この記事の途中に、以下の記事の引用を含んでいます。
Meta knows how bad its sites are for kids, say lawyers
SNS大手に突きつけられた“現代たばこ論争”──訴訟が問い直す、子どもを取り巻くリスク
今や子どもや若者の生活から切り離せないSNS。
しかし、その裏側で「Facebook(現Meta)」が自社サービスの健康リスクを認識しながら、長年隠蔽していた疑惑が大規模訴訟となって米国で問題化しています。
本記事では、2025年11月時点で1,400件以上が合流した連邦訴訟「SNS児童安全MDL訴訟」に関するThe Registerのルポをもとに、メタ社内部文書や調査結果の内容、企業倫理問題、社会的影響について専門的な立場から読み解きます。
「まるでたばこ産業と同じ」ー問題提起されたメタ社の深い闇
記事は、訴訟を代理する弁護団が提出した235ページもの大量の法廷文書を紹介しています。
この書類には「メタが子どものメンタルヘルスに対する自社サービスの悪影響を複数の内部調査で把握しながら、長年にわたりその事実を世間に隠し続けた」証拠が数多く記されているのです。
また、証拠となる調査資料は訴訟当事者の要請によりまだ非公開のままですが、主張の中で以下のような印象的な指摘がありました。
“If the results are bad and we don’t publish and they leak, it’s going to look like tobacco companies doing research and knowing cigs were bad and then keeping that info to themselves,” one Meta employee reportedly said, per the filing.
(もし結果が悪くてそれを公表しなかった場合、そしてそれが漏れたら、たばこ会社がたばこの害を知りながら情報を隠していたのと同じように見えるだろう、とメタの社員が述べている、と法廷文書は伝えています。)
この「たばこ会社」との対比は、意図的な危険性の無視や情報封鎖といった重大な企業倫理違反を強く想起させるものです。
企業の社会的責任に対する根源的な問いかけとして、現代社会に大きなインパクトを与える発言だと言えるでしょう。
内部調査が示す、「SNS離脱で幸福度が向上」──なぜメタは公表しなかったか
なかでも注目すべきは、メタ社が自社SNSの利用制限を課した2019年の実験についての報告です。
“People who stopped using Facebook for a week reported lower feelings of depression, anxiety, loneliness, and social comparison,” the filing quotes Meta’s study as concluding.
(Facebookの利用を1週間やめた人々は、うつ、不安、孤独感、社会的比較といった感情が低下した、とメタ社の調査は結論付けています。)
この実験結果は、メタ社自身がSNS利用とメンタルヘルスへの悪影響の関係を明確に把握していたことを裏付けています。
著名な世論調査会社Nielsenとも連携して行われていたことから、調査の科学的信頼性も高いものです。
にもかかわらず、メタ社はこうした結果を「既存メディアが会社に敵対的だから」という理由で非公開にし、世間の議論から遠ざけようとしたと弁護士団は主張しています。
これが事実であれば、「科学的なリスクを知りながら利益のため情報を秘匿する」という、まさに旧来のたばこ産業や化石燃料産業と同等の戦略がSNS業界でも繰り返されていることを意味します。
「中毒性」への自覚と黙殺されたリスク──SNS設計の社会的影響
訴訟資料によれば、その後もメタ社は複数年にわたって子どもや青少年の利用実態を追跡し、“意図せぬ反復利用”や“自己制御困難”といった「依存的な利用傾向」とそれに付随するメンタルヘルス悪化の傾向を次々と把握していました。
“Meta understands not only that its platforms are addictive to teens, but also that this addiction produces a cascade of related mental health harms,” lawyers for the plaintiffs wrote.
(メタは自社プラットフォームが10代にとって中毒的であり、その中毒が関連するメンタルヘルス被害を引き起こしていることも理解している、と原告側弁護団は書いています。)
現代のSNSは、心理学的な報酬設計(通知、ライク、エンドレスフィード等)で「抜け出せない仕組み」を作っています。
これが、自己制御能力が未熟な10代の脳に特に強い影響を及ぼし、生活習慣や学業、対人関係や自己評価にまで深刻な悪影響を与えることは、既に国内外の多くの研究でも指摘されています。
一方で、メタ社などプラットフォーム側は、こうした依存性をビジネスモデルの核心に据えつつも、表向きは「安全対策」「保護機能」「教育リソースの提供」といった形で社会的批判に応じる“ダブルスタンダード”が問題視されています。
批判的考察:「情報公開」の壁と、消費者・保護者が持つべき視点
今回の訴訟の大きな論点は、そもそも「真のリスクに関する客観データが公開されていない」状況そのものです。
記事によれば、裁判で提示された多くの証拠資料は今も「被告側の要請で封印」されたままであり、メディアも中身を見ることができません。
“If the defendants are willing to allow the press to see exhibits, they can do so at any time.”
(被告が証拠を報道に公開する意思があれば、いつでもできる、と弁護士は述べています。)
ここには、現代社会がテクノロジー企業の「ブラックボックス性」とどう対峙するかという根源的な課題が潜んでいます。
また、「悪影響が明らかなのだからサービスそのものを規制すべき」「自己責任論では子どもを守れない」といった極論も出がちですが、客観的事実の公開と、多様な利害関係者の協働的な議論こそが解決の鍵になります。
現に欧州などでは、プラットフォーム企業への情報開示義務や利用設計の透明化が法制化されつつあります。
しかし日本を含め、多くの国では依然として「企業発表」や「自主的な取り組み」への依存が強く、ベースとなる科学的根拠が乏しいままです。
この問題にどう向き合うかは、SNS設計の専門家・技術者/教育現場/子どもを持つ親/立法機関すべての責務と言えるでしょう。
結論:見えぬ“害”と闘う時代に、私たちができること
今回のメタ社訴訟は、「子どもにとってSNSがどれほど危険か」ではなく、「企業がその危険性を認識・証明しつつ情報を握り潰すことでユーザーの自己防衛や社会的対策を妨げてきた」という本質的な課題をあぶり出しています。
今後の法廷闘争や周辺研究の進展によって、その全容が明らかになるでしょう。
ただし、現時点で私たち一人一人に求められるのは、「SNSの使い方とリスク」を冷静に把握し、行政・教育・家庭で“デジタル健康リテラシー”を高めていくことです。
同時に、企業の説明責任と情報公開をしっかりと求めていく強い市民社会の力も必要です。
SNSは本来、健全に楽しく使えば人生を豊かにします。
しかし、子どもたちを守るには「分からないことは徹底的に問い、不都合な事実も共有する」ことが何よりも大切だと、今回の事例が私たちに教えています。
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