この記事の途中に、以下の記事の引用を含んでいます。
Faced with £40B budget hole, UK public sector commits £9B to Microsoft
驚きの巨額投資、その裏にある事情とは？
イギリスの公共セクターが今、前例のない財政的岐路に立たされています。
2029-30年度には、財政の安定ルールに違反し、410億ポンドの収支ギャップが生じると推定される中、公共部門は今後5年間でマイクロソフト製品・サービスに約90億ポンド（年約1.9兆円）を支出する計画です。
本記事は、英国政府とマイクロソフトの新たな大型契約「SPA24」に焦点を当て、その合理性、代替案、そして国家財政に与える影響を多角的に検証しています。
「SPA24」締結、その内容と主張――関係者の言葉から読み解く
2024年秋、英国公共セクター全体の購買力を活用し、マイクロソフト製品を割引価格で調達できる戦略的パートナーシップ協定（SPA24）が発効しました。
本記事では、こうした契約による支出水準が詳細に報じられています。
“Through SPA24, approximately £1.9 billion has been spent on Microsoft software licences via third-party resellers in the financial year 2024/25. SPA24 enables all eligible UK public sector organizations to access discounted pricing on a range of Microsoft products,” she said.
— Faced with £40B budget hole, UK public sector commits £9B to Microsoft
約1.9億ポンドが契約初年度に支出済みで、5年間で総額約90億ポンド規模の契約が予定されています。
また、英国政府は「SPA24はすべての公共機関にデジタル製品・サービスへの優遇価格アクセスを提供し、公的サービスを日常的に支える」と位置付けているのが印象的です。
なぜここまで多額の「マイクロソフト依存」なのか？ 背景・意義を整理
グローバル標準＝安定運用、しかし代償も
公共セクターのICT（情報通信技術）調達において、グローバル標準であるマイクロソフト製品は「業務の根幹」をなし、オフィススイート、操作性、互換性、サポート体制…いずれも圧倒的なシェアを誇ります。
クラウドサービスへの移行、デジタル化の加速も「マイクロソフトなしでは実現が困難」という現場事情があるのは事実です。
SPA24によって、全国規模の統一ディスカウントと調達プロセスの合理化が図られる一方で、契約は義務ではなく、外部フレームワーク経由も容認されるなど、一見柔軟性のある設計となっています。
しかし、どの程度「真の競争」が残されているかは疑問です。
予算危機との非対称性
マイクロソフト契約の巨額性が特にクローズアップされるのは、同時期の国家予算が極度にタイトであるためです。
「政府の2025年度学校建設関連支出（55億ポンド）は縮減傾向」と、記事は比較データも示しており、逆に「ソフトウェア」の優先度の高さが際立ちます。
オープンソースへの切り替えは現実的か？――批評的考察
本記事でも、明確に疑問が投げかけられています。
“it offers a stark reminder of the level of spending on Microsoft products, alternatives to which are available without a license fee in the form of open source software. The money could be spent on reducing public borrowing, or avoiding spending cuts and/or tax increases.”
— Faced with £40B budget hole, UK public sector commits £9B to Microsoft
つまり、「無償のオープンソース選択肢を導入すれば、負債抑制や増税・歳出削減の回避にこの資金を使えたのでは？」という問いです。
一方で、「マイクロソフトからの乗換コスト」もまた巨大です。
利用者とIT運用チームへのインパクト、既存システムやテンプレートとの互換性、公文書管理の厳格なルールとの適合など、現実的なリスクや摩擦も小さくありません。
「動かしている仕組みの規模」と「ガバナンス要件」は、欧州の中でも英国が最も複雑な部類と言えるでしょう。
実際、かつてドイツやフランスの自治体が野心的にLinuxやLibreOffice等への全面移行を試みた例はあります。
しかし、現場の混乱や操作性の不一致、ユーザーの反発、新たな教育コスト増加から、数年後にはマイクロソフト回帰が進んだことも事実です。
単に「ライセンス費が無料だから良い」とは一概に言えない難しさが立ちはだかります。
「最大多数の便益」はどこにある？――今後への提言
SPA24は、国のデジタル戦略（National Data Strategy, Cloud First Policy, One Government Cloud Strategyなど）とも連動しているため、「単なるソフト資材のまとめ買い」以上の意義を持つと位置付けられています。
しかし、クラウド基盤移行とデータ活用を“マイクロソフト一社依存”で進めるリスク——技術ロックインや交渉力低下、サイバーセキュリティ上の脅威集中など——は、中長期的には決して見過ごせません。
英国議会や自治体には、真の競争原理の維持と、将来的な乗り換え（脱MS）オプションの模索も並行して進める姿勢が不可欠です。
たとえば、限定的な部門やプロジェクトでのFOSS（自由・オープンソースソフトウェア）実地検証、またはクラウドも複数ベンダーを併用する“マルチクラウド戦略”の一層の重視が望まれます。
現場の運用安定性、セキュリティ、コスト最適化のバランスはきわめて繊細ですが、「異常な規模の一方向投資」に警鐘を鳴らす意味でも、定期的な第三者レビューと透明な支出可視化を市民に示す必要があります。
「脱MS＝即効のコスト削減」ではありませんが、「一極集中の長期継続」もまた、未来の選択肢を狭める危険性を内包します。
公共支出の本質と向き合う時――まとめと読者への問いかけ
今回の英国SPA24契約は、「公共サービスの安定」対「財政健全化・多様性維持」のせめぎ合いを如実に示しています。
パッケージソフト大国・英国の現状は、日本の省庁や地方自治体にとっても「他人事」ではありません。
クラウドとソフトウェアの調達戦略こそ、今や“社会インフラ”そのものだからです。
あなたの自治体や組織では、どの程度ソフトウェア調達の多様性が担保されていますか？
現場快適さと、持続的コスト削減、将来の選択肢拡大――このバランスをどう考えますか？
国家的規模の調達、「一社集中」のメリット・デメリット、その長期的影響。
本記事を機に、身近なIT予算にも、ぜひ深い視点で目を向けてみてはいかがでしょうか。
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