この記事の途中に、以下の記事の引用を含んでいます。
Wikipedia says traffic is falling due to AI search summaries and social video
「Wikipediaすら例外ではない」ネットの情報環境の激変
インターネットは、情報収集の利便性を飛躍的に高めた偉大な発明といえるでしょう。
しかし、近年のAI生成コンテンツとソーシャルメディアの台頭は、ネット上の「信頼できる情報源」に新たな揺らぎをもたらし始めています。
その象徴が、世界最大級のオンライン百科事典「Wikipedia」で生じている劇的な変化です。
TechCrunchの記事は、『Wikipediaは“the last good website on an internet increasingly filled with toxic social media and AI slop(毒性の高いSNSや粗悪なAIコンテンツであふれるインターネットの“最後の良きウェブサイト”)”としばしば評される』と述べつつも、Wikipediaですら時代のうねりから無縁ではいられない現実を伝えています。
AIと動画SNSがもたらすウィキペディアのトラフィック減少
記事では、Wikimedia財団のMarshall Miller氏による公式ブログの内容を元に、次のような主張を紹介しています。
human pageviews falling 8% year-over-year, according to a new blog post from Marshall Miller of the Wikimedia Foundation.
つまり2025年、Wikipediaへの人間による閲覧数が前年比8%も減少したというのです。
これは、単なる波のような一時的現象ではなく、本質的なトレンド変化を示唆しています。
加えて、AIを用いたボットのトラフィックも多く含まれていたことが新しいbot検出システムの導入で判明した、と説明されています。
なぜ、このような現象が起きているのでしょうか。
記事によれば、
Miller points to “the impact of generative AI and social media on how people seek information,” particularly as “search engines are increasingly using generative AI to provide answers directly to searchers rather than linking to sites like ours” and as “younger generations are seeking information on social video platforms rather than the open web.”
つまり、
– 検索エンジンがAI生成による“要約結果”を直接ユーザーに提供し、Wikipediaなどへのリンクを経由しなくなる
– 若い世代ほど、従来型のウェブよりTikTokやYouTube Shortsなどソーシャル動画から情報を得る
こうした潮流がWikipediaのトラフィック減を加速させている、と解説されているのです。
「情報の源泉」としてのWikipediaの意義、そして生まれる新たな課題
では、Wikipediaの価値や役割そのものが落ちているのでしょうか。
記事内のMiller氏のコメントがその点を明快に語っています。
Miller says the foundation welcomes “new ways for people to gain knowledge” and argues this doesn’t make Wikipedia any less important, since knowledge sourced from the encyclopedia is still reaching people even if they don’t visit the website.
つまりAIがWikipediaの情報を下敷きに要約を作ったり、SNS動画の知識でWikipedia由来の部分が増えても、「人々が直接サイトに訪れなくなった」だけで、情報のルーツ=Wikipediaの役割自体は変わらない。
むしろ裏側で全世界の知識を支え続けている、という指摘です。
一方で大きなリスクも孕んでいます。
記事はこう警告します。
“With fewer visits to Wikipedia, fewer volunteers may grow and enrich the content, and fewer individual donors may support this work.”
アクセス数が減れば、編集者(ボランティア)が減り、寄付も集まりにくくなります。
Wikipediaの最大の強みである「無償で知識を寄せ合い、洗練し続ける持続的なエコシステム」自体が崩壊しかねないのです。
さらに、AIや動画経由で知識を得る消費者には「情報の出どころ」が見えにくくなり、その信頼度や根拠を自分で追いかけて確認する習慣も失われがちです。
それは、ニセ科学やフェイクニュース、あるいは古い・間違った知識の無批判な拡散につながる恐れがあります。
AI時代に問われる「知る力」——Wikipediaの未来は読者次第
私自身、AIチャットボットや検索エンジンの“AI要約”を日常的に利用しています。
例えばGoogle検索やGPT-4の回答の多くはWikipediaからの情報に著しく依存しています。
しかし、その要約や解釈がどこまで正確なのか、また本来の文脈や最新の研究を反映しているのか——結局は元のソースを自分でたどって確認しなければなりません。
特に最近のAIは、極めて説得力ある口調で断定しがちですが、「実は大元のWikipedia記事が刷新され、内容が違っていた」「要約の仕方にAIのバイアスが混じり、誤解を生む」などのリスクが現実に増しています。
また、TikTokやインスタの短い解説動画は情報の入口として便利ですが、情報の信頼性や裏付けを深く掘り下げるには限界があります。
これは「知識の見せびらかし合戦」や、ウケ重視の“ネタ動画”が氾濫する最近のSNS文化の構造的な弱みでもあります。
したがって私たちユーザーは「情報を受け取るだけ」から一歩踏み出し、
– そもそもこの知識はどこから来ているのか?
– 本当に正しいのか?引用の出典は何か?
– 他に異なる見解がないか?
…といった「情報リテラシー」の目を研ぎ澄ませる必要があります。
加えて企業——AI技術やSNSプラットフォームを展開する側も、
Wikipediaのようなオープンで信頼できる情報源への適切な貢献・還元策を設計すべきです。
例えば要約結果の下に明示的な「Wikipediaへのリンク」や、編集ボランティアへのリクルート・寄付の促進などを、システム設計に組み込む責任があるでしょう。
「最後の良きウェブサイト」の未来へ——我々にできること
記事の最後でMiller氏はこう呼びかけます。
“When you search for information online, look for citations and click through to the original source material,” he writes. “Talk with the people you know about the importance of trusted, human curated knowledge, and help them understand that the content underlying generative AI was created by real people who deserve their support.”
Wikipedia says traffic is falling due to AI search summaries and social video
「ネットで何かを調べる時は、出典を確かめ、一次ソースに飛び、本物の知識にアクセスしよう」
「AIの陰で知識を生み・育ててきた本当の人たちに、リスペクトやサポートを伝えよう」
そう強調しています。
AIや動画SNSは今後もネット社会の中心ですが、それでも「知の基盤」を維持するのはあくまで“人間の意志”です。
一人ひとりがWikipedia等に直接アクセスしたり、運営への小さな支援を続けたりすることが、質の高い情報のエコシステムの継続に欠かせません。
AI時代にこそ、「情報の裏を読む力」と「知識の生産現場を守る意識」を——。
この問題はネット市民全員の課題であり、日本の読者にも“当事者意識”が不可欠だと感じさせる記事でした。
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