この記事の途中に、以下の記事の引用を含んでいます。
Pair Programming with ChatGPT: An Experience Report
「AIとペアプロ」を試したエンジニア体験記
みなさん、プログラミング中に困ったとき、ChatGPTなどのAIに相談したことはありますか?
今回紹介する記事は、「他のエンジニアが夏季休暇でいない」というやや孤独な状況下、自分の知識外のJavaフレームワーク(QuarkusやMicronaut)で機能移植する仕事が降ってきた筆者が、その助っ人役として初めてChatGPTと“ペア・プログラミング”した体験をまとめています。
この記事はAIによるペアプロの「現実的なメリットと欠点」を非常に率直かつ実用的な視点で語ってくれていて、プログラマーのみならず幅広いIT関係者にとって示唆に富む内容だと感じました。
驚きの事実が発覚!?AIの回答は“いい加減”なことも
記事中で筆者は、具体的なAPIやフレームワークの実装方法をChatGPTに質問します。
するとAIは、一見要件を満たしていそうなサンプルコードを素早く提案。
しかし、「提供されたコードはコンパイルできなかった」と率直に述べています。
しかも、ハルシネーションともいえる間違ったコードや、根本的な仕様の誤認も頻発。
ChatGPTは「@Interceptor アノテーションで @AroundInvoke 付きのメソッドは、(特定アノテーションで明示しなくても)キャッチできる」と主張しましたが、CDIリファレンスや実際のコンパイルエラーによれば、そうではありませんでした。AIの説明は間違いだったのです。
このような「AIは自信満々に間違う」現象は、今やIT業界の“あるある”となりつつあります。
ただし、それを指摘するとChatGPTは即座に謝罪し、まったく異なるアプローチ(でもやはり役立たない方法…)を提示してくるとのこと。
その繰り返しは、まるで堂々巡りの“無限ループ”に近いとも表現しています。
さらにMicronautフレームワークに関するサポートでは「オーバーライドすべきメソッド自体が間違っている」など、明らかな誤りを平気で提案。
これこそ、AIの「知ったかぶり・ハルシネーション」の典型例でしょう。
ChatGPTの活用に潜むワナ~誤用のリスクと生かし方~
記事の本質的なメッセージは、「AIが即座に正解を差し出してくれる万能ツールである」という過度な期待への疑問です。
筆者はこう総括しています。
Stack Overflowのような“人間による実践知”の方が、AIの提案よりも正確で実用的であることが多い。
だからこそ、AIから返ってくるコードを鵜呑みにしてコピペするのは非常に危険。
(同記事より要約)
この主張は極めて重要です。
なぜならAIの強み―膨大な知識や手法を即座に「ヒント」として示す力―は、裏を返せば「実例や検証が不十分なまま断定的な表現をしてしまう」弱点にもつながるからです。
特に、JavaのDIやAOPなど「フレームワーク深層の設計ポイント」は、表層的なAPIリファレンスだけでなく、エラーメッセージや意図まで見抜く人間的な総合判断が求められます。
ここでAIが“役立つ親切な同僚”のように振る舞ってくれるなら理想ですが、現実はまだそこまで到達していません。
AIの誤りは、周辺の学習データが少ない領域や、細かな仕様差がある場合に特に顕著です。
この点は、膨大なQ&Aアーカイブを持つStack Overflowでも、古い情報や誤解を招きうる回答が混在するのと同じ構造です。
しかしながら、Stack Overflowなら“他の人が指摘・訂正”してくれる仕組みが働き、参照する側も情報の真偽を疑う素地があります。
一方、ChatGPTは基本的に「1対1」かつ「訂正する人≒自分」だけ。
結果、AIの出力を何も考えずコピペすると、大事故につながる危険性が格段に高くなります。
それでもAIは“マルチな相談相手”として有望なのか?
では、ChatGPTのプログラミング活用はまったく役に立たないのか?
筆者自身はこう振り返ります。
人的な相談相手が“物理的にもネット上にもいない”という状況では、ChatGPTのようなAIは「最低限の道しるべ」を与えてくれる有用な相棒になりうる。
ただし、提案内容は必ず「自分で検証&ファクトチェック」し、“目利き力”を持って判断せよ――この点が極めて重要。
まさにここに、現時点でのAI活用のあるべき姿が詰まっています。
AIの出力には不完全さや間違い、時に“もっともらしいが完全な手抜き”が含まれていると認識したうえで、「どう使えば一番得なのか」を考えるべきなのです。
現場経験や総合的判断が求められる「設計」「実装」「運用」フェーズでは、AIの回答を鵜呑みにせず、
あくまで「複数のヒントの一つ」として活用する態度が今後ますます重要になってくるはずです。
特に、
– 普段触れないフレームワークや開発言語に“とっかかり”を探したい時
– 細かい設定やAPI仕様を素早く調べたい時
– ある程度の“実験精神”で新しい方法を自分で確かめる気持ちがある時
こうした場面においては、AIの提案が斬新な発想や学び直しのきっかけになることも十分期待できます。
事実、記事内でも「AIが教えてくれた新たな設計手法」については有益だったと触れられていました。
私の考察:AIに“万能感”を求めるな、批判的思考こそ最強の武器
この記事を読んで改めて感じたのは、AI(特にChatGPTのような大規模言語モデル)の出力は、あくまで“参考材料”にとどめておくのが鉄則、という事実です。
「AIは新しいフレームワークを学ぶ“入り口”としては強力。
だが、最終的な設計や実装は、自分の頭とスキルで判断すべき」
――このバランス感覚こそ、今後のソフトウェア開発者に絶対不可欠となるでしょう。
AIのアウトプットを活用する際は、
– 「なぜその回答になるのか?」を自身で分析する
– Stack Overflowや公式ドキュメントなど“複数ソース”で検証する
– 聞きたい内容を“細かく/具体的に”指示する訓練を積む
– 出てきたコードや設計案を、必ず現場環境で実験・評価する
こうした「批判的思考」「情報の目利き力」も同時に鍛える必要がある――という当たり前のことを、改めて突きつけられた気がします。
とりわけAIが提案する「やったことのないライブラリ」「似ているけど微妙に違う設計手法」は、まず“自分で検索・検証し確認する”ことこそ、プロフェッショナルの矜持だと考えます。
結論:AI時代のエンジニアに求められる“知的慎重主義”
この記事が投げかける最大の問いは、
「AIは開発現場でどこまで信用できるのか?」
「AIとの賢い付き合い方とは何か?」
ということに尽きます。
その答えは、決して“信じ切らない”こと。
AIに設計や実装の全てを任せるのは早計であり、「最初のヒントとして使い、疑い、学び直してこそ真価が発揮される」というのが現時点での現実解と言えるでしょう。
今後AIの知識量や精度が格段に向上したとしても、「鵜呑みにせず、自分の頭で考え、必ず現場で試す=知的慎重主義」を守ることが、エンジニアの競争力を保つ上で最大の武器になるはずです。
皆さんも、ぜひAIを賢く・疑い深く使いこなして、「ただラクをする」のではなく「知的好奇心と批判的思考で一歩上を行く」ITエンジニアを目指しましょう。
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