この記事の途中に、以下の記事の引用を含んでいます。
Buyers Build Their Shortlist – and Why It’s So Hard to Break In
ショートリストの“壁”がB2B営業に立ちはだかる
営業担当者やマーケティング担当者なら誰もが、《どうすれば自社が顧客の「検討リスト」に入れるのか?》という問いに悩んだ経験があるはずです。
従来、「顧客が課題に気付き、情報収集を始めたときにアプローチすれば間に合う」と考えられてきました。
しかし、今回紹介するBuyers Build Their Shortlist – and Why It’s So Hard to Break Inは――「そんな悠長な時代は終わった」という警鐘を鳴らしています。
この記事が語るのは、「買い手がベンダー選定のショートリスト(最終候補)をどのように作り、なぜそこに食い込むのがかつてないほど難しいのか」、そして「われわれは何をしておくべきか」という現代B2Bビジネスの根源的な問題です。
「リストは調査前に決まっている」——衝撃の事実
まず注目したいのは、この記事が引用する大手コンサルBainとGoogleによる最新調査のインパクトです。
記事の中で次のように述べられています。
“buyers are forming their shortlist before they even start researching solutions. This means they aren’t waiting until they recognize a problem to begin considering vendors — they already have a mental shortlist shaped by past exposure, industry conversations, and peer recommendations.”
要するに、「顧客はまだ本格的に解決策探しを始める前から、すでに頭の中で“候補リスト”を作っている」ということです。
彼らは「問題に気付いてから」調査し始めるのではなく、すでに業界内での露出や評判、同僚や友人の発言をもとに、心の中では候補を決めてしまっている。
調査に進む頃には、リストインしていなければ、もはや検討するテーブルにも乗れないのです。
なぜ今、「事前露出」が重要なのか?
では、なぜB2B購買の意思決定プロセスから「フラットな比較スタート」という幻想が消えつつあるのでしょうか?
大きな理由として、情報流通チャネルの変化と膨大な選択肢の存在、そして「人の行動心理」が複雑に絡み合っています。
かつては、顧客が課題解決のために業界イベントや展示会を回り、ベンダーを一から調査するのが一般的でした。
ところが今や、買い手は多忙です。課題が顕在化した段階ですぐに網羅的な調査を始めるのではなく、日頃から業界情報をキャッチアップし、周囲との会話やコンテンツを消化しています。
キーパーソンは自らウェビナーを聞き、LinkedInやコミュニティで意見交換し、新聞や業界レポートをざっと目を通す…すべて「無意識のうち」に“候補ベンダー像”を頭の中で積み上げていく。
気付いたときには、その中から限られた名前しか残っていません。
記事は、「B2B buyers use an average of 10 different channels throughout their decision-making process」と指摘。
意思決定の過程で、買い手はウェブサイト、ウェビナー、LinkedIn、業界レポート…など【平均10のチャネル】を活用している点は、日本でも現実感があります。
「後から割り込む」はほぼ不可能?——現場感ある検証
この心理・プロセスの変化は、私たち営業・マーケターの現場にも深刻な影響を与えています。
たとえば、商談が始まったとき、見込み客から「実はすでに他社と話しています」と言われる場面は珍しくありません。
提案前にリード担当者と話し合ってみても、「前から知っていたこの会社と、最近話題のあの会社の一騎打ち」といった具合で、突然候補に食い込むのは極めて難しい。
さらに、仮に営業活動だけでなく広告や自社サイトに力を入れていても、信頼すべき第三者の声や顧客事例、専門家からの推薦がなければ、「ノイズの多いマーケットの中の一つ」にしか映らないのです。
こうした現実は、「質の高いリードを獲得し、勝率を上げたい」と願う多くの企業が陥る「見えない壁」になっています。
記事の提案——「指名検索されるための戦略」に転換せよ
ではどう対処すればいいのでしょうか。
記事は、その答えとして以下を示しています。
“Buyers aren’t waiting for vendors to pitch them — they’re actively seeking insights. Make sure your brand appears in LinkedIn discussions, industry reports, and other trusted sources they use for research.”
“If buyers are forming opinions before they actively search for solutions, your content must be part of their early research journey.”
顧客が無意識にリストを作る「事前接点」の取得こそ肝心だ、という主張です。
ここからは、私が考える実践的なポイントを3つ付け加えてみます。
1. メディア露出・思想リーダーシップの徹底
第三者メディア、業界団体、プロフェッショナルコメンテーターとの協働なくして、候補にすら入れません。
特定のテーマで信頼を得る専門性、著名人による推薦、客観的な成功事例の発信が不可欠です。
2. 顧客コミュニティの育成と口コミ
記事も指摘する通り、「Buyers trust their peers and independent voices more than vendor marketing」。
導入企業自らが積極的に事例を語り、コミュニティ内で情報が循環しているか。
顧客から自然に推薦・紹介される仕組み作りが求められます。
3. “買いやすさ”の向上
「Streamline access to information, offer transparent pricing, and make it easy for potential buyers to find answers」。
本音として、「分かりやすい」「気軽に相談できる」「概算がすぐ知れる」「ウェブに細かい説明がある」となると、候補リストへの入りやすさが格段に上がります。
批評的視点——万能戦略は存在しないが、“仕込み”の重要性は無視できない
正直にいえば、すべてのベンダーが等しく「ショートリストに先回り」できる保証はありません。
業界初・画期的なイノベーションで一気に評判になる例もあれば、価格競争力や購買ネットワークを武器に短期間でシェアをとる新興勢力もゼロではありません。
しかし、こうしたイレギュラーな成功を除けば、ほぼすべてのB2B領域で「接点の事前構築」が成否を分けているのは否定しがたい事実です。
特にハイコンテクストな日本市場では、「指名検索される」「あの会社なら話を聞きたいと思わせる」余地がなければ、情報過多の中で埋没します。
だからこそ、「営業をかける前から、候補リストのメンバーでいるための仕込み」を愚直に積み重ねること。
広告に頼るだけでなく、業界人との関係・OBOGネットワーク・実体験に基づくコンテンツという“長期資産”へ変えていく視点が今後より重要になるでしょう。
今日からできるアクションは?
1. 社員の発信力を高める
全社員が「業界の語り部」になれるよう、ノウハウやニュース感想を日常的にSNSやオウンドメディアに出すトレーニングを。
2. 既存顧客の「紹介」導線を設計
事例会やユーザー会、クローズドなコミュニティを使い、顧客同士が推薦・情報提供できる仕組みを持ちましょう。
3. “指名検索”を意識したコンテンツ配置
Web・ホワイトペーパー・説明動画・Q&A…顧客目線で「あ、こっちの会社も知っているな」と思われる露出・コンテンツの配置計画が必要です。
まとめ——「始まる前」が勝負。だから準備は怠れない
今回紹介したBuyers Build Their Shortlist – and Why It’s So Hard to Break Inは、「B2B営業で勝つには、もう“始まってから”では遅い」という現実を突きつけてくれます。
気付いたときすでにリストが固まっている世界。
営業やマーケティングにとって、“購買の目が開く前から心に残る存在”になることが、今まで以上に重要だ――それが、これからのB2Bで生き残る最大のヒントと言えるでしょう。
categories:[business]
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