躍的に上がります。小さな構成変更ひとつが配線の階層をまたいで波及するため、“局所的チューニングで済まない”のが最大のデメリットです。
たとえば現行SoC搭載スマートフォンでは、1つのファブ名しか見えませんが、実際にはグローバル5社〜10社の設計・製造チェーンがパッケージ階層ごとに絡み合い、完成品が生まれています。(AppleのMシリーズチップレット戦略や、AMDのRyzen/EPYC「Chiplet」設計などがその代表例)
技術者コミュニティや産業育成の観点
新たなインターコネクト階層ごとに、材料・寸法公差・温度管理・電気的最適化といった専門ドメインが要求され、一社・一分野では到底対応しきれません。
今後技術者には
– 分野横断的な知識・設計思想のアップデート
– 各階層で最適なEDAツール/ワークフローの再構築
– 部品メーカー・ファウンドリー・セットメーカーとの協調設計
といった新しい「局面」が広がるでしょう。
まとめ:配線複雑化時代、私たちに問われる「全体最適志向」とは?
記事の最後では「革命ではなく進化」の積み重ねが、システム全体の見方を根本的に変えたと振り返られています。
“Rather than a revolutionary shift, this is more of an opportunity to step back and see the results of many years of incremental change… at the very least, it gives us some perspective on how much both flexibility and complexity have grown. Such thinking can be beneficial at the architectural level, where all the levels are potentially in play.”
設計自由度は増した反面、性能・歩留まり・製造コストのボトルネックは“全体のどこで切るか,どうつなぐか”のアーキテクチャ的意思決定に大きく左右されます。
加速する配線階層の増加・分割化は、まさに「全体最適=ネットワーク化された創造性」こそが競争力の源泉であることを私たちに教えてくれるのではないでしょうか。
今後の半導体設計・製造を志すエンジニアや研究者、ひいてはシステムビジネスの意思決定者にとって、この「配線複雑化」の光と影、それを乗り越えるための“横断的知”の重要性は、ますます高まっていく——そう確信します。
categories:[technology, science, business]

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