この記事の途中に、以下の記事の引用を含んでいます。
Congressman Demands FTC to Look at Collectors’ Monopoly in Trading Card Grading
業界激震 ― 「コレクターズ社」の独占がもたらす波紋とは
トレーディングカード(TCG)愛好家や業界関係者にとって、2025年12月末のこのニュースは見逃せないインパクトを持って広まりました。
米国下院議員Pat Ryan氏が、連邦取引委員会(FTC)に対し、「Collectors Holdings社」がトレーディングカードのグレーディング(鑑定・格付け)業界で独占状態を作っているとして、本格的な反トラスト法調査を要求する書簡を送付したのです。
この記事は、その要請にいたる背景・主張部分の紹介から、その意義、業界への影響、日本のトレカ市場との比較や将来的なシナリオまで幅広く掘り下げます。
80%超を牛耳るグレーディング寡占 ― 原文からの主張紹介
今回の記事で特に重要なのは、「Collectors Holdings」社による業界大手「PSA」(2021年買収)、「SGC」(2024年買収)、そして名門「Beckett」(2025年発表)の立て続けの買収によって、市場の“グレーディング流通量の80%超”を掌握したという指摘です。
議員自身のコメントを引用します。
“Even my four and six year old boys, who just started their collections, know this behavior is wrong. Attempts to corner the trading card market are not only deeply unpopular, they are unethical…”
Congressman Demands FTC to Look at Collectors’ Monopoly in Trading Card Grading
Ryan議員の指摘は極めて直截的です。
小さな子どもですら、この明らかな“占有”が不公正だと感じるという主張です。
さらに、「市場を牛耳ろうとする試みは不人気なだけでなく、非倫理的だ(unethical)」と断じています。
「たかが鑑定、されど鑑定」― グレーディングに潜む構造的リスク
ここで、グレーディングビジネスの本質を理解することが重要です。
トレーディングカードの人気は、世界的に高まる一方です。
希少な一枚は数千万円、時に億単位で落札されることすらあります。
こうした市場で“最大手の鑑定済み”という評価がカードに付与されれば、その価値は飛躍的に高まり、逆に無名の会社のグレーディングなら、価値を大幅に下げてしまうことも珍しくありません。
Collectors社は、グレーディング(鑑定業務)のみならず、カードの価格分析(CardLadder)や売買マーケットプレイスもすべて押さえているとされます。
ここでアンチトラスト(独占禁止法)における「垂直統合」問題が浮上します。
原文では次のように記載されています。
Collectors’ dominance is compounded by vertical integration; it controls grading capacity, pricing analytics through CardLadder, and participates in buying and selling graded cards—creating severe conflicts of interest
日本語に訳すと、「Collectors社による支配は垂直統合によってさらに強化されている。彼らはグレーディング能力、価格分析(CardLadder)を掌握し、鑑定済みカードの売買ビジネスにも直接関与しているため、重大な利益相反が生まれている」という状況です。
利益相反とは、自社で評価を行い、その基準をコントロールし、自ら“最高評価”となったカードを自ら売買することができてしまう構造です。
これがなぜ問題なのか。
カードを持ち込んだ利用者は、「本当に公正な評価がされているのか」「マーケット自体が恣意的に操作されるのでは?」という疑念をぬぐい去れません。
さらに市場が一部の企業によって閉じられることで、新規参入やサービス改善のモチベーションも失われ、消費者にとって不利益が生まれるリスクがあります。
議員の疑義 ― FTCへの具体的な調査要請ポイント
では、具体的にRyan議員がFTCに求めている調査の観点はどのようなものなのでしょうか。
議員の要請状では、以下のような問題点が列挙されています。
- 買収による競争の排除が意図的ではなかったか(Monopolization)
- 相次ぐ買収(Serial Acquisition Pattern)が反トラスト法違反に該当しないか
- 合併審査逃れのための持株会社(Collēctīvus Holdings)の存在
- 買収時の説明と実際の運営(SGCの軽視など)が食い違っていないか
- ライバル消滅による価格・サービス・納期への悪影響
- 各ブランドのグレーディング基準や価格政策の“共謀”の危険
- 新規参入阻害(専門鑑定士という人材が限られており、大手の囲い込みで新興参入が阻まれる)
- 垂直統合による市場操作(自社で鑑定→価格分析→販売まで全て掌握)
これらはグレーディング市場のみならず、多くの業界で問題視されてきた典型的な“独占と消費者被害”の論点であり、米国独占禁止法の王道的な調査項目です。
私たちは何を問い直すべきか ― 拡大するTCG経済圏のリスク
ここからは解説者としての視点で、より噛み砕いて議論したいと思います。
まず、この問題の本質は「評価(信頼)の寡占」と「バリューチェーンの支配」にあります。
グレーディングとは“カードの真贋” “保存状態”だけでなく、“このブランドで認定されている”という事実自体が価値になります。
Collectors社は、その“最終認定機関”の筆頭格を3社丸ごと擁することで、市場原理そのものを自社都合で左右できるレベルにまで到達しつつある。
ここで、われわれが考慮すべき懸念は2つです。
- 価格操作と情報非対称性
垂直統合によって、「自社のグレードがなぜこの値なのか」という透明性を一気に失わせるリスクがあり、最悪の場合、“自社に都合のいい価格形成”を仕掛けやすくなります。
金融業界で言えば「格付会社が自社で社債を発行し、それを自分でAaa判定する」ようなもの。
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イノベーションの喪失と市場の停滞
本来、グレーディング業務では“迅速さ”や“低コスト化”、AIによる自動認定や新指標の導入等、イノベーションの余地がありました。
しかし、寡占が進めば競争圧力が低下し、「昔ながらのお役所的運用」でもシェアは維持できてしまう。
これはカード市場に活気をもたらした“自由な競争”と真逆の流れです。
日本のトレカ市場ではまだ寡占化が進んでいませんが、大手海外ブランドの影響力が強いこと、そして「鑑定済み=安全・信用」の相場観がかなり定着している点は同じです。
もし今回のような“垂直寡占”がさらに拡大すると、グローバル取引の中で「特定ブランド産以外のカードは圧倒的に不利」となる恐れもあります。
だから今考えてほしい ― 私たち消費者・投資家が取るべき態度
今回のFTCへの調査要請がすぐにCollectors社の独占を解消できるとは限りません。
しかし、消費者自身が「どのグレーディングブランドを選ぶか」「評価基準や鑑定過程の透明性を問い直す」という“自衛意識”を育てる必要があるのは間違いありません。
またカードショップや新規参入業者にとっても、「信頼される認定サービス」と認知を勝ち取る努力が求められるでしょう。
もし米国で厳格な規制ないし分割命令が下されれば、日本でも類似ビジネスの競争政策やガイドライン見直しの動きが波及してくることが想定されます。
コレクター、業界関係者、投資家、趣味人――TCG市場を支えるすべての立場にとって、「公正な市場」と「信頼される価値認定」という原点を徹底的に問い直す機会。
今回のニュースは、その“警鐘”として捉えるべきでしょう。
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