この記事の途中に、以下の記事の引用を含んでいます。
Bitter lessons building AI products
変化の波に乗る覚悟:「苦い教訓」はなぜ繰り返されるのか?
今回は、Hex社のプロダクトマネージャーが語るAIプロダクト開発における「苦い教訓」(The Bitter Lesson)について、単なる要約ではなく、私なりの解説や考察、具体的事例も交えながらご紹介します。
根底に流れるのは、AI開発の現場で誰もが一度は感じる「あの時もっとシンプルに構えればよかった」というジレンマと、驚くほどの進化スピードに開発現場が翻弄されるリアルです。
この記事は、“過去70年のAI研究から学べる『汎用的手法と計算力を最大限活用するアプローチが最後には勝つ』、という苦いが極めて本質的な教訓”を、実際のプロダクト開発現場の失敗と成功を交えて掘り下げています。
本当に価値あるものだけが生き残る? 記事の主張を原文からピックアップ
まず筆者は次のように「苦い教訓」を説明しています。
“The Bitter Lesson – from 70 years of AI research is that general methods that leverage computation are ultimately the most effective, and by a large margin.”
(引用元:Bitter lessons building AI products)
つまり、「汎用的で強力な計算力をうまく活かす手法こそ、長い目で見て他のどんな洗練された特殊な工夫より圧倒的に有効だった」というのがAI研究の歴史の教訓だと断言しています。
また、著者は次のような自省も述べています。
“you shouldn’t try to make AI work for your existing roadmap with fancy clever engineering – much of it will be obsolete with the next major model upgrade (trained with more compute and more data). Instead, you should aim to understand model capabilities and how you can best pivot your roadmap accordingly.”
(引用元:Bitter lessons building AI products)
すなわち、「今ある機能や設計にAIを無理に合わせて凝った工夫を重ねても、より計算能力や学習データ規模が増した次世代モデルが来れば、ほとんどすぐ古くなるので、新たなモデルの能力を正確に把握し、適切に戦略の舵を切るべきだ」と主張しています。
「技術の進化」は最大の敵か味方か?プロダクト開発現場の現実
この記事には、数年間に渡るAI製品開発・運用のリアルな体験談が詰め込まれています。
たとえば、AIがノートブックでSQLやチャート、Pythonコードまで自動生成する「Notebook Agent」開発の試みは、2023年当時のモデルが複雑な推論に耐えられず、数々の“賢い工夫”=「ハック」に頼りながら、「見た目のデモは良いが、実運用では全く通用しない」結果に終わります。
また、「Explore」機能のビジュアル生成も、最初は手の込んだ2段階生成や小規模モデルのファインチューニングで“そこそこうまくいった”ことで満足し、最新のモデル進化に十分敏感になれなかった反省が語られています。
“…our clever (and very cool!) engineering optimizations were completely outpaced by just leveraging improved model capabilities.”
(引用元:Bitter lessons building AI products)
この一文、まさにAI開発最前線の多くの人が「グサリ」とくるのではないでしょうか。
筆者自身が“機能を目指す執着(サンクコスト・バイアス)”や“ここの領域なら自分たちならではの工夫で何とかなるはず!”という期待の罠にはまった経験も赤裸々に告白しています。
成功の鍵は「賢い失敗」と「変化を活かす柔軟性」—プロダクト開発の新鉄則
ここで、筆者が提案する“これからのAIプロダクト開発”の進め方を、私なりの言葉で整理します。
1. デモより本物の顧客検証を最優先
とりあえず派手なデモで満足せず、“荒削りでもまずは現場顧客に触ってもらい、汗をかきながら耐久試験をしてもらう”。
これが価値検証と本質的なプロダクト学習に不可欠だと述べます。
AIのデモは「しばしば実態のないヴェイパーウェアになりやすく、開発者は『本当に動いている』という錯覚に陥りがち」との警句は実に刺さります。
なぜなら、多少のバグや弱点を補えるような現場の熱量や本気のフィードバックが得られないなら、それ自体が本質的価値を持たないというシグナルだからです。
2. モデルの“能力シフト”を見極めて舵を切るセンス
AIモデルは目覚ましい進化が加速しています。
しかし、それまでのやり方やチューニングに固執していると、せっかくの新機能や能力向上を柔軟に活かし切れなくなります。
実際、“Sonnet 3.5/3.7やClaudeのようなエージェント型モデルが現実的実用に達したタイミングで「これまでの方法は一気に時代遅れ」になった”と筆者は語っています。
今や、AIプロダクトの最大の仕事は「自分たちのアイデアや顧客課題にモデル能力が本当に追いついたか」を正しく評価すること。
もしまだなら、どんなに頭をひねって工夫しても本質的なブレークスルーにはなりえないのです。
3. すばやく見切る勇気と「祝福された失敗」文化
進化の途上にいるテクノロジー領域では、“あれこれ継ぎはぎする開発”を延命させてはいけない、と筆者は断言します。
「サンクコスト・バイアス」や「公開日に間に合わせたいマーケ的圧力」は百害あって一利なし。
うまくいかないと腹を括ったら、速攻で方向転換し、むしろ「その失敗の経験」自体を祝福すべき、と強調しています。
この潔い言い切りは、多くの日本企業や大規模PJでありがちな「やめ時の見極めが甘い構造」への良い刺激になるでしょう。
4. “定期的な再挑戦”こそ最先端領域の奥義
現在ダメだったアイデアも、半年後、突然跳ね上がったAIモデルの能力やAPIのリリースによって、“いきなり主流に化ける”経験は筆者だけでなく多くのスタートアップが共有する体験です。
だからこそ、「失敗したプロジェクトも3ヶ月ごとに再評価する」マインドセットこそ、AI領域でこそ最重要な習慣と言えるでしょう。
これが、今までの“ウォーターフォール型開発”一辺倒では食い込めない、AIプロダクト独自の進化といえます。
日本の現場・プロダクト作りとのギャップと示唆
こういった現場宗教に近いレベルで根付いている習慣は、日本の多くのIT開発現場と比べると大きなギャップが感じられます。
例えば、
– 操作マニュアルや仕様書文書化優先→ユーザー検証後回し
– 既存投資や人的リソースのしがらみ強く「撤退判断延長」
– “自分たちなりのこだわり設計”に固執しやすい
など、日本に特有の“現場重視”や“経験主義”の伝統と、AI開発の世界的スピード競争との間には、ギャップがあることは否めません。
しかし、この記事が繰り返し語るのは、
– 汎用的かつ不断に能力進化するAIを前提とし、
– 軽やかに顧客現場と向き合い、
– うまくいかなかったアイデアも「定期的に再チャレンジ」するサイクル
こそが、時代の大きなシフトで「勝ち残る」唯一の道だというシンプルかつ厳しい教訓です。
今こそ「学習コスト」の価値を再定義したい
人間が「失敗」に膨大な時間や心を費やし、挫折すること自体は決して無駄ではありません。
しかし、筆者も最後にこう述べています。
“It’s hard to not let your ego get in the way when you realize you’ve built a few things that haven’t hit the mark. But my advice is to give yourself some grace; we’re all building in a new space where the ground is shifting beneath us every day.”
(引用元:Bitter lessons building AI products)
時代が変われば価値軸も変わります。
“自分は遅れている・失敗ばかり”と卑下する必要はありません。
大事なのは、進化を歓迎し、適切に自分たちのスタンスを見直し、「AI自体が進化するのを待つ勇気」もプロダクト開発の一部として受け入れる、「緩やかなプロ意識」でしょう。
これからAIプロダクトを作りたい人へ—本当に大事なことは?
AIは、日進月歩で進化するというより、“瞬時に”世界を書き換えることすらありえます。
従って、今「失敗」しても、速やかに見切って時が来たら再度トライする。
そして、無用な「こだわり」より「最新環境でどんな価値提供が可能か」を常に問い直す柔軟さが、時代のリーダーになる必須条件です。
この記事の教訓は、AI分野だけでなく全てのプロダクト開発、イノベーションの現場にヒントを与えると感じました。
「賢い撤退」の美学、みなさんも現場で試してみてはいかがでしょうか。
categories:[technology]


コメント