この記事の途中に、以下の記事の引用を含んでいます。
Gestational diabetes rose every year in the US since 2016
毎年増え続けている妊娠糖尿病、その現実
今回取り上げるのは、2026年12月29日付でJAMA Internal Medicineに発表された最新のアメリカ全土の疫学調査、「Gestational Diabetes Mellitus in the United States, 2016-2024」に関する解説記事です。
この発表では、2016年から2024年にかけて米国での妊娠糖尿病(GDM:妊娠中に初めて発症する耐糖能障害)の発症率が毎年増加し続け、累計36%増という驚くべきデータが報告されています。
妊娠糖尿病は母体だけでなく胎児にも短期的・長期的リスクをもたらすため、母子保健の観点からも重要なテーマです。
また、今回の調査は1200万例以上の分娩データを分析した、過去最大規模のもの。
なぜこの“サイレントクライシス”は止まらないのか、全米の動きは日本や他国にも示唆を与えてくれるのでしょうか。
「すべての人種・民族で増加」―引用で見る主張の骨格
まず、調査結果の特徴的な部分を原文から引用しましょう。
“Gestational diabetes rose every single year in the U.S. from 2016 through 2024, according to a new Northwestern Medicine analysis of more than 12 million U.S. births. The condition … shot up 36% over the nine-year period (from 58 to 79 cases per 1,000 births) and increased across every racial and ethnic group.”
「米国における妊娠糖尿病は、2016年から2024年にかけて毎年上昇し、9年間で36%も増加した(1,000出生あたり58件から79件へ)。しかも、この傾向はすべての人種・民族グループに認められる」としています。
さらに、特定の人種における発症率も目立って高く、
“Highest rates seen in American Indian/Alaska Native, Asian and Pacific Islander women”
となっており、アメリカ先住民系、アジア系、ハワイ・太平洋諸島系の女性でとくに発症率が高いと報告されています。
2024年時点での発症率は、アメリカ先住民/アラスカ先住民女性で137/1,000、アジア人で131/1,000と、他人種と比べて2倍近くになっています。
なぜ止まらない? “悪循環”を生む社会と医療の構造
このような妊娠糖尿病の増加について、筆者のDr. Shahは、現代の若年層全般の健康状態悪化と深く関係していると指摘します。
“The health of young adults has been persistently worsening — less healthful diets, less exercise, more obesity … These trends likely underlie why the rates of diabetes during pregnancy have gone up.”
つまり「食生活の質の低下、運動不足、肥満増加」といった広い社会的要因が、根本的な背景にあるということです。
また、この傾向は改善するどころか、15年以上も“連続増加”していることが前回(2011–2019年)調査からも明らかになりました。
さらに興味深いのは、アメリカ先住民系やアジア系・太平洋諸島系女性は「医療リサーチでも過小評価されがち」で、なぜ高リスクなのかの詳細が不明なままだという点です。
この点については、研究チームも「今後重点的な解明が必要だ」としています。
また、単に“アジア系”や“ヒスパニック”と一括りにするのではなく、民族内の細かなサブグループごとに発症率に大きな差異が見られたことにも注目が集まっています。
制度と文化の“狭間”―根本的構造問題を考える
妊娠糖尿病の増加は、「出産の“自己責任化”」と「医療アクセス格差」の二重の問題を映し出しています。
たとえばアメリカでは、低所得層やマイノリティ層の女性が妊娠前から質の高い医療や栄養指導を受ける機会が乏しい現状があります。
また、働きながら子育てや妊娠を両立させるための社会インフラ整備も日本以上に遅れている地域が多いです。
このため、政策面での本質的対策としては「誰もが健康的な生活を維持できる社会構造の確立」や、「格差是正のためのヘルスケア資源の再分配」といった方向性が不可欠だと考えられます。
奇しくも、今回の記事中では以下のような主張もなされています。
“Public health and policy interventions should focus on helping all people access high-quality care and have the time and means to maintain healthful behaviors.”
つまり「誰もが質の高い医療にアクセスでき、健康習慣を継続できるよう公衆衛生/政策的な支援を強化すべきだ」としています。
日本人には“他人事”に見えるかもしれませんが、実は近年日本でも「妊娠糖尿病」「肥満妊婦」の増加が社会問題化しつつあります。
また、多文化社会を迎えた日本でも、出自ごとに異なるリスク要因の認識・サポートが今後求められるでしょう。
持続的なリスクと今後の課題―私たちが学ぶべきこと
研究でも強調されているように、妊娠糖尿病は“出産時だけ”の問題ではありません。
母体自身が将来的に2型糖尿病や心血管疾患になるリスクを高めますし、その子どもも将来生活習慣病のリスクが増す“負の連鎖”が起きます。
従来の“妊婦個人任せ”の予防教育や啓発だけでは、もはや全体の底上げには不十分。
アメリカのように多様なバックグラウンドを持つ社会では特に、生活習慣・食習慣・文化ごとに異なる現実を踏まえた、オーダーメイド型の政策や研究の深化が求められます。
これは日本にも今後必須となる視点です。
また、「ヘルスリテラシー格差」への対応――教育、自治体・医療従事者の多言語対応、食育プログラムなど――も重要な論点として浮上しています。
多様な社会では一律の啓発や政策に頼るのではなく、「分け入って考えること」「当事者と協働すること」が、母子への本質的な支援につながるはずです。
総括:見逃せないサインと明日からできること
今回のデータは、アメリカに限らず、先進国社会全体が直面する“母子健康の危機”を端的に示しています。
「妊娠糖尿病の毎年増加」という事実は、個人の問題にとどまらず、生活スタイル・社会制度・公衆衛生全体の“バロメーター”でもあります。
毎年積み重なる小さな変化こそが、いずれ「持続困難」な社会リスクとなりかねません。
読者の皆さんにとっても、このニュースは決して“遠い国の話”ではありません。
自身や家族の健康はもちろん、次世代の健康格差をどう縮小するか――個人、家族、職場や地域、そして社会全体で問い直す必要があります。
未来の子どもたちのために、「自分たちの健康」ひいては「社会のあり方」を一緒に考える契機にしてみませんか?
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