「NO_COLOR」運動が突きつける、CLIユーザー体験の本質とは?

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この記事の途中に、以下の記事の引用を含んでいます。
No_color: Disabling ANSI color output by default


コマンドラインの「カラフル」が幸せとは限らない?

コマンドラインツールの世界は日々進化しています。

特に近年では、出力にANSIカラーコードを用いて視覚的にわかりやすくする工夫が主流となっています。

Gitやls、grepといった定番ツールだけでなく、自作ツールでも虹色の出力を見かけることが増えました。

しかし、その裏で「みんながカラー出力を好むのだろうか?」という疑問も浮かんでくるのではないでしょうか。

そして実際にこの課題へアクションを起こしたのが、今回紹介するNo_color: Disabling ANSI color output by defaultです。

この記事では、ANSIカラーコードによる出力がデフォルト化しつつある現状と、その背景にあるユーザビリティの課題、さらにそれに抗う「NO_COLOR」プロジェクトの意義と影響について解説します。


驚きの声が広がる?「色付き出力」デフォルトに対する異議

記事冒頭で紹介されているのは、以下のような現状です。

An increasing number of command-line software programs output text with ANSI color escape codes by default. While some developers and users obviously prefer seeing these colors, some users don’t. Unfortunately, every new piece of software seems to have a different way of disabling colored text output and some software has no way at all.
(引用元:No_color: Disabling ANSI color output by default

つまり、コマンドラインツールの多くがデフォルトでカラー出力を行っており、それをオフにする方法もツールごとにまちまち——あるいは無い場合すらある、というのです。

この現実に危機感を抱いた有志たちが「NO_COLOR」という非公式な標準を2017年に提案しました。

その要点はこうです。

Command-line software which adds ANSI color to its output by default should check for a NO_COLOR environment variable that, when present and not an empty string (regardless of its value), prevents the addition of ANSI color.

まとめると、「カラー出力するツールはNO_COLORという環境変数がセットされていれば色を使わず“素のテキスト”を出力するようにしよう」という提案なのです。


利便性の裏で無視されがちな「ユーザー主権」

この提案が重要である理由は、技術的側面だけでなく、CLIユーザーの多様性に向きあった点にあります。

便利なカラー出力ですが、実は誰しもが「カラフル」を歓迎しているわけではありません。

たとえば、こんなケースに注目

  • プログラムの出力をパイプで他のツールに渡すとき
  • 色覚異常があるユーザー
  • カスタムテーマや配色を設定したターミナルで本来意図しない視覚効果になる場合
  • 「ログファイル」や機械処理の中間出力で不要なエスケープシーケンスが混入する弊害
  • 自動化テストやCI/CD環境など色が不要なシーン

実際、筆者もバックエンドエンジニアとして日々ログやツール出力の整形に頭を悩ませています。

カラーコードが混入したままログを解析すると、「余計なノイズ」となり目的に合わなくなることがあります。

さらに重要なのは「色を付けるか否か」が“ツール作者“主体になりがちな点です。

「NO_COLOR」運動は、これを「ユーザー自身の意思でコントロールできる」よう標準化しようとしているわけです。


標準化のメリットと現実のギャップ

「NO_COLOR」のインパクト

「NO_COLOR」標準の最大の強みは、“一度環境変数をセットすれば全ての対応アプリが色無しで動作する”というシンプルさにあります。

引用にもある通り、

users that prefer to have plain, non-colored text output can export NO_COLOR=1 to their shell’s environment and automatically disable color by default in all supported software.

まさに、エコシステム全体で共通動作をユーザーにもたらせる点が画期的です。

また、「NO_COLOR」を実装する例もC言語で具体的に示されています。

c
char *no_color = getenv("NO_COLOR");
bool color = true;
if (no_color != NULL && no_color[0] != '\0') color = false;
/* do getopt(3) and/or config-file parsing to possibly turn color back on */
...

一見シンプルですが、実はこうした環境変数のパターンはUNIX哲学(“Everything is a file”や“configuration by environment variable”)にも沿っています。

設定方法統一の重要性

CLIツールのcolorオプションが「–no-color」「–color=never」「–color=none」等バラバラで毎回manや–helpを読む羽目になる…という経験、ありますよね?

「NO_COLOR」はまさにこれをメタ的に解決します。

逆に、複雑なユースケースへの配慮もぬかりありません。

記事のFAQによれば、

User-level configuration files and per-instance command-line arguments should override the NO_COLOR environment variable. …you can export NO_COLOR=1… but configure a specific program… to specifically enable color.

つまり、「NO_COLOR」で全体をオフにしつつ、個別設定でオンに戻せる設計が望ましいとしています。


批評的に考える:NO_COLORは本当にベストな解?

ここで筆者としては、さらに一歩踏み込んだ視点を持ちたいと思います。

環境変数を使うことの限界

「環境変数による標準化」はUNIX系OSで広く成功事例がある一方、「環境依存」という欠点もあります。

たとえば、

  • GUIアプリやクロスプラットフォームのバイナリでどう設定するのがベストか?
  • 利用者の「意図しない」環境変数セット(例えばcronやdockerコンテナなど)は混乱要因になり得る
  • 色のロジックが「一律オン・オフ」ではなく「内容によりハイライト色を部分的に」など高度化している場合、単純なNO_COLORで良いのか

さらに、人によっては「環境変数なんて覚えたくない!」という層もいます。

記事でも、

The terminal is capable of color and should be able to print color when instructed. NO_COLOR is a hint to the software running in the terminal to suppress addition of color, not to the terminal to prevent any color from being shown.

と述べられるように、「本質的に色が使える設計は良いが、ソフトとユーザーの間に適切な“チューニング”手段が必要だ」と言えます。

開発現場とオープンソースの力学

OSS開発の現場では、「標準化」の合意形成がなかなか難しいものです。

このNO_COLOR運動も、現状“インフォーマルな”標準であり、どれだけ普及できるかはOSS界隈の支持にかかっています。

すでに知名度の高いツール(例:ripgrepやbat、exa等)は対応を進めていますが、今後「デフォルトで色付き出力をしない勇気」もまた問われ続けるでしょう。


まとめ:「NO_COLOR」から得られる3つの重要な示唆

  1. CLIユーザー体験の多様性を認めよう
     UXの改善は「便利なほう」だけでなく「不便と感じる人」への配慮が同じくらい大切です。

  2. 小さな標準化が大きな安心を生む
     NO_COLORのようなミニマルな約束事が、エコシステム全体での混乱を減らします。

  3. OSSは「声を上げること」から世界が変わる
     「ちょっと面倒…」を可視化し提案したことで、着実に動きが生まれている点も見逃せません。


最後に、読者の皆さんがCLIツールを作る際、「色をつける・つけない」を“ユーザーが主役”で決められる設計思想を大切にしてほしいと思います。

NO_COLORプロジェクトは、単なる「地味な標準化」以上に、「ユーザー体験とOSSの健全な距離感」について多くの示唆をもたらしてくれているのです。


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