この記事の途中に、以下の記事の引用を含んでいます。
Pirate Site Operator’s Appeal Goes Bad, Court Extends Prison Term by 50%
「まさかの展開！」控訴が裏目に出た韓国海賊版サイト運営者事件とは
この記事は、かつて韓国最大の海賊版配信サイト「NunuTV（NooNoo TV）」の元運営者を巡る法的攻防を取り上げています。
一審で3年の実刑判決を受けた被告人が控訴した結果、逆に刑期が1.5倍に延長されるという、きわめて異例の裁判経過が中心テーマです。
この事件は著作権問題やインターネット違法配信の闇だけでなく、「法的リスク」と「摘発回避策」のいたちごっこ、そして社会への警告としても多くの示唆を含んでいます。
「控訴の賭け」は大失敗、刑期は50％増しに！
記事の中でも特に印象的だったのは次のような部分です。
the court extended the former operator’s original three-year sentence by 18 months.
“A had previously received actual prison sentences for crimes related to sports gambling sites and aiding the distribution of obscene materials, yet committed this crime,” the appellate court noted.
“When the investigation began, A closed the site and opened another, showing that the methods, means, and duration of the crime have escalated. Considering the need for strict punishment to prevent recidivism and the fact that the victimized broadcasters have petitioned for severe punishment, the original sentence was excessively lenient and unjust.”
（被告人には過去に賭博サイト関連犯罪やわいせつ物配布幇助での有罪判決歴があり、今回新たな犯罪を行ったこと、さらに、摘発開始時には旧サイトを閉鎖して新たなサイトを開設した点などを重くみて、「刑罰強化の必要性があるため、原判決は寛大すぎて不当」と判断したと記されています。）
このように、「再犯歴」や「全く悪びれない態度」「摘発からの逃亡・継続行為」が重く評価され、控訴審でまさかの処分強化──懲役3年から4年6か月へと50％もの刑期延長に至った、というわけです。
「海賊版ビジネス」と摘発の現実：問題の深さを読み解く
なぜNunuTVは「狙い撃ち」されたのか？
NunuTVは2021年7月〜2023年4月という短期間で韓国最大級の違法ストリーミングサイトに急成長。
「サイトには毎月数千万PV、総視聴数15億回」
「権利者らが推計した被害額は5兆ウォン（約3700億円）」
という莫大な実績（！）を築き、当然ながら当局や業界団体の標的となりました。
そして動画著作権の集合体「Video Copyright Protection Council (VCPC)」を中心に、
・ 法的措置の連携
・ ドメインブロック
・ 専門捜査班の創設
と、総力戦で取り締まりを強化。
NunuTV側は
「遮断→新ドメイン開設」(noonootv1, noonootv2, …, noonootv30…)
という“もぐら叩き”式対応で抵抗しましたが、最終的には2023年4月に閉鎖へ追い込まれました。
「サイト閉鎖→新サイト→再逮捕」という“いたちごっこ”は止まらない
NunuTV閉鎖後も、“空白”を埋めるように後継サイト「NunuTV Season 2」が登場。
また、TVWiki、OK Toonなど別名義によるストリーミングサイトも起ち上げられていますが、これらも結局摘発。
この間、運営者（裁判記録上はPerson A）は巨額の広告収入（違法賭博など）を手にし、
高級車やビットコインなど総額19億ウォン相当の資産押収に至ったとされています。
「ピンポイント摘発」→「抑止力」？ それとも“抜け道”だらけ？
記事では、「一部の運営者は要領よく摘発を逃れている」とも指摘されます。
著作権対策リソースが限られているため、「巧妙に立ちまわる者は実質“ノーダメージ”」という現実も事実です。
Despite a stream of news reports that seem to suggest the opposite, there are more examples of pirate site operators surviving unscathed than there are public catastrophes.
つまり、派手に摘発されて報道されるケースは目立つものの、水面下で“野放し”の運営者はむしろ多数。
圧倒的多数の「グレーゾーン」や「別の穴」を塞ぐことは技術的にもマンパワー的にも困難だ――そんな“ゴリアテvsダビデ”の構造が、この業界を覆っています。
「厳罰化」のインパクト、そして限界——私見と批評
忘れてはならない「摘発される側の視点」
この判決を単に「見せしめ」と切り捨ててよいのでしょうか。
確かに今回の厳罰化は、「再犯や悪質な逃避行動に強力な制裁」「社会的警鐘」として一定の効果が期待されます。
運営者としては、
・ 過去の犯罪歴があれば、逆に量刑が爆増するリスク
・ 控訴すれば“減刑”ではなく“増刑”もあり得る（日本でも一審より重くなる事例はゼロではない）
という点で現実的な“抑止力”にはなります。
しかし、「抑止」は抜本策になるのか？
一方、著作権侵害サイトのエコシステムは“運営者の摘発＝撲滅”では解決しません。
インターネットの特性上、
・ サイトは容易に複製・再開可能
・ 運営者特定も依然として困難
・ 広告収入源や資産隠匿手段も高度化
しており、「次の運営者」が必ず現れる。
記事でも、
if there are gaps unfilled by locals in a national market, it’s usually just a matter of time before more elusive targets take up the slack.
すなわち、「マーケットギャップ」はすぐに新たな違法事業者に埋め尽くされる——このメカニズム自体が崩れないかぎり、根絶は不可能に近い。
「補完的対策」も不可欠
さらに、このような実刑の大幅強化だけでなく、
・ 正規サービスの利便性・価格競争力の強化
・ 教育や普及啓発（正直、“違法”とすら知らない若年層は世界的に多い）
・ 柔軟かつ迅速な法的枠組みの策定
等と相俟って初めて「違法配信の裾野」を狭めていけるのだと考えます。
「摘発強化の波紋」 いま違法配信に何が問われているか
今回のNunuTV元運営者事件は、一つの「厳罰化」の帰結を生々しく示しました。
再犯・逃避行動→刑期50％UPという鮮烈なメッセージは、類似サイト運営者や潜在的な“後継者”に対して一定の威圧効果を持つでしょう。
しかし裏を返せば、それでも「空白地帯」はすぐに新たな運営主任が埋めてしまうという、“いたちごっこ”の現実も浮き彫りになりました。
この事件からわたしたちが得るべき「気づき」とは何か。
利用者も運営者も、「摘発リスク」のみならず著作権侵害が生む本質的損害、社会規範、そして次世代のコンテンツ流通のあり方について、冷静に考え直す契機とするべきではないでしょうか。
違法サイトがすぐに消え去ることはない――が、「摘発強化」の現場では、粛々と新たな戦いが始まっている。
この事件が指し示すのは、まさにそんな「未来への警鐘」なのです。
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