ZIPファイルの落とし穴:パーサの「隙間」を突く新たな攻撃手法とは?

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この記事の途中に、以下の記事の引用を含んでいます。
My Zip Isn’t Your Zip: Identifying and Exploiting Semantic Gaps Between Parsers


ZIPが抱える知られざるリスク——この記事が語るもの

ZIPファイル。
日常的に利用されている圧縮アーカイブですが、実はその仕様の曖昧さが重大なセキュリティリスクを生み出している——本記事は、そんな意外な事実に鋭く切り込んだ先端研究を解説します。

近年、ZIPは単なる「圧縮・解凍ツール」にとどまらず、Microsoft Officeの文書、Androidアプリ(APK)、Javaアーカイブ(JAR)、Visual Studio Codeの拡張機能(VSIX)など、私たちが日々利用するさまざまなソフトウェアの「入れ物」としても活用されています。
しかし、その一方で仕様の解釈に曖昧さが残っており、様々な実装間で「意味のズレ(semantic gap)」が発生することがあるのです。
この「解釈の隙間」を攻撃者が突けば、多様なシステムを簡単に騙したり、保護機構をすり抜けることができるという、見過ごせない課題が浮き彫りになっています。


驚きの実験結果!50種類のZIPパーサが見せた脆弱性

本論文がまず指摘するのは、「ZIPパーサの解釈がシステマティックに食い違っている」という点です。
以下、原文から該当箇所を引用します。

“We developed a differential fuzzer ZipDiff and systematically identified parsing inconsistencies between 50 ZIP parsers across 19 programming languages. The evaluation results show that almost all pairs of parsers are vulnerable to certain parsing ambiguities.”
(引用元:My Zip Isn’t Your Zip: Identifying and Exploiting Semantic Gaps Between Parsers

つまり、独自開発した「ZipDiff」というツールを用い、19言語・50種類ものZIPパーサ(ZIPファイルを解析するプログラム・ライブラリ)に同一のファイルを投げて動作を比較した結果、ほぼすべての組み合わせで「解釈の食い違い」(曖昧性)を突けることが分かった、というわけです。

同論文では、この「曖昧性」を14種類、3カテゴリーに分類し、そのうち10種類については「これまでに報告されていない全く新しいもの」であると明記しています。
この事実が意味するのは、「ZIP解釈の抜け道」が想像以上に多い、という危険性です。


ZIPパーサの曖昧性——なぜこんな脆弱性が生まれるのか?

ZIPファイルがなぜここまで「解釈の違い」を招くのか。
背景には「仕様の不完全さ」と、長年にわたって“拡張され続けてきた”がゆえの歴史的経緯があります。

ZIPフォーマットそのものは1980年代に登場した歴史ある形式です。
時代とともに新しい用途やオプションが次々に追加されたことで、公式仕様が“穴だらけ”となり、細部の挙動を実装者の判断に任せる局面が多々発生しました。
そのため、たとえば「同じファイル名が2回現れたときどちらを採用する?」「圧縮レベルが不明な場合はどう解釈する?」「zip commentやextra fieldの扱いは?」等々、実装ごとにバラつきが生じ得ます。

学術的な意義としては、
– これまでバラバラに報告されてきた個別の脆弱性を「体系立てて」分類した点
– 実験手法としてfuzzingを徹底し「実用的な」攻撃シナリオを多数示した点
が挙げられます。


セキュリティへの衝撃——“曖昧性”を悪用した攻撃のリアル

論文が説得力を持つのは、机上の話にとどまらず、実際に「攻撃が成立してしまった」シナリオを示している点です。
原文から主なシナリオの一部を抜粋します。

“We demonstrate five real-world scenarios where these parsing ambiguities can be exploited, including bypassing secure email gateways, spoofing office document content, impersonating VS Code extensions, and tampering with signed nested JAR files while still passing Spring Boot’s signature verification.”

たとえば、以下のような悪用が可能になります。

  1. メールのセキュリティゲートウェイをバイパス
     悪意あるファイルを仕込んだZIPを送信すると、ゲートウェイと受信者で解釈が異なり「検査をすり抜けたが、開封したクライアントだけに攻撃が成立する」といった現象が起きる。

  2. Office文書の内容の書き換えと偽装
     編集者や受信者によって解釈が異なるため、「あるOfficeアプリでチェックしたときには安全な内容に見えるのに、本当に開くと違う内容が展開される」といった詐欺。

  3. VS Codeの拡張機能のなりすまし
     正規の拡張機能に見せかけて、裏では別のマルウェアを仕込むといったケースも成立しうる。

  4. Javaアプリの署名機能の迂回
     例えばSpring Bootなどは「JAR(実態はZIP)」に署名を付与して改ざん防止をしますが、巧妙なZIPの作り方によって「署名検証には通るが、コード本体は意図通り差し替えられている」という巧妙な迂回が実際に可能とされました。

これらの事例から分かるのは、単なる理論的な話ではなく、「実運用システムに対して、現に成立する攻撃シナリオが複数ある」という重大さです。


なぜ今、この研究が重要なのか?実装者・運用者の視点から

筆者自身、システム開発やセキュリティ領域で実案件にかかわる中で、「圧縮ファイル」の仕様/実装の統一性はしばしば無視されがちだと感じます。
たとえば、自社でウイルスチェックや添付ファイルスキャンを導入しても、「ZIPの解凍エンジン」と「ユーザーのPCのZIP解凍ソフト」が違えば、スキャンに引っかからないファイルが“本番環境では”素通りしてしまうリスクがあります。

さらに、モダンなクラウドサービスやCI/CDパイプラインでも、「ZIP形式の解釈エンジン」や「アーカイブの署名検証」が弱点になるケースが増加中です。
業務現場では「特定のOSや言語、アプリ向けに作ったZIPが、他の環境で正しく解凍できない」といったトラブルが日常茶飯事ですが、これが攻撃者によって「テクニカルな社会的攻撃」として逆利用される危険を強く感じます。

また興味深いのは、本研究が「実際に脆弱性を各ベンダーに責任を持って報告し、バグバウンティ報償(金銭)的にも評価され、幾つかはCVE(共通脆弱性識別子)にも採録された」と明記している点です。
これは、理論だけではなく現実的な社会的インパクトが認められた証左といえます。


現場でできることは?提案された対策の現実味

論文では、発見した問題に対して「7つの緩和策」を具体的に提案しています。
詳細な技術内容は論文に譲りますが、要点だけかいつまむと
– ZIP解析エンジンの実装を正確に揃える
– 仕様の抜け穴、曖昧性が大きい箇所について「エラー→拒否」の方針を徹底する
– 複数のZIPエンジンを併用して「食い違い」がないか自動検査する
– 重要なプロダクト(署名・認証用途など)ではZIP以外のフォーマットも併用検討する

といった取り組みが、今後広く求められることがわかります。

特に、「クロスプラットフォーム」「多言語・多バージョン」が日常化したサプライチェーンやリモートワーク時代には、「ZIPパーサの統一性」や「ZIPファイルの健全性検査」をより重視すべきだと考えます。


ZIP問題——他人事ではない、あなたのIT現場とセキュリティ文化を考える

今回紹介した論文が示す最大の示唆は、「仕様や標準への無批判な信頼は禁物」という点です。
ZIPのみならず、「一見確立された業界標準」こそ、“誰もが潜在的な脆弱性を見逃している”という罠に気付きにくいもの。
エンジニアや現場の管理者は「ZIPパーサの隙間」を「業務リスク」「法令・契約リスク」にすぐに直結させ、対策を考えていくべき段階に来ています。

今後の運用現場では、圧縮形式やアーカイブ手法、署名検証など「普段はInvisible(目立たない)」部分にも、より精緻な監視・検証・アップデート体制が欠かせません。
ZIPに限らず、「標準フォーマットという安心神話」の脆弱性を、常に疑ってかかるセキュリティ文化を根付かせていくことが肝要です。


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