この記事の途中に、以下の記事の引用を含んでいます。
OpenAI ‘Stops Giving Legal Advice’, but Has It Really?
驚きの声明?OpenAIは「法的助言」を本当にやめたのか
2025年10月末、OpenAIはその利用規約を更新し、「我々のサービスを法的・医療的助言など、ライセンスが必要な分野で直接の助言として使うことを禁止する」と明言しました。
この動きは、法律界隈やテック界隈のSNSで大きな話題となり、多くの弁護士が歓喜の声をあげたと記事は伝えています。
一方で、今回取り上げるOpenAI ‘Stops Giving Legal Advice’, but Has It Really?の記事では、表面的な規約変更と実際のサービスのギャップに鋭く切り込んでいます。
「本当にOpenAIは“法的なこと”から手を引いたのか?」という問いが投げかけられています。
記事が指摘する「表と裏」──規約の文言とLLMの現実
記事では、規約変更箇所の一部を原文で引用しています。
‘we don’t allow our services to be used…..to interfere with the ability ….to access critical services, including any use case for: automation of high-stakes decisions in sensitive areas without human review:……legal, medical, essential government services,….’
また、
‘…you cannot use our services for: … provision of tailored advice that requires a license, such as legal or medical advice, without appropriate involvement by a licensed professional.’
と明記されています。
つまり、OpenAI公式の立場としては、特定の事例に即した「法的助言」は禁止され、もし使うなら必ず有資格者の関与が必要だ、というわけです。
しかし筆者は、「でも実際には全然変わっていない」と淡々とした筆致で検証します。
なぜなら、ChatGPTやGPT-5は、依然として詳細な法的知識やドキュメント生成サービスを惜しみなく提供し続けているからです。
例えば、「イギリスの雇用法に基づき従業員を雇う手順は?」とたずねれば、関連する法的論点を整理して解説し、さらに「退職間近の社員専用の契約条項も作成してほしい」と言えば、「こうしたら良い」と一条ずつ説明してくれるという、まさに実務家の作業そのものです。
最後に、AI自身が
‘what I’m providing here isn’t legal advice in the formal sense under UK law — it’s general legal information and example drafting guidance. … for formal legal advice (i.e. tailored to your specific facts or enforceability under contract law), you’d need to have it reviewed or signed off by a qualified solicitor.’
と念押しするものの、「法的アドバイスではなく、法一般の情報提供のみ」と位置づけながら、実質上の“弁護士仕事”は提供され続けている現状を示しています。
なぜOpenAIは「線引き」にこだわる?──背景とその社会的意義
この問題の根底には、AIの法的サービス活用が実社会に与える影響が横たわっています。
世界的に見ても、AIへの権限委譲や意思決定の自動化による「公共の安全保障リスク」や「無資格業務(Unauthorized practice)」のリスクは議論の的です。
とくにアメリカやイギリスでは、非弁活動(弁護士資格のない者による法務サービス提供)は明確な法規制の対象であり、違反すれば罰則も。
OpenAIが「法的助言はしません」と公式声明を出したのも、この規制回避とプラットフォーマー責任回避が大きな動機でしょう。
とはいえ、このような「免責ディスクレーマー」付きのAIガイダンスがどこまで規制遵守と見なされるかは、極めてグレーです。
生成AIは、「解説」と「助言」の線引きが本質的に難しい――たとえば、
– 「これは法的情報です」→でもそのまま契約書にコピペできる
– 「個別事情に応じた助言はしません」→でも変数を入力すれば、例文が“あなた仕様”になる
といった状況が日常的に発生するからです。
これにより、AI活用が生む利便性(迅速・安価なドキュメント生成)と、誤解・誤用によるリスク(無資格・ミスや不適合)には大きなトレードオフがあります。
規約上は「形式的に」禁止を盛り込むものの、実際の歯止めにはならないという現実が浮き彫りになります。
「形式的な禁止」では現場は止まらない──私的考察と現実的な落としどころ
個人的に、AI利用による法アクセスの民主化は歓迎すべき側面があると考えます。
たとえば、法的サービスにアクセスできない中小企業や個人にとって、OpenAIのようなツールは画期的です。
「NDA(秘密保持契約)の作成」「雇用契約のひな型生成」「判例の要約や事例のリサーチ」など、グレーゾーンながらも既に日常的に利用されています。
一方で、ユーザーが「これが自己責任だと本当に理解しているか?」となると、疑問は残ります。
ディスクレーマーを読まずに「AIが出した内容だから……」と無批判に受け入れた結果、重大な法的トラブルに陥る例も今後増えるでしょう。
また、規制当局も「AIによる説明はどこまでがグレーゾーンなのか」「入力者とAI運営のどちらにどこまで責任があるのか」という点で、法規制のアップデートが求められています。
形式だけディスクレーマーを入れて“免責”宣言すれば良い、という時代から、真にユーザー保護を実現する方策――
たとえば、
– AIの“法的情報”提供範囲の明確な線引き
– 一定規模以上の法的ドキュメント生成には人間専門家のレビューを必須化
– ユーザー教育や動線でのリスク説明の徹底
こうした枠組み設計が必要とされるフェーズに入ったと言えるでしょう。
「AI活用時代」の法的サービスをどう使いこなすべきか?──読者への示唆
OpenAIの「法的助言禁止」は、ルールとして掲げられたものの、技術現場の実相や利用者の需要にはあまり変化を与えていません。
むしろ、「AIによる法的“助言っぽい”サービス」は今後ますます増えると考えられます。
大事なのは、「AIだから安心」「規制があるから大丈夫」と安易に信じ込まず、
– AIの文章はあくまで“参考情報”であること、
– 大切な取引や裁判等、重大局面では必ず専門家を関与させること、
– 自分が利用するAIサービスの規約やディスクレーマーに必ず目を通し、リスクを正しく理解して利用すること
これらを肝に銘じて、賢く付き合う姿勢が欠かせません。
そして今後、AI技術と法規制のせめぎ合いはさらに先鋭化します。
ユーザー・専門職・サービス事業者の三者が「責任の所在と情報の透明性」について、より高い基準で議論・実装していく時代がすぐそこまで来ているのです。
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