なぜAIは驚異的に感じられるのか?――個人用コンピューティングとセマンティックWebの失敗から考える

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この記事の途中に、以下の記事の引用を含んでいます。
AI is impressive because we’ve failed at personal computing


AIの「すごさ」はどこにある?その裏側にある人間側の“失敗”とは

AI、特にChatGPTのような大規模言語モデル(LLM)の登場に多くの人が驚愕しています。
なぜAIはここまで「すごい」と感じられるのでしょうか。
その背景には、私たち人間社会が「情報のきちんとした整理(構造化)」や「本当の個人用コンピューティング」の発展を十全に実現していなかった歴史が隠れています。
今回はこの点について、『AI is impressive because we’ve failed at personal computing』(AIは、私たちが個人用コンピューティングとセマンティックWebの実現に失敗したがゆえに驚異的である)という刺激的な記事をもとに、深掘り・解説・考察します。


まさかの指摘:「AIの進化」は“私たちの失敗”が生んだ応急措置!?

冒頭、とある質問が提示されます。
「What animal is featured on a flag of a country where the first small British colony was established in the same year that Sweden’s King Gustav IV Adolf declared war on France?」
(スウェーデンのグスタフ4世アドルフがフランスに宣戦布告したのと同じ年にイギリスの最初の小植民地が設立された国、その国旗に描かれている動物は?)

通常の全文検索エンジンでは、この問いへの答えを直接出せませんが、ChatGPTは「Flag of Dominica features the Sisserou parrot, which is only found in Dominica. Great Britain established a small colony on the island in 1805.」と瞬時に正解を出したそうです。

そして記事は続けます。

One of the best applications of modern LLM-based AI is surfacing answers from the chaos of the internet. Its success can be partly attributed to our failure to build systems that organize information well in the first place.

「LLMベースのAIの最良の用途の一つは、『インターネットのカオスから答えを浮かび上がらせること』であり、それはそもそも私たちが情報整理のシステムをちゃんと構築できていなかった“失敗”のせいでもある」と述べています。


テクノロジーが逆行?ファイル管理や情報組織化の「投げやりな現状」

ここで筆者はGoogle Driveを例に挙げます。
Google Driveはクラウドのファイル管理サービスですが、「過去30年のほとんどのデスクトップファイル管理アプリケーションよりも体験が劣る」とまで述べ、その理由を「きちんと構造化して整理するのが面倒だから」と指摘します。
代替策として「全文検索」機能が強調され、結果として「とりあえず何でも突っ込んでおき、あとから検索で探す」というパターンが主流になりました。

また次の引用が象徴的です。

The pattern of giving up on structure and relying on search has quietly become the dominant paradigm.

「構造化を諦め、サーチに頼るというパターンが静かに支配的になった」という解説は、現代WebやITサービスの多くに当てはまる現状です。

検索エンジン、サポートチャットボット、eコマース……どれも「最初から情報を使いやすく整理して提供」するよりも、「とりあえず雑多なデータベースを置き、なんとか検索(あるいはAI)で答えを探せばいい」という流れが蔓延しています。
個別ページに過剰なキーワードを入れたり、ユーザー向けドキュメントよりもFAQボットを重視したりといった現象も、まさにこの「構造に投げやり」な体質が根本にあります。


セマンティックWebと“本当の”パーソナルコンピューティングの夢はどこへ?

記事では「セマンティックWeb」についても触れられています。
「セマンティックWeb」はWebの次世代構想――すなわち「Web上の情報を機械可読な形で精密に意味づけし、リンクし、検索や推論可能にしよう」という野心的なものです。
しかし、現実には

That never happened. Not only data remains unstructured and lacking metadata, even the representation of the unstructured data became difficult for machines to read due to the switch from plain, somewhat-structured HTML to JS-driven dynamic pile of divs.

つまり「データはいまだに構造化されず、メタデータも不足しています。しかもかつてのHTML(ある程度規則的だった)から、今やJavaScriptドリブンでdivだらけの動的なページへと変わり、機械にとってますます読みにくくなったのです」。

ここで忘れてはならないのが「パーソナルコンピューティング」本来のビジョンです。
たとえばHyperCardや、知識を有機的につなぐ「個人用ナレッジベース」のようなもの。
もし情報がきちんと意味づけされ、個人の知識も含めてリンクされ、標準化されていたら……。
自然言語処理は今よりはるかに単純で済み、リソースも桁違いに少なくて済んだはずだ、と筆者は述べます。


AIの“知性”は本当に「知識」なのか?構造化しないままの世界の上に成り立つ“力業”

この記事の本質的な主張は、非常に挑発的です。
「AIはついに人類に知性をもたらした!」ではなく、その逆。
AIは「情報の混沌から一定の意味を引き出す“力業のワークアラウンド”」に過ぎない――そんな風に言っているのです。

AI is not a triumph of elegant design, but a brute-force workaround. LLMs like ChatGPT can infer structure from chaos. They scan the unstructured web and build ephemeral semantic maps across everything.

「AIは優美なデザインの勝利ではなく、ごり押しの応急処置だ。ChatGPTのようなLLMは、構造のない混沌(カオス)から構造を推し量り、すべての上に儚い意味的地図を構築する」。

この主張は、現代のAIへの過大評価に対し、冷静な一石を投じるものです。
Webも個人用の情報も“きちんと構造化する”努力を怠ってきた。
その“つけ”をLLMが人為的に回収しているだけなのでは?と。


私見:AIに任せきり、“整理しないままでよい”世界は幸せか?

この考えは私たちに重要な問題を投げかけます。
今や私たちは「とりあえず全部詰め込んでおいて後からAIや検索で何とかする」というクセを、デジタル社会のあらゆる局面で当たり前にしています。

例えば:
– 社内文書管理では、古いスプレッドシートやPDFを各所に放置したままチャットボットに質問して解決しようとする。
– 個人の知識管理も、ノートやファイルを「あとで検索すればいいや」と、体系だった分類やリンク付けを面倒がる。
– eコマースやブログ運営でも、正確な商品属性やタグ付け、関連情報の整理は後手に回り、検索やAIレコメンドに依存。

短期的な効率追求(面倒くさい作業の回避)が、長期的な“知の再利用性”や“透明性”、“意図的な知識の設計”を奪ってはいないでしょうか?
本当の個人用コンピューティングやセマンティックWebが追求した「知の高度なリンクと分かりやすさ」は、現状では失われてしまったのです。

AIは確かに便利です。
しかし、「何でもAIが答えを出してくれる」のは、構造を作れなかった私たちの無自覚な怠慢の象徴でもある、という指摘には考えさせられます。


まとめ:AIの“成果”を鵜呑みにせず、「構造化」の価値に目を向けよう

現代のAIは混沌から秩序(らしきもの)を抽出します。
でもそれは“設計された知の体系”によるものではなく、むしろ整理や標準化を諦めた世界の上に成立する応急措置です。

では、私たちはこのまま「AIさえあれば大丈夫」と思考停止してよいのでしょうか?
本質的な知識の設計や構造化をサボってよいのでしょうか?

この記事から得られる示唆は明確です。
「情報や知識は構造化され、意味的にリンクされて初めて“再利用可能な財産”となる」。
AIの驚異的な力に感心するだけでなく、その裏にある私たちの「整理・構造化の怠慢」にも目を向けるべきです。

知識社会やデジタル社会の“本当の進化”は、AI任せではなく、人間自らの「構造をつくる」努力からこそ生まれるのかもしれません。


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