AIはなぜ「考える」のか?──チェーン・オブ・ソートから最新LLMの思考戦略を読み解く

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この記事の途中に、以下の記事の引用を含んでいます。
Why We Think


1. いま、「AIの思考」はどこまで進化したのか?

近年、LLM(大規模言語モデル)による推論能力が飛躍的に向上しつつあります。
その陰に、「考える時間」(test-time compute)や「チェーン・オブ・ソート(CoT)」といった新たな手法の登場が大きく寄与しています。

けれども、「AIが考える」とはいったいどういうことなのか?
チェーン・オブ・ソートは本当に人間的な「思考」に近づいているのか?
こういった疑問に、引用記事は実証研究の知見や先端技術の紹介を通して踏み込みます。
本記事では、その主張や背景を解説しつつ、議論の意義や今後の展望について独自の視点から考察します。


2. 驚きのパラダイム転換──AIが「考える時間」を持つ意味

まず、記事は「test time compute」すなわちAIが生成時に使う「考える時間」と、「チェーン・オブ・ソート(CoT)」がモデルの性能向上に与える影響に注目します。

Test time compute (Graves et al. 2016, Ling, et al. 2017, Cobbe et al. 2021) and Chain-of-thought (CoT) (Wei et al. 2022, Nye et al. 2021), have led to significant improvements in model performance, while raising many research questions.
This post aims to review recent developments in how to effectively use test-time compute (i.e. “thinking time”) and why it helps.

Enabling models to think for longer can be motivated in a few different ways.

とあるとおり、「AIに“考える時間”を与えることが重要である」という認識が広まっています。

さらに、このアプローチは人間の思考様式にも類似すると言及しています。

The core idea is deeply connected to how humans think.
We humans cannot immediately provide the answer for “What’s 12345 times 56789?”
Rather, it is natural to spend time pondering and analyzing before getting to the result, especially for complex problems.

人間が複雑な問題に直面した際も、瞬時に答えを出すのではなく、時間と努力をかけて熟考します。
この構造をAIに取り入れることで、より高度な推論力を発揮できるというわけです。


3. CoTの人間的側面と、計算資源としての“時間”

人間の「速い思考」と「遅い思考」

記事はカーネマンら(『ファスト&スロー』)の「二重過程理論」を引き合いに出します。
人間の思考は直感的・高速だがミスの多い「システム1」と、論理的・遅い「システム2」で構成されているとされます。

AIも開発初期は「システム1」的な即答を目指してきましたが、今やモデル規模が大きくなるに従い「システム2」的思考の模倣(深く考える、手続き的推論、熟考した回答生成)が有効となってきたのです。

モデル内部の「計算リソース」の設計

また、AIを「計算資源の利用効率」という観点から捉えています。

One view of deep learning, is that neural networks can be characterized by the amount of computation and storage they can access in a forward pass, … if we design an architecture or system that can do more computation at test time, and we train it to effectively use this resource, it’ll work better.

In Transformer models, the amount of computation (flops) that the model does for each generated token is roughly 2 times the number of parameters.

すなわち、「生成時の計算量を増やし、その分しっかりと考えるよう訓練することで、AIが賢くなる」という帰結となります。

たとえば、CoTのように途中経過(思考の連鎖)を生成させることで、問題の難しさに応じて柔軟に「考える量」を増減できる仕組みが実現されます。
これは人間の「今はちょっと慎重に考えよう」に近い挙動といえるでしょう。


4. チェーン・オブ・ソート(CoT)の実践──テスト時の賢いサンプリング技術

「思考の途中」を見せるCoTとは?

もともとLLMは、与えられたプロンプトに即答することが多かったですが、数学問題のようにステップごとに推論が必要な場合は一発で正答を導くのが困難です。

そこで、記事は次のような研究と実装例に触れます。

The strategy of generating intermediate steps before generating short answers, particularly for math problems, was explored by Ling, et al. 2017 … and then expanded by Cobbe et al. 2021 … Nye et al. (2021) experimented with intermediate thinking tokens as “scratchpads” and Wei et al. (2022) coined the now-standard term chain-of-thought (CoT).

CoTでは「step by stepで考えてみよう」とモデルに促すことで、回答までの筋道や根拠を出力させます。
これにより、誤答が減るのみならず「なぜ間違えたか」も追跡しやすく、応用範囲が大きく広がります。

並列サンプリングと逐次修正──AIの迷走と自省

モデルが複数の“思考の枝”を広げてから最善を選ぶ「並列サンプリング」と、一度出力したストーリーを再検討・修正する「逐次修正」の両輪も紹介されています。

  • 並列サンプリングは、たとえば”best-of-N”やビームサーチで複数の解答候補を生成し、「過程評価モデル(PRM)」などに基づいて最善手を選択します。
  • 逐次修正は、モデル自身に「前の回答を振り返って直して」と頼むアプローチ。ただし、そのまま自己修正させると失敗例(幻想、正答を誤答に書き換える、修正意欲の低下など)も多いため、外部からの適切なフィードバック(人間や正解データ、他モデルによる指摘)が重要です。

とくに面白いのは、

Parallel sampling is simple, intuitive and easier to implement, … Sequential explicitly asks the model to reflect on mistakes but it is slower and requires extra care during implementation as it does run the risk of correct predictions being modified to be incorrect or introducing other types of hallucinations.

とのように、現実のAI設計では「素早さと熟考のバランス」「自己修正の難しさ」に開発者が四苦八苦しているという“生”の反省です。

具体的な進化例:「DeepSeek-R1」とOpenAIの新モデル

記事中、最新のRL(強化学習)活用例として「DeepSeek-R1」なども解説されています。
「学習時に二段階の強化学習を行い、推論と非推論タスク双方に強い」という記述も印象的です。

このような先進的モデルにおいては、「間違いを反省し戦略を修正する」いわば“Aha moment”が自発的に現れることも実例として紹介されています。


5. AIの「思考」はどこまで“信じられる”のか?──透明性と信頼性への挑戦

CoTの「誠実さ」とリスク

CoTの大きな強みは、「AIの思考過程=途中経過」が人間にも読める形で“見える化”されることです。
ですが一方で、「その思考過程は本当にモデルの内部で起こったことを忠実に再現しているのか?」という新たな問題も生まれます。

… interpretability rests on the assumption that the model truthfully describes its internal thought processes.

現実には、CoTが人間に読みやすい説明を出しているだけで、モデル内部的にはもっと違うロジックやヒューリスティックに頼っている可能性も。
このような指摘は「AI説明責任」の議論でも避けて通れません。

誤ったCoT、無意味な説明、そして“ブラックボックス”回避

特に注目すべきは次の実験的検証です。

Mistake 1 (Early answering): The model may form a conclusion prematurely before CoT is generated. …
Mistake 2 (Uninformative tokens): Uninformative CoT tokens improve performance. …
Mistake 3 (Human-unreadable encoding): Relevant information is encoded in a way that is hard for humans to understand.

わざとCoTに“間違い”や“意味のない記号”を挟んだり、(人間には読めない)コーディングスタイルで途中経過を出力させたりして性能の変化を調査しています。
意外にも「CoTあり・なしの差はモデルサイズや課題の難易度に依存し、必ずしも人間が解読できる説明でなくても効果がある場合がある」ことが判明しています。

この知見は、AIの“透明性”をどう定義すべきか、CoTをそのまま「真の思考」と呼んでよいのかという根本的問いにつながります。


6. ツール連携・外部知識の導入も鍵に

AIの推論強化には「外部ツールとの連携」も積極的に取り入れられています。

たとえば、数学問題なら途中の計算部分を「コード実行」に、知識探索なら「Web検索API」に任せて処理の正確性や幅を補っています。

  • PAL(Program-Aided Language Model:Gao et al. 2022)
  • ReAct(Reason+Act:Yao et al. 2023)
  • OpenAIのo3/o4-mini等によるWeb検索・画像処理

外部ツールとのインタラクションは、CoTやtest-time computeの考え方と組み合わさることでAIの「思考の深さ」「答えの根拠付け能力」をさらに押し上げます。

なお、自動的に「ユニットテストを自分で生成してコーディング問題の正誤を検証する」アプローチも実現され始めており、モデル自身の“自己点検力”が新たな水準に到達しつつあることを示唆します。


7. エンジニア視点からの考察──可能性と課題、そして未来

“考えるAI”の産業・社会インパクト

AIのCoTやtest time compute技術は、
– 数学・科学教育の自動化
– 医療診断や法的判定の根拠提示
– コーディング問題の自動採点・補助
– 知識探索の根拠の透明化
といった分野で既に価値を発揮しつつあります。

今後、「ブラックボックス→グラスボックス」への変革は、多様なAI利用現場に安心・納得感をもたらすでしょう。

しかし「考える=常に正しい」を意味しない

とはいえ、“考える時間”や“理由を並べる力”を強化したからといって「最終回答の正確性」「説明の誠実さ」が無条件で保証される時代には、まだ到達していません。
CoTの内容が無意味だったり、偽情報を重複して補強したり、“本質的でない社会的バイアス”に過度な整合性を示す危うさも現実のリスクです。

実際、記事中のさまざまな実験では「AIの自己修正や自己反省は単独ではうまくいかず、外部からの適切な監督や評価メカニズムが必要」と強調されています。

また、「人間が読めないCoTでも精度向上効果がある」などの結果は、現状“人間のための説明可能性”と“AIの自己最適化”の間にギャップがあることを示します。


8. 結論──AIの「思考」をどう使いこなすか

AIのチェーン・オブ・ソートや考える時間の工夫は、「表面上の回答速度や正確さ」だけでなく「思考過程の可視化」「問題難易度ごとの柔軟な推論資源配分」「自己修正能力の育成」という観点からも、今後のAI社会実装に不可欠な基盤技術となっていくはずです。

しかし、
– AIの“考え”をどう評価・信頼するのか
– 途中経過の誠実さ・透明性をどこまで担保するか
– 速さと慎重さのバランスをどう設計するか
– 外部ツール等との連携設計はどこまで進めてよいか

など、越えるべき課題も多く残ります。

今後は、人間―AIの協働による「思考過程の納得的共有」や「多様性ある論理パスの選択肢提示」「誤答やバイアス検出の体系化」など、AIの「考える力」と「説明責任」がより実社会に根付いていくための枠組み作りが求められるでしょう。


参考文献・引用記事

本記事はWhy We Think を引用・参照しています。


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