ローマン体の「本当の起源」に迫る──ヴェネツィアで生まれた美のフォント革命

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この記事の途中に、以下の記事の引用を含んでいます。

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驚きの再検証:ローマン体はどこから生まれたのか?

ローマン体(Roman Type)――それは「欧文フォント」と聞いてイメージする定番の書体です。
実は、ローマン体の歴史的な起源については、「フィレンツェ発祥」説がほぼ定説になっています。

この記事では、その通説に鋭いメスを入れ、「じつはローマン体の核心となる部分は、ヴェネツィアで独自進化したのではないか?」という刺激的な話が展開されています。

印刷史やデザイン、フォントに関心がある人はもちろん、「なぜ今、普段使っている欧文書体がこの形なのか?」という素朴な疑問を持つすべての人におすすめのトピックです。


通説を覆す主張:「ヴェネツィアこそがローマン体の元祖だった!?」

まず多くのタイポグラフィ研究者が、「ローマン体は15世紀初頭、フィレンツェのヒューマニズム書体(たとえばポッジョ・ブラッチョリーニの手書き文字)から進化した」と考えています。

記事はこう指摘します:

The general idea that roman type as we know it was derived from the humanistic script developed in Florence in the early 15th century, notably from Poggio Bracciolini’s handwriting, seems to be fairly deep-rooted.

(ローマン体は15世紀初頭のフィレンツェで発展したヒューマニズム書体、つまりポッジョ・ブラッチョリーニの手書き文字に由来するという考え方が広く根付いている。)

実際、フォント史をまとめた大御所の研究者──たとえばバートホルド・ウルマンやスタンリー・モリソンといった名前が挙げられています。

ところが、著者はこう反論します。

But if we consider Jenson’s roman as the archetype of roman type and we look at the work of scribes from the Venice and Padua area where Jenson operated, we may realise that a style of humanistic script was in development there following independent ideas from the Florentine masters.

つまり、ヴェネツィアやパドヴァで活動していた書体鋳造職人ニコラ・ジェンソンの仕事を見ると、そこには「フィレンツェの影響を受けつつも、独自のヒューマニズム書体」が育まれつつあった、という新たな視点が投げかけられているのです。


ジェンソン・ローマン体の美学──「ヴェネツィア流」は何が違う?

歴史をたどると、15世紀後半、ヴェネツィアは印刷の最先端地帯でした。

現代のローマン体の原型とも言うべき「ジェンソン・ローマン体」(Nicolas Jenson’s Roman)が登場したのは1460年代。
その頃、地元の書字職人(スクライブ)たちの影響を受け、早期活版印刷の書体モデルが形成されました。

具体的な違いは何でしょうか。

  • ヴェネツィアのヒューマニズム書体は、フィレンツェ系とは「独立した発展」を遂げていた。
  • ジェンソン・ローマン体では、エピグラフィック(碑文的)で両側に張り出した「serifs(セリフ、ひげ飾り)」や、書き手の手離れを思わせるexit strokeが見られる。

記事では、「ローマン体の定義」についても次のように整理しています。

Rephrasing Carter — often the best source for type history — a type is called roman when the capital letters reproduce classical inscriptional models and the lowercase letters display lapidary (bilateral) serifs at terminations of the straight strokes…

タイポグラフィ史家カータ―を参照しつつ、「大文字が古代碑文(インスクリプション)モデルを再現している」「小文字の直線の端に二方向のセリフがついている」ことがローマン体の基本条件である、としています。

さらに最重要なのは、「小文字の形態」だと世界的なタイプ史家ジェームズ・モズリーがコメントしており、形だけでなく美意識や技術の発達もローマン体誕生には不可欠だったといえるでしょう。


なぜ「フィレンツェ由来説」が定着したのか?──知的ネットワークの成立

なぜ、ほぼ定説となった「フィレンツェ=ローマン体起源」論がこれまで信じられてきたのでしょうか。
理由の一つは、「ルネサンス=フィレンツェ」という文化史的な通念が、書体史にもそのまま投影された点にあります。

フィレンツェでは古代ローマへのオマージュとして、知識人主導で「美しいラテン書体への原点回帰」の運動がありました。
ポッジョ・ブラッチョリーニという有名な写字生(ヒューマニスト)が美麗な書体を広めたことも事実です。

しかしこの記事が問題提起するのは、「実際に活版印刷用のフォントが具体的な形を持つ段階で、“モデルとなった手書き”はヴェネツィアでも独自進化していたのではないか?」という点。

活版印刷という新技術には、単なる筆記美術とは別の合理性(器具的・大量生産的な問題)がありました。
そのため、従来説に頼るだけでは「タイポグラフィ実装」上のダイナミズムを説明しきれない、という批判が成り立つのです。


独自考察:書体史は「持ち寄り型イノベーション」と見よ

私自身は、今ある姿のローマン体というのは、「一箇所の天才」よりも、「複数地域の職人芸と現実的要請」がぶつかり合い、漸進的に“棲み分け”がなされた結果だと考えています。

たとえば、ヴェネツィアには国際的な書籍市場があり、さまざまな「読まれる現場」がありました。
パドヴァ大学など高等教育の拠点も近く、大学で使われる書物に求められる「可読性」「整然とした線の美しさ」という実用的ニーズも強かった。
また、ヴェネツィアは“印刷都市”として独自の規範(市場志向・大量生産性)を発展させた場所でもあります。

そこに、フィレンツェ発祥のヒューマニズム美学と、ヴェネツィア、パドヴァの「現場志向」の筆記文化が接合した。
だからこそ、ジェンソン・ローマン体は単なる「写本書体の模倣」ではなく、「活字としての美と機能の結晶」になったのではないか。
たとえば現在の Times New Roman など現代書体でも、そのDNAを見出すことができます。


いま我々が学べること──“通説”を乗り越える思考のすすめ

この記事が示してくれている最大の学びは、どんな「当たり前」も、批判的・多角的に再検証してはじめて深い理解を得られる、という点です。

印刷技術やフォント史の背景を掘り下げてみると、「一つの都市で誕生→すぐ拡散」という単純なストーリーは幻想にすぎません。
現実には、いくつもの地域・職人のネットワークのなかで、「実用性」「技術的制約」「美的探求」が折り重なり、今日の形態に進化してきた。
たとえば今あなたがこの文章を読んでいる「欧文フォント」も、15世紀のヴェネツィアの印刷工房と、フィレンツェの古典主義思想家、両方の伝統が血肉化しているのです。

この記事は「ローマン体の由来」だけでなく、「イノベーションとは、異なる文脈のダイナミックな交錯によって生まれる」ことをも教えてくれました。
我々自身も、何気ない日常の「当たり前」や「伝統」を一度疑い、新たな視座から対象を眺めることで、新発見や創造力に繋げていきたいものです。


引用元:

The general idea that roman type as we know it was derived from the humanistic script developed in Florence in the early 15th century, notably from Poggio Bracciolini’s handwriting, seems to be fairly deep-rooted. In fact some major scholars who have discussed the origin of roman type have made this claim — and here I am thinking of heavyweights like Berthold Ullman and Stanley Morison.
But if we consider Jenson’s roman as the archetype of roman type and we look at the work of scribes from the Venice and Padua area where Jenson operated, we may realise that a style of humanistic script was in development there following independent ideas from the Florentine masters…

https://articles.c-a-s-t.com/the-venetian-origins-of-roman-type-a856eb3f0cb{:target=’_blank’}


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