この記事の途中に、以下の記事の引用を含んでいます。
Cards Against Humanity lawsuit forced SpaceX to vacate land on US/Mexico border
超異色タッグ! 「ゲーム会社 vs. 宇宙企業」の衝撃的訴訟劇
みなさんは、「Cards Against Humanity(カーズ・アゲインスト・ヒューマニティ)」というカードゲームをご存知でしょうか?
ユーモアと皮肉のきいたジョークで有名なこのパーティーゲーム会社が、今や世界的なロケット企業SpaceXとテキサスの土地をめぐり本気で争った――。
まさかの“不条理コメディ”のような実話が、2025年の米国社会を騒がせました。
この記事は、単なる企業間トラブルの域を超え、政治的パフォーマンス、法制度の限界、そしてネット時代の話題づくりという現代の諸相が複雑に絡みあう事件の真相について解説します。
そもそも何があった? 記事の要点と当事者の主張
2024年9月、Cards Against Humanityは「SpaceXが、自社が保有する米墨国境沿いの土地に無断で立ち入り、工事資材や車両などを持ち込み占拠した」として、最大1,500万ドルの損害賠償と土地の原状回復を求めてテキサス州キャメロン郡地方裁判所に提訴していました。
同社はArs Technicaにこうコメントしています(以下引用は原文どおり)。
“we’ve been in negotiations with SpaceX for much of the last year. We held out for the best settlement we could get—almost until the trial was supposed to start—and unfortunately part of that negotiation was that we’re not allowed to discuss specific settlement terms. They did admit to trespassing during the discovery phase, which was very validating.”
— Cards Against Humanity lawsuit forced SpaceX to vacate land on US/Mexico border
ざっくり訳すと、この1年近くSpaceXと粘り強く交渉し、最終的に和解。ただし内容は非公開となる一方、SpaceX側が「不法侵入(トレスパス)」を認めたことが大きな意味を持つ、と語っています。
SpaceXも裁判資料上、「事前の許可なしに土地へ進入し、整地して砂利を敷き、資材や車両を置いていた」と事実を認めたことが記されています。
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なぜジョークカード会社は国境の土地を? 背景にある「政治的アート」と市民活動
この一連の騒動、いきなり聞くと「なんでカードゲーム会社が土地を買ってまでSpaceXと争うの?」と疑問に感じる人も多いでしょう。
実は、元々この土地は2017年、当時トランプ政権が推進しようとしていた「メキシコ国境の壁」建設プロジェクトに対し、Cards Against Humanityが「壁建設の妨害」を目的としてファンドレイジングし、多くの支持者から寄付を募って購入したものなのです。
つまり、ユーモアと社会風刺を売りにしながら、米国社会問題に対して“文化的抵抗”を実践してきたわけです。
その後、SpaceXがこの場所をロケット開発施設の一部として無断利用。
大企業による力技の占拠 vs. 市民参加型キャンペーンという構図が浮かび上がります。
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不条理ギャグか、アメコミのような展開! コミカルな批判と、現実的な“バトル”
Cards Against Humanityの支持者向けレターが本事件の独特なトーンを象徴しています。
“Dear Horrible Friends, …Elon Musk’s team admitted on the record that they illegally trespassed on your land, and then they packed up the space garbage and fucked off. But when it comes to paying you all, he did the legal equivalent of throwing dust in our eyes and kicking us in the balls.”
— Cards Against Humanity lawsuit forced SpaceX to vacate land on US/Mexico border
「マスクは宇宙ゴミを片付けてとっとと出ていったが、皆にお金を払う段になると煙に巻かれた」と、まるで皮肉コントの決まり文句のような口調。
つまり、ユーモアで武装しつつも、権力者(Elon MuskやSpaceX)の現実的影響力と、法律・金銭的ハンディ(「裁判に勝っても費用回収できるか不明」)の大きさを鋭く批判しているのです。
結局、現金分配は実現せず、代わりに「イーロン・マスクをテーマにした限定ギャグカード・パック」が景品として配布されることになりました。
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複雑な現実:勝ち負けの先に見える“非対称の正義”
ここで注目すべきは、Cards Against Humanity側も「裁判で勝っても支出の方が大きくなり、法的手続き自体のコスト負担が巨大だった」と認めている点です。
“A trial would have cost more than what we were likely to win from SpaceX… we likely wouldn’t have been able to recoup our legal fees. And SpaceX certainly seemed ready to dramatically outspend us on lawyers.”
— Cards Against Humanity lawsuit forced SpaceX to vacate land on US/Mexico border
日本でも、不法侵入や損害賠償訴訟はいざ裁判となれば、訴額や損壊の証拠がなければ費用倒れになることが珍しくありません。
世界的企業ほど法務や顧問弁護士に潤沢な予算を投下できるため、“法の下の平等とは建前に過ぎない”という現実も付随しています。
市民運動×エンタメ企業が大資本と戦う――そこで成果が限定的だったとしても、「不正を公に示させ、制裁を加える」という“象徴的勝利”は、現実社会ではしばしば最善の成果です。
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取材者視点:社会風刺ゲームが体現する新時代の「闘争」スタイル
私は本案件を、「現代的な法廷ドラマ」+「ソーシャル・パフォーマンス」と捉えています。
● お金持ちや権力者(Elon Musk/SpaceX)に対し、市民参加で土地を守り、問題を可視化する。
● 法制度の限界、経済的非対称性で100%の勝利は困難。
● だが大手メディアが報じ、多くの人々が「現金ではなく限定ネタカード」という形で“戦利品”を得る。
現代社会における資本とガバナンス、「正義」とは何かを考えさせられる事件です。
肝心なのは、Cards Against Humanityがもともと社会批評カードゲームであり、「主観とユーモアによる現実の風刺」がこの企業らしい、“らしさ”あふれる善戦だった点。
もし伝統的なNGOや土地管理団体が同じ立場だったら、ここまで世間の話題にはなりにくかったでしょう。
つまり、遊び心こそが現代の社会運動や問題提起の強力な武器になり得ることを本件は示唆しています。
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結論:法より“世論”、現金より“話題作り”――境界線を問い直そう
この騒動で私たちが得るべき教訓は何なのでしょうか。
- 大企業であっても(時には)個人や小規模集団の“妨害”に折れることはある。
- しかし、法廷闘争は圧倒的資本力に押し切られる恐れも高い。
- 勝敗や賠償金額よりも、「社会に問いかける場/物語を創出する」こと自体が大きな成果になりうる。
Cards Against Humanityのような“遊び心と風刺”による抗議が、普通の法廷プロセス以上に多くの人の記憶に残る。
まさにボーダーライン(border line)という言葉の本義――物理的“境界”を超えて、法・金・話題・風刺という多層的な境界に切り込む意味がここにあります。
みなさんも、小さな違和感を「ジョーク」として流してしまう前に、その裏の現実構造や権力関係を考え直す習慣を持ってみてはいかがでしょうか?
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