この記事の途中に、以下の記事の引用を含んでいます。
Engineers Shake Tallest Steel-Framed Building Ever on an Earthquake Simulator
史上最高層のスチール建物を揺らしてわかったこと
2025年8月、アメリカ・UCサンディエゴの屋外耐震実験施設“シェイクテーブル”で、これまでで最も高い、全高100フィート(約30m)、10階建ての鋼鉄フレーム建築が大規模地震に見立てた揺れに晒されました。
テストでは「実際に起きた1989年ロマ・プリエタ地震(M6.9)」の動きも再現され、構造の強度や限界を徹底的に検証しました。
この種の実験は、従来6階・65フィートまでしか認められていない“コールドフォーミド・スチール(CFS:冷間成形鋼)”を使った高層建築の設計基準を、より高く緩和できるかの重要な判断材料になるのです。
「100フィートまでOK?」実験が語る最新エビデンス
まず、実験の目的と成果について、記事から一部引用して紹介します。
“The tallest steel-framed building ever tested on an earthquake simulator started moving slowly, swaying and twisting. The 10-story, 100-foot structure was experiencing simulations of real earthquakes, including the 6.9 magnitude, 1989 Loma Prieta temblor, as part of an effort to determine if height limits for buildings made of cold-formed steel could be increased.”
このように、記録的な規模のCFS建物を耐震台上で揺らし、現行基準を超える高さでの安全性を探ったというわけです。
さらに、
“Currently, building codes limit this type of construction to 65 feet, or six stories. Researchers are asking whether the limit could be increased to 10 stories, or 100 feet, including in seismically active areas. Test results so far point to ‘yes.’”
現在はCFS構造ビルの高さ制限が66フィート(約20m)ですが、今回の一連のテストではその上限をさらに高くできる可能性が見出されているのです。
コールドフォーミド・スチール高層化が意味する建築技術の革新
なぜ、この実験が革新的な意義を持つのでしょうか。
第一に、「冷間成形鋼」は軽量・非可燃・リサイクル性が高いという特長を持ち、省資源・省エネ時代のニーズにマッチした素材です。
一般鉄骨(熱間圧延材)に比べ、圧倒的な材料効率と施工性の良さを持ちます。
ただし、薄板を冷間で加工しているため、“局所座屈”などの課題を克服しない限り、高層化は許されませんでした。
また、地震国日本では、安全性の検証が極めて厳しく求められます。
このため、既存の建築基準法や国際的な設計基準でもCFS構造の高さ制限はかなり保守的に抑えられてきたのです。
今回は、世界有数規模の屋外シェイクテーブル(野外実大耐震台)という独自の実験装置によって、耐震性能を詳細に検証できたことが特徴的です。
特に「屋外式」は90フィート超の高層構造物を実大で揺らせる世界で唯一の設備であり、多雪や強風、熱環境といった実際の気象条件下でもリアルな検証が可能となります。
技術の進歩がもたらす「都市の未来」—私の考察
この実験の意義は、単なる材料科学の進歩や建設コスト削減だけではありません。
都市の「レジリエンス(回復力)」そのものに直結する破壊的イノベーションなのです。
建築分野で素材革命がもたらす波紋として、次のような点が挙げられます。
1. 持続可能な都市設計への貢献
CFSは60〜70%リサイクル素材から作られているとのこと。
建設業界は世界最大級の資源消費・廃棄物排出産業でもあり、カーボンニュートラル社会の実現に向けて大きな意味を持ちます。
コストパフォーマンスや省力化技術と絡めれば、地方都市や住宅分野への転用も十分考えられます。
2. 設計自由度の飛躍的向上
高さ制限が緩和されれば、都市部の土地利用効率は飛躍的に向上します。
例えば同じ区画内でより多くの住宅やオフィススペースが確保できれば、不動産価格高騰や人口密度問題にも柔軟に対応可能です。
3. 災害多発時代への適合性
日本やアメリカ西海岸のような地震多発地域では、「普段はエコ&ローコスト、非常時にも高い安全性を発揮」という両立が極めて重要。
今回の記事のような「18回もの大地震級シミュレーションでも構造的な一体性を保った」という実績は、実際の設計現場や許認可当局へ強烈な説得力を持ちます。
“Despite 18 earthquake tests of increasing intensity—including three very large at and above what design engineers must consider in designing a building–the load-bearing structural system retained its integrity.”
私の立場から見ても、耐震・耐火・エコすべてを備えた画期的な材料への信頼性が大きく高まりました。
4. 地域の地盤特性や社会的インフラへの波及効果
もちろんクリアすべき課題もあります。
典型的には、地盤沈下や長周期地震動、騒音・熱環境など実生活への微細な影響については、さらなる追試や設計ガイドラインの整備が欠かせません。
あるいは発火までしにくいという点で火災時の二次被害リスクが相対的に低減されるメリットも忘れてはならないでしょう。
“地震国日本”への示唆:未来基準となるか?
今回の大規模実験が世界に与える示唆は大きいと言えます。
日本のように高度な耐震設計が常に求められる環境では、最先端の素材技術・設計法の知見がダイレクトに生かせる分野です。
例えば既存の建築基準法や国土交通省ガイドラインに、今回のようなデータを反映させることで、震災時の死傷者減や復旧コスト削減への道も開かれるでしょう。
さらに重要なのは「経験に基づいた規制」から「科学的実証・データドリブン規制」への転換が始まっている点です。
読者の皆さんへ——「常識」が動くとき
技術革新は一朝一夕には社会実装されません。
けれども、現場レベルから確かなエビデンスに基づく規制緩和・制度改革が進むことで、持続可能な都市・快適な暮らしは確実に現実味を増します。
街中の建物、あるいは自分の家や職場の「素材」が、近い将来変わっていくという未来を、あなたも想像してみてください。
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