この記事の途中に、以下の記事の引用を含んでいます。
Lessons from Alex Hormozi’s $100M Book Launch
はじめに――これは「ただのベストセラー」ではない
2025年、米国起業家のアレックス・ホルモジが刊行した新著は、たった3日間で360万部以上を売り上げ、合計セールスは1億ドル(約100億円)を突破しました。
これだけでも驚くべき快挙ですが、さらに特筆すべきは”事前マーケティング時点で黒字化”を成し遂げたこと、そして「無料配布なのに有料版が爆売れ」という現象です。
この記事は、この誰もが「バナナ級」と形容するほどのローンチがなぜ爆発的成功を収めたのか、外部から分析したものです。
「大物インフルエンサーだから」「大金をかけたから」だけでは決して語り尽くせない、再現可能な極意が明かされています。
以下では、本家記事の主張を一部引用しつつ、解説者として私の視点で、仕掛けや背景、そして今後のマーケティングやプロダクトローンチに応用可能な示唆を深掘りします。
売上記録を一瞬で塗り替えた「本当の要因」:数字を超えた教訓
記事は次のように冒頭で述べています。
Hormozi topped that [Prince Harry’s record] in the first 90 minutes of this launch, and went on to roughly double it, selling ~2.8M copies in the first 24 hours.
Selling $100M worth of anything feels ludicrous, and people seem to look for reasons they could never do the same.
(ホルモジは、プリンス・ハリーが持っていた最速ノンフィクション書籍販売記録を90分で抜き、24時間でほぼ2倍=約280万部を売り上げた。何かで1億ドル稼ぐなんて馬鹿げてると思うし、自分にはできない…と人は思いがちだ、と。)
この圧倒的な数字を見ると、多くの人が「自分には縁のない話」「フォロワー数と巨額の宣伝費がなければ無理」と考えがちです。
が、著者はそこに対して“Not to let his $4M budget (or his 4M followers) scare us off. Instead, we should take what we can learn from his example, and scale it up or down to fit our own resources.”(4百万ドルの予算や400万人のフォロワー数に気後れするな。再現可能な部分を自分なりの規模に合わせて応用すべきだ)と誘導しています。
この記事が示そうとしているのは、「カネとフォロワーに左右されない本質的な『仕掛けの作り方』」の重要性です。
この視点抜きには、単なる「バケモノ的インフルエンサーの自慢話」になりかねません。
しかし、納得のいく分析と共に、非常に実践的なヒントが詰まっています。
3段構えのコミュニケーション設計と「与える」発想
1回きりの花火で終わらない――三層構造の設計
この記事の中でもっとも面白い分析が、「一度きりのローンチ」ではなく「三つの独立したキャンペーン」が仕掛けられていた、という点です。
After digesting all of that, I think the main thing people are missing when they talk about this feat is that it wasn’t really one launch. When you peel the layers back, it was three distinct campaigns, each with their own offer/goals:
- Pre-Launch: In which the main goal is to drive RSVPs to the launch event
- Launch: Focused on selling as many books as possible in a short time
- Post-Launch: In which the goal shifted to onboarding long-term users to Skool, his platform SaaS product.
(実際は1回のローンチではなく、「事前、当日、事後」と目的も内容も異なる三つのキャンペーンがあった)
この構造は、マーケティング全体を「事前準備」「当日のピーク」「その後の育成」という全く異なる文脈で設計する現代的なプロダクトローンチ手法の実例そのものです。
「無料配布」でエンゲージメントを最大化
特に際立つのは、「無料で価値を渡す」ことに本気で振り切っている点。
ローンチイベントに参加した人へ無料でオーディオブック/電子書籍・スキル共有コミュニティ利用権(Skool)、追加ワークショップやピッチ動画視聴権など、惜しみなくプレゼントを重ねています。
He started with an offer for group one: Free access to the audio-boook, as well as a full e-course on his website that dives into the individual chapters. Also, a free bonus book, and 3 months of free access to his platform (Skool) followed by 90% off there for life.
(まず「お金をあまり持っていない起業家層」向けにオーディオブック・e-ラーニングコース・Skool無料利用権などをすべて無償付与)
一見すると「これでは儲からない」のでは?とすら思いますが、実際は、これらの施策が爆発的な評判拡散・参加率向上、そして本命商品の販売につながっています。
実際の仕掛けの中身――超速リズムとノウハウのコピー可能性
メールで“人を動かす”設計:感情と行動を細切れで積み上げる
メールマーケティングの使い方も、大変興味深いものです。
1か月半で34通、特に直前3日間だけで19通を叩き込む、集中砲火型の配信設計。
しかもその内容は「本の中身を語らない=買ってからのお楽しみ」「イベント参加の動機付け→VIP特典」「知っているインセンティブ+ミステリーギフト」など、期待とサプライズと承認欲の絶妙な配分。
特に「知っている特典・知らない特典」「参加すれば必ずもらえる・抽選でしかもらえない」…この4象限を満たす報酬設計(2×2のインセンティブ配列)は、シンプルですが抜群の納得感です。
読者をワクワクさせ、「一体何が起こる?」とFOMO(取り残される恐怖)を煽る力が極めて強い。
超高額パッケージの「理由づけ」と、コミュニティ拡大
さらに特筆すべきは、「200冊で6,000ドル」といった超大口購入者向け特典。
これらの“ギフト”は単に個人のためでなく「購入者指定の起業家や団体への寄附書籍として使える」という社会性を付与しつつ、購入者には著者直伝の限定ノウハウやAIコーチング、ライブQ&AのVIP権、ネットワーキングなど“普通では手に入らない体験”をセットに。
この仕組みは、「大切なものを他人に与える充実感」と「希少な体験を得るエクスクルーシブ体験」を両立し、売上を最大化しているのです。
「有料だからすごい」ではなく、「無料でも十分満足→もっと欲しい人にはさらに上の体験を…」という階段設計が極めて巧妙です。
解説者の考察――なぜここまで徹底できたのか?
「究極のGIVE精神」+「本命は書籍ではない」戦略
多くの人が誤解しやすいのは、「本を売った」のがゴールではない点です。
記事筆者も明言しています。
the enterprise value of adding hundreds of thousands of paying subscribers to Skool outweighs even a book launch this big.
No, the book launch was essentially a well-engineered, profitable PR stunt that grew his influence, proved he knows what he’s talking about, signed a ton of people up for Skool, and eventually put 3.6M+ books in the hands of entrepreneurs who need them.
(Skoolのサブスク会員を新たに得る方が、百億円の本販売よりも企業価値が高い。書籍ローンチ自体は、影響力拡大・Skoolへの誘導・社会貢献のための巨大なPRスタントだった)
つまり、本気で「与え切る(GIVE)の先に本命商品へ誘導する」設計が、全体設計に一貫しています。
この思想は極めてマーケティング的・起業家的であり、昨今の“ファン化経済”と一致した戦略です。
成功を支える本質的要素:「規模拡大」だけではない再現性
もちろん、ホルモジがすでに豊富なリストや活動資金を保有していたことも事実です。
ただし、記事が再三強調するのは「予算・規模の大小を問わず再現が可能な発想・設計にこそ本質がある」ということ。
- 事前にリストを温める緩急のついたメール設計
- ハードルの低い報酬+希少性の高いVIP特典の組合せ
- “買ってもらうため”でなく“与える体験を積み重ねる”発想
- コア商品の外で稼ぐサブスク/コミュニティへの流れ作り
- イベント自体をニュース化、社会的信用獲得へ活かす仕組み
これらはいずれも、中小企業・個人起業家にも転用しやすい思想・仕掛けです。
事実、記事の著者自身も「この分析を通じて“自分もできるはず”というマインドセットに切り替えられた」と記しています。
結論――ホルモジ流から得るべき「現代マーケティング」の本質
今回の超大型ローンチには、現代ビジネスが直面している「与える側の姿勢」と「コミュニティの力」、そしてスクラッチからバズを起こす“情報設計”の原点が詰まっています。
最先端のインフルエンサー型プロダクトローンチですが、根底にある哲学は普遍的です。
- 与えることの本気度が返報性と評判を最大化する
- “短期的売上”より“関係性とLTV”を重視する
- 体験価値とストーリー設計が人を動かす
これらは書籍ローンチだけでなく、物理商品・デジタルサービス・オンライン講座・コミュニティ運営など、ほぼすべてのプロジェクトローンチに応用可能です。
もしあなたが今「自分には予算もリストも影響力もないから…」と感じているなら、その前提を覆し、「自分が今すぐできる“GIVE体験+体験設計”とは何か」を一度真剣に考えてみてください。
ホルモジのような「爆発的な数字」がすべてではありません。
しかし、彼の方法論、特に“全力で与え・巻き込み・ストーリーと体験で人を集める”姿勢こそ、これからプロダクト・マーケティングを考えるうえで、最も再現性が高く、かつ社会に受け入れられやすいアプローチだと強く感じます。
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