アルゴリズムとの“契約”を見直せ――「あなたはアルゴリズム的問題にならなければならない」を読む

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この記事の途中に、以下の記事の引用を含んでいます。

Breaking the Algorithmic Contract


新時代の「見えない契約」とは?アルゴリズムが作る日常の枠組み

いま、私たちの生活は、アルゴリズムが静かに敷いたレールの上で送られています。

SNSのタイムラインも、動画サイトのおすすめも、オンラインショッピングのレコメンドも、気がつけば「自分が選んだ」と思い込んでいる選択さえ、その裏で無数のアルゴリズムが動かしています。

しかし、Jose Marichalによる書籍『You Must Become an Algorithmic Problem: Renegotiating the Socio-Technical Contract』(2025)は、私たちとアルゴリズムとの関係性を「社会契約」という観点から問い直すことで、この”見えない枠組み”に鋭いメスを入れています。

この記事は、そのエッセンスを抜き出しながら、「なぜ私たちは”アルゴリズム的問題”にならざるをえないのか?」を論じます。


アルゴリズムと「社会契約」――著者が説く新しい服従のかたち

Marichalは、私たちがアルゴリズムに「キュレーションの自律性(curational autonomy)」を明け渡している、と主張します。

これは単なる便利さ志向では終わらない、現代型の“社会契約”であるというのが彼の視点です。

“It’s useful to think of our engagement with algorithms as a social contract.”
(私たちがアルゴリズムと関わることは、社会契約として捉えるのが有用だ。)

この発想は、国家と市民の関係を語る際に使われてきた“社会契約”の比喩を、情報社会と個人に持ち込んだものです。

私たちはますます膨大になる情報の「選択不安」から逃れるため、安心や快適さの“幻想”と引き換えに、自分で情報をキュレーションする自由を、アルゴリズムに委ねます。

著者は、現代のインターネット利用者の大半が「アルゴリズム的分類の世界」に疑問を持たず、むしろ積極的に受け入れてしまっていることを次のように指摘しています。

“Research and lived experiences increasingly show that most people are not ‘swimming against the data tide’. They are content to accept a world of algorithmic classification despite its obvious harms because it gives them a (false) promise of comfort and security.”

引用には、「この状況の弊害は明白であるにもかかわらず、大半の人々が安心感や快適さ(それも幻想的なもの)を得るために、データ洪水に逆らおうとしない」とあります。

ここで重要な問いは、なぜ私たちは「譲歩」してしまうのか、という点です。


「予測のための人間」とは?AI時代に加速する“らしさ”への同調圧力

本書が鋭く問題視するのは、「アルゴリズムに適した自分になる」よう、私たち自身の行動パターンが方向づけられている現実です。

アルゴリズムは本来、私たち“人間らしさ”の多様さ・変わりやすさをうまく予測できません。

予測精度がビジネスの成否を左右するため、「モデルに合わない」人間(outlier)は邪魔者になってしまいます。

するとどうなるか――。

「アルゴリズムが人間を完璧に予測できないなら、私たち自身がモデル通りに“予測可能な存在”になるよう仕向けられていくのではないか」というのが、著者の警告です。

“If algorithms cannot develop models that fully predict us, will we be trained to increasingly become like algorithms and classify ourselves according to the model’s desires?”

この現象を著者は「machine habitus」(AI的習性)と総称しています。

つまり、ユーザーは気がつかないうちに「アルゴリズム的な振る舞い」――たとえばSNSで“いいね”しやすい投稿、炎上しやすい意見、バズる型の自己表現――を模倣・習慣化していく。

結果として、個性や多様性は「モデルに合わせて矯正され」、データ分析が求める“わかりやすさ”に収斂するのです。


なぜ「声の洪水」が生まれるのか?表現の“商品化”と“習慣化”のトリック

もう一つの論点は、「意見・自己表現の膨大な供給」がなぜ促進され、どうやってアルゴリズムやAIの訓練に使われているのか、です。

ここでMarichalは、ネット時代の「自己表現」は次第に“声=Voice”の洪水(即時的な発言や反応)へと移行し、本来の“Thought(思索に基づく表現)”が弱くなっていると指摘します。

“Self- expression requires reflection to know what one wants or needs to say. Speaking (voice) does not require thought. Voice can be immediate, instinctive, and reactionary, generated through simple appeals to affect and desire. Reflection is not as easy to monetize.”

つまり、「思索=収益になりづらいが、即時反応(いいね、RT、コメント等)はデータ化・収益化がカンタン」なのです。

SNSで炎上や“バズ”が重視されるのも、この流れと無縁ではありません。

私たちは日々、自分が「何を本当は言いたいのか」ではなく、「どうすれば反応をもらえるのか」「どうすればアルゴリズムが拡散してくれるのか」を無意識に計算することに慣れていってしまいます。

その土台にはプラットフォーム経済の論理があり、「より多くのデータ(=ユーザー反応、発言、好みの表示etc)を集めやすくする」方向への誘導が加速しています。


「予測モデル」と現実:AIが“知る”のは本物の私たちか?

アルゴリズムが目指すのは予測と分類です。

AIや機械学習の使命は、与えられたデータから「法則性」や「パターン」を発見し、人間の意思や行動を効率よく予測できるようにすることです。

ところが、マリシャルはこの現象に対して批判的な視線を向けます。

彼は伝統的な統計学の“謙虚さ”――「モデルはあくまで現実の抽象であり、すべてを説明はできない」という姿勢――と、現代のAIが目指す「現実の完全再現=パターン化」の間のギャップを問題視しています。

“The data science/AI revolution has challenged that perceived limitation. There exists a push to blur the distinction between the world as it is and the world of the algorithm.”

ここで鍵となるのは、「モデルのために人間の方が適合していく」危険です。

従来の統計モデルは、現実世界を簡略化したものに過ぎず、アウトライヤー(はみ出した人、予測困難な存在)は常に存在する――そこから新しい発見や進歩が生まれる。

ところが現代のアルゴリズムは、分散や例外を減らし、「皆がモデルに従って行動する」ことを促すインセンティブが強く働きかけてきます。

例えば、SNSの「おすすめ」機能は、「あなたの趣味や関心を深堀りする」よりも、「他の多くのユーザーがよく見るもの」を優先して提示します。

この結果、誰もが似たコンテンツに引き寄せられ、「違和感」や「異質さ」、「本物の個性」はシステムから排除されやすくなるのです。


私たちはどこへ向かうのか?個人的考察と社会的な問い

Marichalの論点は、テックの専門家やAI研究者だけでなく、一般市民にとっても極めて重大な示唆を含んでいます。

現状、多くの人は「アルゴリズムの罠」に既に巻き込まれているという事実――「ニュースの取得元がSNS」というデータや、深く考えずにリアクションをするSNS文化――が如実に示しています。

しかし私は、ここに可能性もあると考えます。

歴史を振り返れば、こうした「慣性」や「同調」に対抗してきたアウトライヤーたちが、社会や文化を前進させてきたのもまた事実です。

たとえば、AIをただ否定するのではなく、「個人が自分でデジタル環境をカスタマイズする」「自分なりの選択軸でコンテンツを探す」など、主体性を取り戻す余地も残っています。

また、アルゴリズム自体も、「多様性」「偶発性」「アウトライヤーの取り込み」を重要視する新設計に進化させるべきではないかと思います。

「一億総・類型化」に抗うためには、
– アルゴリズムの透明性確保
– 個人のメディアリテラシー向上
– “思索型自己表現”を支援する社会設計
など、多層的な改革が必要ではないでしょうか。


結論:欲望と安心の取引――「見えない契約」にサインし続ける私たち

Marichalの論考から我々が学ぶべき最大のポイントは、
「便利さや快適さへの欲望と引き換えに、私たちは自身の“自由な自己”を投げ出していないか?」
という原点的な問いかけです。

アルゴリズムに「きれいに分類される自分」で在ることは、たしかに安心かもしれません。

しかし、それは同時に「他者と同じものを見せられ続ける」ことであり、自分が「唯一無二の存在」であることを手放す危険と隣り合わせです。

だからこそ、私たちは「アルゴリズムとの見えない契約」を時に見直し、時に破棄し、自らの“アウトライヤー性”こそ誇るべきだ――それが、本書とこの記事の通奏低音です。

アルゴリズムとの関係を自覚的に再設計すること。

それが、予測済みで均質化された日常から一歩踏み出すための、第一歩ではないでしょうか。


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