この記事の途中に、以下の記事の引用を含んでいます。
Invasion Intensifies on Karipuna Indigenous Land in the Brazilian Amazon
「絶え間ない侵略」―カリプナ族の土地に何が起きているのか?
ブラジルのアマゾン北西部、そしてカリプナ先住民族の居住地で、違法侵入が近年再び深刻化しています。
世界的なNGOであるSurvival Internationalの警鐘や、現地リーダーたちの声をもとにモンガベイが報じたこの記事は、単なる森林伐採の話を超え、「現在進行形の民族と生態系に対する侵略」のリアリティを伝えています。
本記事ではその現状を概説しつつ、なぜ違法行為が止まらないのか、また被害が「社会」「文化」「生態系」という複層的な広がりを持つことを深掘りしていきます。
悲痛な現場ルポ、「壊される場所が増えていく」
記事ではカリプナ族のリーダー、アンドレ・カリプナ氏の証言が紹介されています。
“This year has been very difficult because there are a lot of people on our territory,” André Karipuna, the chief of the Karipuna people, told Mongabay in an audio message. “We identified new places [that are being invaded], a place that had not been disturbed before and is now being destroyed.”
(今年は本当に厳しい年だった。というのも、我々の土地に多くの人間が侵入してきているからだ。以前は手付かずだった場所にまで、侵略が拡大し、今まさに破壊されている、という現状がある)
さらに、カリプナ族の指導者たちは2024年7月の連邦政府による一斉摘発についても言及しています。
役人が違法インフラや橋を破壊したものの、「誰一人として逮捕・責任追及されなかった」という点が非常に象徴的です。
そして、それにも関わらず侵略はじわじわと再開している、という現実が指摘されています。
「法律はある、監視も約束された」―なのに止まらない侵略。その背景とは
一見すると、法整備や行政の介入がなされているように見えます。
例えば、記事にはこうあります:
Under Brazilian law, invasion or occupation of Indigenous land is a serious criminal offense, backed up by the Constitution and a statute that increases penalties by a third when crimes harm Indigenous people.
(ブラジルの法律では、先住民の土地への侵入や占拠は重大な犯罪であり、憲法や、先住民への損害発生時に罪が1.3倍加重される特別法により厳しく禁じられている)
にもかかわらず、現実には取り締まりも不十分で、政府の対応も継続しません。
違法伐採業者や土地強奪勢力(Land-Grabber)は、監視の目が届かないことを逆手にとり、繰り返し侵略行為に及んでいます。
また、衛星画像により「2024年に194ヘクタールの森林消失」が記録されているなど、環境データも被害の拡大傾向を裏付けています。
社会構造・国際事情による根深さ
この記事でも要点の一つですが、単なる「監視の穴」では済まされません。
アマゾンの大規模開発志向、農地拡張、そしてグローバルな経済誘因――これらが違法伐採や土地取得ビジネスを後押ししています。
また、現地先住民の数自体が減少し、抵抗力が低下しているのも事実です。
19世紀には数千人規模で存在したカリプナ民族も、現在は「63人と1つの村」を残すのみ。
まさに存亡危機と言っても過言ではありません。
なぜ国や国際社会は本気で守ろうとしないのか――批評的考察
一連の記事から明らかなのは、「法の空文化」と「行政の責任不履行」だけでは説明しきれない複雑さです。
抑止力なき摘発の問題
政府はたしかに不定期で摘発作戦を行っています。
しかし、
Officials destroyed 17 bridges and 38 illegal access routes as well as other illegal infrastructure, the Ministry of Indigenous Peoples told Mongabay by email. No one was arrested or held responsible.
(役所は17本の橋、38か所の不正アクセスルート、その他違法インフラを破壊した、と先住民省はメールで述べたが、誰も逮捕も問責されなかった)
このような事例は、違法行為の抑止力としてほとんど機能していないことを示しています。
要するに、「見せしめにならない摘発」です。
先住民族にとっての「食」「文化」まで破壊されるリアル
記事の終盤、現地リーダーはこう指摘します。
“These invasions cause countless social, environmental, economic, food-related and cultural impacts,” Adriano Karipuna said. “I feel outraged. … This is a situation that can no longer be tolerated. It simply cannot go on.”
つまり、違法侵入・伐採行為は単に木が切られるだけでなく、彼らの食料調達や文化的アイデンティティ、集団としての存続基盤をも根こそぎ奪うものです。
村の消滅は「生態系の消失」と等価なのです。
グローバル経済と現地のジレンマ
アマゾンの森林は世界の「炭素吸収源」として機能するだけでなく、多様な動植物の遺伝的資源や、まだ解明されぬ伝統医療の知的財産も蓄えています。
にもかかわらず、「地元経済=森林伐採と土地転売」で回る社会構造が、過去何十年と続いているのが現実です。
一度形成された利権構造・雇用構造は、時の政権や外圧(グローバル企業のバリューチェーン規制)だけでは簡単に解体できません。
「このままでは消えてしまう」――読者にできるアクション
以上のように、カリプナ族の問題はまさに「絶滅」「文化消滅」というギリギリの局面にあります。
しかも、制度や法律、行政的な介入だけでも解決は難しそうです。
知ること、つながること、消費の選択から変えること
- まずは現実を正しく知る――本記事のように「現場の証言」を継続的に発信・共有することは極めて大きな意味があります。
- 国際的なNGOや監視ツール(衛星データなど)を通じ、遠く離れていても「動きを止めない」工夫が必要です。
- 日本を含む先進国の私たちも、食品や家具など「アマゾン産原料」や「違法伐採リスク」を調べて、消費行動で間接的に圧力をかけることは可能です。
総括:森を守ること=人と文化の存続、という視点を
いまだにカリプナ族の声がほとんど届かない現状は、「自然保護」と「人権・文化保護」が切り離されてきた歴史の帰結でもあります。
森林破壊・土地収奪は、遠い話でも抽象論でもありません。
小さな村や民族が消えることで、世界は二度と戻らない「情報・文化・生態系の遺産」を失うのです。
今後もこのような現地発のルポや証言を、他人事ではなく自分ごととして受け止めていきたいものです。
categories:[society]
コメント