この記事の途中に、以下の記事の引用を含んでいます。
Thoughts on Visual Programming
プログラミングは“昔のまま”?──ASCIIテキストの壁に挑む問題提起
この記事は、プログラミングにおける「ビジュアル(視覚的)プログラミング」の現在地と、なぜいまだに私たちがモノスペース(等幅)ASCIIテキスト主体でプログラミングし続けているのかという、根本的な問いを投げかけています。
筆者は自らの幼少期の経験を皮切りに、Delphi 1.0やDreamweaver、FrontPage、Game Makerといった過去のビジュアル系ツールを振り返りつつ、現代に至るまでなぜ“本格的なビジュアルプログラミング”が主流にならないのか、その背景と意義を分析しています。
まさかの現実:AI時代でも“テレタイプ”流儀が生き続ける!?
記事中で特に象徴的だった指摘を引用します。
“Computers have made absolutely incomprehensible leaps in performance and capability since the 1940s, but we still program them like we did in the 1980s! … The standard interface to most programming language compilers is an emulator of a device from the late 1800s. The most popular editor these days, Visual Studio Code, is downright alergic to toolbars.”
つまり、80年代やそれ以前と同じような等幅フォントのテキストエディタ(現代ならVS Codeなど)で“文字を打ち込むスタイル”が、未だに標準的なインターフェースであり続けている、という指摘です。
さらには、最新の生成AI(LLM)を用いる現場ですら、テレタイプ端末のエミュレーターにASCIIテキストを打ち込んでいるだけ──
「It’s like a caveman asking a robot to bang rocks in order to start a fire」と茶化しており、これはまさに現状の非合理性を端的に表しています。
なぜビジュアルプログラミングはメインストリームになれないのか?
筆者は、ビジュアルプログラミングが一般的な開発現場で普及しない主な理由として“ASCIIテキストそのものの利便性”を技術的に掘り下げています。
“The loose nature of ASCII text is a feature, not a bug. The ability to copy-paste and tweak some characters or ‘find-and-replace’ a bunch of times to refactor some piece of code … arrives at the destination much faster than having to follow a limited set of always valid but otherwise rigid transformations.”
この指摘が示すのは、ビジュアルプログラミングがしばしば“直感的”“入門にやさしい”“教育寄り”と評価される一方、実際の開発現場で求められる「柔軟な編集」「高速な試行錯誤」「豊富なツール群」といった点で、モノスペーステキスト形式に太刀打ちできていない現実です。
特にプログラム構造の高度な抽象化やリファクタリングといった作業は、複雑なノードグラフやフローチャートで行うよりも、テキスト編集・検索・置換等の柔軟で爆速な操作の方が圧倒的に強いわけです。
更には、UMLなど業界が本格的に投資した“ビジュアルによる設計論”も「実コードへの変換の乏しさ」という痛い失敗例を挙げています。
見落とされがちな「即時性 (Immediacy)」──成功するビジュアル系の共通点
しかし、すべての分野でビジュアルプログラミングが不遇なわけではありません。
記事では、ゲーム制作やシミュレーション工学の分野での事例――Game Maker、Construct 3、SimulinkやAmesim――などの成功例も丁寧に紹介しています。
“Why have these tools succeeded where others have failed? I believe the main reason is what I like to call immediacy. It’s how close the level you’re working at is to the level you’re thinking in, how quickly you can get feedback, and how easily you can reflect it back onto the code.”
ここで筆者が強調するのは「即時性」──自分の思考レベルと操作対象がどれほど近く、どれだけ素早くフィードバックが得られ、その結果を即座にコーディング内容へ反映できるか、という要素です。
SimulinkやAmesimのような工学向けツールは、グラフィカル操作だけでなく強力な抽象化、膨大な標準部品群、即座のシミュレーション、動的可視化までを備え、しかもエキスパート向けで“万人受け”志向のノーコードとは本質的に異なります。
これが「成功するビジュアルプログラミング」に不可欠な条件である、というのです。
ASCIIテキストの“不思議”な強さと、ビジュアルの「本当の価値」
筆者はまた、ASCIIテキストがなぜここまで強いのかも具体的に述べています。
決してただの惰性や伝統ではなく、「コピペによる構造変更」「中間的に“壊れた”状態からでも探索しやすい」「豊富なテキスト系ツールや生態系」「API・ライブラリ・標準化といった基盤がすべてテキスト前提でできている」など、合理的なメリットの結集なのです。
そして「ビジュアルプログラミングの本質」は、“描画”ではなく“視覚化 (Visualization)”にあると論じます。
“The really helpful part of Visual Programming is not the ‘drawing’, it’s the ‘seeing’. Even in the monospaced ASCII world we make use of visualization … Indentation and syntax highlighting are visual aids to help our brains map ASCII text to a mental AST more quickly.”
この記事の核心の一つは、「アスキーの世界でさえ、インデントやシンタックスハイライト、デバッガのステッピング等“見える化”の工夫がすでに本格的に取り入れられている」という点でしょう。
つまり、重要なのは“絵”として描くことではなく、「頭の中にある動的なイメージや構造を、いかにして画面上に“即時的=immediacy”にマッピングさせられるか」というUX体験のデザインだという主張です。
考察:今後のプログラミング「見える化」に何が求められるのか
この論点は、単なる懐古趣味やラジカルな新技術推しからは導きだせない、非常にバランスの取れた洞察だと私は考えます。
多くの非エンジニアや“コードに苦手意識”のある人から信奉される「ノーコード幻想」は、実務現場や本当に抽象度の高い開発ではしばしば裏切られますし、「本格ビジュアルプログラミング」も、冗長さや表現力の乏しさ、メンテナンス性や拡張性の壁に直面することが多いのです。
一方で、工学モデリングやゲームエンジンなど、超ドメイン特化&即時シミュレーションが重視される現場では、ビジュアル・モデリングの即効性・フィードバック速度・抽象化能力によって、人間の本質的な“直観”と創造性を爆発的に加速している事例も事実、存在します。
私の立場としては、テキストvsビジュアルの二項対立自体が誤りであり、本質は「開発者の認知負荷をいかに下げ、創造的ループを高速回転させられるUX/ツール体験をどう作るか」に集約されると考えます。
たとえば、データフローの可視化、エラーパスやパフォーマンスボトルネックのインスタント可視化、ビジネスロジックのシナリオごとのダイナミクス描画など、「ただのフローチャート」以上の高次元“見える化”機能をテキスト+グラフィクスで統合的に実現できてこそ、ASCIIテキストでは到達困難な領域に到達できるのです。
まとめ:「考える」ではなく「見える」──これからのプログラミングUXへの気づき
この記事は、ビジュアルプログラミングに対するよくある楽観も悲観も鵜呑みにせず、現実的で冷静な分析を基に「本当の付加価値」を問う貴重な論考です。
最終的な結論は、「“見える・分かる”ためにビジュアルを使うのであって、絵を描くこと自体が目的ではない」
そして、「即時反映されるフィードバック」「思考レベルと操作レベルの近さ」こそが、真に生産的なプログラミングUXを実現する鍵だ、という示唆にあります。
読者へのメッセージ
私たちは本質的に、「自分がどう考えているのか」「システムが今どうなっているのか」「どこをどう変えれば、何が変わるのか」を、よりダイレクトに“見える”道具・体験を求め続けてきました。
それはテキストであれグラフィクスであれ、あるいはその融合形であれ、「人間の理解と創作」を極限まで促進するUXが、今後の開発ツールに最も求められる価値なのだと肝に銘じるべきでしょう。
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