この記事の途中に、以下の記事の引用を含んでいます。
AP News: FCC taking steps that would allow prisons to jam cellphone signals
刑務所発犯罪の温床、密輸携帯を本気で止める?――FCC、転換の決断
米国連邦通信委員会(FCC)が2025年9月、ついに“刑務所内の携帯電話ジャミング解禁”への第一歩を踏み出そうとしています。
この記事では、なぜFCCがこの決断を下すに至ったのか、携帯電波ジャミングの問題点や論点、現場で起きていること、そして今後にどんなインパクトを与えるかを、解説と考察を交えながら掘り下げます。
結論から言うと、この動きはアメリカの刑務所と社会全体の安全性に大きなインパクトをもたらす可能性がある一方、“副作用”への冷静な備えも不可欠なターニングポイントです。
「犯罪の元凶はスマホにあり?」――当事者の危機感とFCCの変心
記事の中で示されているように、米国刑務所には驚くほど多くの密輸携帯電話が持ち込まれています。
注目すべき引用部分は以下の通りです。
“Federal officials on Friday said they are taking steps that will give state and federal prisons the right to jam the signals of cellphones smuggled to inmates, devices they argue allow prisoners to plot violence and carry out crimes.”
(連邦当局は金曜日、州および連邦の刑務所に、囚人に密輸された携帯電話の信号を妨害する権利を与える措置を講じていると述べた。これらのデバイスは囚人が暴力を計画し、犯罪を実行するのを可能にしていると主張している。)
FCC委員長ブレンダン・カー氏は、
“It may not be a silver bullet, it may not be the right fit for every facility, but there are certainly lots and lots of facilities around this country where this type of solution will and can make a significant difference,”
(これが万能薬ではないし、すべての施設に最適とは限らないが、多くの施設では大きな変化をもたらす可能性がある)
と述べ、刑務所内外の安全確保へ強い決意を示しています。
なぜ携帯ジャミング“解禁”がトピックなのか?――歴史的背景と社会的意義
密輸携帯はなぜ危険視されるのか
実は米国の刑務所では、携帯電話が刑務内外の犯罪の“黒幕”となっています。
記事内でも指摘されている通り、2018年にはサウスカロライナ州刑務所でギャング抗争が長時間にわたり暴発し、
“七人が死亡、これは25年ぶりの最悪の刑務所暴動”となりました。
その背景には、密輸スマホを利用した指示伝達や組織化があったとされています。
さらに注目すべきは、囚人が刑務所の外にいる協力者や被害者・証人に「遠隔で指令」を出せてしまう点です。
被害者の一人であるロバート・ジョンソン氏は“contraband officer(密輸取締官)”として働いていた際、
2010年に「同僚に内部情報を流した」と睨まれ、最終的に外部からの遠隔指示で銃撃を受けています(腹部と胸部に6発)。
この一件でもスマホの悪用が決定的役割を果たしたとされています。
技術と法規制の板挟み
意外に知られていませんが、もともとアメリカでは
「無線通信のジャミング(妨害)は連邦法でほぼ完全に禁じられて」おり、厳格な運用がなされています。
このため、過去にサウスカロライナ州が先駆けてジャミング導入を陳情したものの、
“2019年の現場テスト以降、議会やFCCの許可が必要で前進できなかった”という顛末も記事で紹介されています。
つまり、今までは例外規定なしでは許されなかったのです。
いよいよ解禁、そのインパクトは?――専門家が考えるリスクとチャンス
技術的課題と誤作動リスク
一見「囚人が使う携帯だけ妨害すれば問題解決では?」と思われがちですが、現実はそう単純ではありません。
携帯ジャミングの根本的課題は「刑務所の周辺住民や職員、緊急通報の妨害リスク」です。
移動通信(セルラー通信)はエリアが重なり合っているため、施設の外・近隣住民の生活エリアや公共インフラ、
場合によっては110番・119番(米国なら911)通報にも悪影響を与えかねません。
実際、通信事業者団体CTIAは記事内で
“providers are ‘committed to addressing the serious issue of contraband phones while fulfilling the longstanding Congressional mandate to protect legitimate communications, including vital public safety services, from interference.’”
(通信事業者は密輸携帯対策への取り組みに尽力しつつも、議会の長年の要請である“正当な通信(特に公共安全通信)への干渉回避”を強く守るべきだ)
と、刑務外エリアへの電波妨害を強く懸念しています。
代替策はどこまで現実的か?
記事中にもあるように、多くの刑務所では既に「スキャナーや金網」「上空からの搬入を防ぐネット」など物理的手段を講じています。
しかし、現代の密輸業者は“ドローンやサッカーボール型偽装”といった新手の手法で次々に対策の網をかいくぐっており、いたちごっこ化しています。
つまり、携帯妨害技術は「唯一絶対の解決策ではない」ものの、他の手段と併用してリスク低減を図る現実的な選択肢だと言えます。
適用は“義務”ではなく“選択肢”である点に注目
記事の中でも、“using jamming wouldn’t be mandatory for any prison.”
(ジャミングの導入は義務ではなく選択)と明言されています。
刑務所ごとに問題の深刻度や立地環境が異なるため、“フルオート導入”は危うさもあります。
日本への示唆と、本当に問うべき今後の論点
ここから先は、日本や世界の読者に向けて視点を広げていきたいと思います。
まず、日本でも刑務所や少年院で「携帯持ち込みによる指示・脅迫・逃走計画」などが報じられてきました。
今後、日本が似たような防犯強化を検討する場合、本記事で提起された点――
- 携帯ジャミング技術は公共インフラや救急通信への干渉リスクを慎重に検証すべき
- 電波監理行政と防犯・治安のバランス調整が必須
- 現場の現実に合わせ、物理的対策やIT的監視ソリューションと“多重化”するアプローチが重要
- 導入可否は、各収容施設ごとのリスク評価と合意をベースに段階的導入すべき
このあたりが、日本における今後の大きな論点となります。
加えて、筆者が重要視したいのは「なぜ刑務所内でスマホの密輸需要が絶えないのか」という、刑務所自体の情報管理体制・社会復帰支援の問題です。
根本的な原因――情報遮断による孤立やストレスが過度な密輸需要を生んでいないか、真剣な現状分析と合わせて総合的な対策が求められるでしょう。
「犯罪抑止vs. 通信の自由」 ジャミング解禁で本当に守れるものとは?
まとめとして、本記事で提起されたFCCの方針は「刑務所から社会全体への犯罪指令・暴力拡大のリスク低減」にとって画期的な一手です。
しかし同時に、“通信の自由”や“公共安全インフラ維持”という民主社会の土台にも影響するため、慎重な設計・運用が絶対条件です。
重要なのは、単一の技術による「魔法の弾丸」を期待しないこと。
多角的な視点で防犯・人権・通信インフラのバランス評価を怠らない姿勢が今求められています。
今後の米国の動向は、日本や世界の刑務所対策の未来を考える上で、間違いなく注視すべき社会実験となるでしょう。
あなたは「もし自分の町の隣に刑務所があったら」、どこまでの防犯強化と“影響”を許容できますか?
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