OWASP Top 10 2025、何が変わり、なぜ重要なのか? 〜アプリケーションセキュリティ新潮流を読み解く〜

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この記事の途中に、以下の記事の引用を含んでいます。

2025 OWASP Top


アプリ開発者&セキュリティ担当者必見!OWASP Top 10の最新版がやってきた

2025年、Webアプリケーション開発・運用に関わるすべての人へ。
世界で最も注目される脆弱性ランキング「OWASP Top Ten」が、ついに第8版として新たな内容で発表されました。

OWASP Top Tenは、企業や組織が自社アプリを安全に構築・運用し続けるための「定番バイブル」的存在です。
しかし、トップ10の顔ぶれや分析の視点が毎回アップデートされることは、意外と見過ごされがち。

今回は一体、何が変わったのか?
そして情報セキュリティの観点から、私たちはどんな点に注目し、その知見を実務に生かせばいいのでしょうか?

本記事では、2025年版OWASP Top Tenの発表記事をもとに、要点をわかりやすく紹介。
その背景や意義を読み解きつつ、自分なりの視点で解説していきます。


まさかの刷新!2025年版トップ10の主張と特徴

まずは、OWASP公式記事が伝えている主張や特徴を、ピックアップして紹介しましょう。

“There are two new categories and one consolidation in the Top Ten for 2025. We’ve worked to maintain our focus on the root cause over the symptoms as much as possible. With the complexity of software engineering and software security, it’s basically impossible to create ten categories without some level of overlap.”

2025年版では、「新たな2カテゴリの追加と、1つの統合」があり、「できるだけ原因そのもの(根本原因)にフォーカスするよう努めた」と述べられています。
これまでにも指摘されてきた“脆弱性の重複や曖昧さ”を減らし、セキュリティ事故がなぜ起こるのか根っこから明確にしよう、という意図が感じられます。

さらに指摘したいのは、データの集め方や「10項目」の選び方に関するOWASPの姿勢です。

“This installment of the Top Ten remains data-informed, but not blindly data-driven… To balance that view, we use a community survey to ask application security and development practitioners on the front lines what they see as essential risks that may be underrepresented in the testing data.”

膨大な脆弱性データを分析するだけでなく、「現場実感」や「近未来のリスク」を捉えるべくコミュニティサーベイも重視している点が強調されています。
自動化されたテスト結果だけではわからない“肌感覚のリスク”もリストに反映される仕組みを取っています。

カテゴリーの編成手法についてもユニークな説明があります。

“We decided to focus on the root cause whenever possible as it’s more logical for providing identification and remediation guidance. Focusing on the root cause over the symptom isn’t a new concept; the Top Ten has been a mix of symptom and root cause. CWEs are also a mix of symptom and root cause; we are simply being more deliberate about calling it out.”

この表現からもわかる通り、OWASP Top Tenは従来から“症状”と“原因”をごちゃ混ぜにして並べてしまうことも多く、今回から「どちらかと言えば原因に寄せて作る」という方針転換が強調されています。


「根本原因」志向の意味とは? 背景にある業界の悩み

では、なぜここまで「根本原因」へのシフトや、現場感覚の導入を重要視するのでしょうか?

複雑化する現代アプリのリアル

今のソフトウェアは、膨大なOSSとサードパーティ製コンポーネント、自社開発コードが複雑に絡み合っています。
しかも、クラウドネイティブやサーバレス、API連携など多様なパラダイムが急速に拡大。
脆弱性の種類や発生パターンも爆発的増加しています。

OWASP公式記事でも

“We went from approximately 30 CWEs in 2017, to almost 400 CWEs in 2021, to 589 CWEs in this edition to analyze in the dataset.”

と述べられている通り、分析対象となる弱点(CWE=Common Weakness Enumeration)はこの数年で10倍以上に増加!
つまり、従来の「よくある10大問題」だけを押さえても、もはや全体像を見失いやすい時代になったわけです。

この状況下で“重複や曖昧な分類”に頼ったままでは、本当にリスク低減につながる「学びやトレーニング」ができません。
だからこそ、「症状」ではなく「なぜバグが潜むのか?」という設計・実装過程での根本原因に着目する方が、再発防止や対策立案に直接つながるのです。

組織の現場にフィットしやすいリストづくり

さらに、OWASPは「10個の個別CWEを選ぶリスト」方式(MITRE Top 25のような)をあえて採らない理由も述べています。

“By using a category with multiple CWEs we can help raise the baseline and awareness of the different types of weaknesses that may occur under a common category name.”

現実問題として、同じ脆弱性の型でも、言語やフレームワーク、検査ツールごとに異なる指摘が生じます。
また、組み合わせや発生頻度の評価もまちまちです。
こうした「事情」の違いを考慮し、共通名のもとに複数CWEを束ね、現場の実情にマッチする知識展開を可能にしている点は実務的に極めて有益です。


“数字だけ”の危うさと、現場視点の組み合わせの価値

OWASPは公平かつ科学的なランキング作成を目指す一方で、「数字だけで判断するリスク」も強く意識しています。

“The results in the data are largely limited to what the industry can test for in an automated fashion… Everything we find is looking back in the past and might be missing trends from the last year, which are not present in the data.”

自動化テストやNVD(National Vulnerability Database)ベースの分析は“過去に見つかった”情報を主とし、“これから訪れる新傾向”にはどうしても反応が遅れがちです。
だからこそ、開発・セキュリティ両方の専門家が実際に現場で遭遇している、もしくは“直近で重大だ”と感じているリスクをヒアリング(サーベイ)し、実感にもとづくカテゴリ追加を徹底しています。

筆者がこのスタイルを高く評価する理由は、「数字(後ろ向き)」と「現場(今この瞬間)」という2系統の“目利き”をクロスさせることで、より精度・実効性の高いリストができるところにあると考えます。


OWASPトップ10(2025)の改定が現実世界にもたらす影響

見逃せない“2つの新カテゴリ”とは?

2025年版で注目すべきは、以下の2つの新カテゴリ追加です。
(詳細な中身は本家リストを参照いただくとして、ここではトレンド背景を考察します)

  • ソフトウェア・サプライチェーンの失敗(Software Supply Chain Failures)

近年はLog4Shell(Log4jの脆弱性)や、NPM/GitHub経由で意図しない害意を含むパッケージの混入が社会問題化しています。

コードを書かずとも“依存関係・パッケージ管理”が突破口になりうる時代、サプライチェーンリスクがトップ10入りしたことは実に象徴的です。

  • ロギング・アラート機能の失敗(Logging and Alerting Failures)

インシデント発生時、“何が、いつ、どのように起きたか”を追跡・可視化できなければ被害を防げず、法対応もできません。

“攻撃を受けてから気づくまでの空白期間”こそ、最新セキュリティ運用で最大の堀と言えるでしょう。

教訓:「抜け道」の探索はエンドレス

セキュリティ攻撃者は、常に新しい抜け道や攻撃経路を探っています。
OWASPが毎回リストを改訂しても、「完璧な盾」を作ることは不可能です。

それでも本ランキングが世界中で重視される理由は、「現時点で知りうる範囲での最大公約数」だからです。
このリストで指摘される弱点を把握し、次にやってくる未知の脆弱性も早期検知するための「予防思考」「攻めの学習姿勢」を身につけるベースとして活用されることが本質的意義です。


著者の私見:OWASPリスト、“教科書”から“実戦ガイド”に進化した

以前は「とりあえずWebセキュリティの教科書」的にOWASPトップ10を暗記して終わり、というエンジニアも多かったはずです。

しかし、2025年版から一貫して打ち出されているのは「現場のリアル」「根本要因へのアプローチ」「自社に合わせた実践的な工夫」の3点です。
つまり“単なる暗記対象”から、“How to考えるガイド”へ進化した印象を強く受けます。

例えば、自社プロダクトや担当プロジェクトの仕様に応じて、

  • どのCWE(弱点タイプ)が該当しそうか
  • 対象フレームワーク/言語ならどの部分が危ないか
  • サプライチェーン観点でどこまで自動化テストが網羅できているか

など、「トップ10リスト」をそのまま当てはめるだけでなく、“自分たち流の地図”として活用できる柔軟性が増しました。

専門家や現場担当者はぜひ、「自社の脆弱性分析ルーチン」「セキュリティ教育・啓発プログラム」「インシデント対応プロトコル」といった各プロセスに、今回の改訂ポイントを積極的に反映してほしいものです。


まとめ:OWASP 2025から読み取れる、あなたの現場へのヒント

最後に、OWASP Top Ten 2025から私たちが得られる主な学び・示唆を整理しておきます。

  • 過去と現場「両睨みの分析」こそ、実践的リスト作成に不可欠

データだけでは見えないリスクや、目まぐるしく進化する攻撃トレンドもチームで見張るべき

  • 「原因」志向で設計・実装を見直すことが、長期的なセキュア開発の近道

表面的な対症療法で終わらない深堀りが、“事故ゼロ”の近道になる

  • 自分の開発現場の“地形図”としてトップ10を活用せよ

言語・フレームワーク・ドメイン特有のリスクをいち早く洗い出し、新カテゴリや分類方法の変化も常にキャッチアップしておきたい

OWASP Top Tenは決して「すべてを守ってくれる絶対リスト」ではありません。
しかし、ここに込められた視点や工夫は、どんな現場にも必ず役立つはずです。
ぜひ、2025年版をきっかけに、今一度あなた自身のセキュリティ戦略と現場習慣を見直してみてはいかがでしょうか。


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