この記事の途中に、以下の記事の引用を含んでいます。
For Gen Z-Ers, Work Is Now More Depressing Than Unemployment
働くより“無職”がマシ?衝撃の現実が明らかに
いま日本でも世界でも若者の労働観は大きく変わっていますが、アメリカでも事態は予想以上に深刻のようです。
ニューヨーク・タイムズの記事「For Gen Z-Ers, Work Is Now More Depressing Than Unemployment」では、“働くこと”そのものがZ世代にとって想像以上にネガティブなものとなっている実態が浮き彫りにされています。
日本でも最近「やりがい搾取」「大企業神話の崩壊」「新卒減少」などが話題ですが、この記事が提起している事実や背景は、就活生・若手社会人はもちろん、経営者や人事担当者にも大きなインパクトを与えるものと言えるでしょう。
「仕事の方が無職より憂鬱」という主張と現実
この記事が冒頭で強調しているのは「Z世代にとって、いまや仕事は無職状態よりも憂鬱なものになりつつある」という強烈な主張です。
“Gen Z-ers don’t even deserve this perfunctory slander, because the entire process of getting and keeping an entry-level job has become a grueling and dehumanizing ordeal over the past decade.”
「Z世代の若者たちは、エントリーレベルの職に就くことも、維持することも、過去10年で過酷かつ非人間的な苦行となったため、やる気がないとか怠け者だと非難される筋合いはない。」
For Gen Z-Ers, Work Is Now More Depressing Than Unemployment
ここで特に重要なのは、従来のような“若者批判”(「最近の若者は…」論)だけでは、もはやこの世代の就労問題を説明できなくなっているという点です。
つまり、「怠けている」とか「根性がない」からではなく、“そもそも働くこと自体が構造的に辛くなりすぎた”――これがZ世代の置かれたリアルな現実なのです。
競争激化と就職戦線の「地獄化」の本質
経済環境の変化が引き起こす「過酷さ」
記事では、経済学者であるマイケル・マドウィッツ氏のコメントとして、現代の雇用市場を「awful traffic jam(ひどい渋滞)」と例え、若者が“高速道路への合流”=職業社会への参入を試みても、どこにも入り込めない現状が描写されています。
“If you’re just out of college, you’re trying to merge into a freeway and nobody is letting you in,” he explained. Employers at companies like Airbnb and Intuit almost sound excited talking to The Wall Street Journal about staying lean and culling the number of employees they have, as long as it creates short-term profits.”
この記述からわかるのは、企業側も「効率化」や「即効性ある利益」によって、人を積極的に増やさず、むしろ“人員整理”の傾向を強めているという現実です。
大手IT企業、スタートアップ、老舗企業に至るまで“人材の長期育成”より“即戦力・少数精鋭志向”が強まっているのは、日本も米国もほぼ同じ状況と言えるでしょう。
無限競争社会が若者を疲弊させる
この記事は、就職だけに留まらず、学生時代から“完全成果主義”や“過度な競争”がZ世代に重くのしかかっている点も指摘しています。
“my colleague David Brooks spoke to a college senior who called young Americans ‘the most rejected generation,’ describing the hypercompetition that has bled into all aspects of life, even for the most privileged college-educated strivers.”
「最も拒絶された世代」になぜなったか。その背景には、学歴・インターン・課外活動・人脈形成…あらゆる面で何かが足りなければ「即“脱落者”」と見なされる過酷な序列化が進行しているのです。
しかもその競争は、いったん社会に出てからも、終わることなく続きます。
“仕事をする意味”が追い詰める構造とは?
「働く=成長・自己実現」はすでに幻想?
近年は「働く=自己実現」「キャリアアップが幸せ」という理想像が、早い段階で通用しなくなりつつあります。
記事の論調でも、「働き続けること自体が地獄」とまで表現される背景には、達成可能な未来像が想像できず、目指すべきロールモデルも減ったZ世代の苦悩が透けて見えます。
そして多くの企業が“雇用安定” “終身雇用” “昇進・昇給”の機会提供から逃げ、「一時的な利益」や「DX・AI等の導入」にアクセルを踏むほど、人と仕事の関係が“消耗戦”に向かう悪循環が加速します。
ウェルビーイング論も現場では逆効果に?
欧米でも日本でも「ウェルビーイング経営」「柔軟な働き方」「心理的安全性」などが叫ばれて久しいですが、こうした取り組みとZ世代のワーク・ディスイリュージョン(労働幻滅)はなぜ両立しないのでしょうか。
それは表面的には「働きやすい」環境を整えても、根本の雇用構造――「消耗せずに安全に成長できる“ゆるみ”のある道筋」が提供されておらず、競争原理&短期志向が勝ってしまっているからです。
無限の努力と成果要求によって、「その場しのぎの幸福感」すら意味を持たないのが現実なのです。
日本社会への「警告」――この構造はすでに他人事ではない
なぜ若者は「逃げる」ようになったのか
Z世代の強みとしてよく語られる「自己防衛力」や「無理をしない価値観」ですが、その背景が「合理的な諦め」や現実的な防衛反応であるという説明抜きには語れません。
どんなに努力しても「将来が保証されない」ことを肌で感じ、SNSを通じて同世代の「勝者」と「脱落者」を目の当たりにする環境であれば、ネガティブにならない方が不自然とも言えます。
日本型ワーカホリズムの終焉
また、かつて日本社会にあった「働くことで人間的にも経済的にも豊かになれる」「長く勤め上げれば恩恵が返ってくる」という構造も、いまや幻想に近づいています。
終身雇用の崩壊、副業解禁、ジョブ型導入、成果主義拡大などが進行するなか、“従来型モーレツ社員”モデルでは過労死リスクが高まるだけになりつつあります。
具体的な変化への対応
企業側も生き残り最優先で「新入社員教育の省略化」「過剰なマルチタスク要求」「年功序列見直し」など表面的な改革を進めてきましたが、Z世代のニーズ――“安全で回復可能なチャレンジの場” “小さな成功体験” “多様な人間関係の保障”など――には必ずしも応えきれていません。
さいごに:“働くこと”の再定義は必要不可欠
Z世代の“仕事観”を物語のように「甘え」「怠惰」で片付けてしまうのは、もはや時代錯誤です。
むしろ“構造的な危機”と正面から向き合い、「どのように働けば幸せになれるか」「組織や社会に何を期待するのが現実的か」を冷静に再定義する必要があります。
この記事が示唆する最大のポイントは、「働くことそのものが自己損耗の連続になっていでしまった時代に“雇用制度や教育システムごと”の抜本的見直しが求められる」ということです。
そのためには個人の努力だけでなく、企業、社会、政策が連携し、「マイナスからゼロ、ゼロからプラスの道筋」を取り戻すことが不可欠でしょう。
雇用の形が“競争の消耗戦”から“持続可能な自己形成の舞台”へと進化しない限り、同じ悲劇が繰り返される可能性が高い――その警鐘として、この記事は大きな価値を持っています。
私たち一人ひとりが「誰もが安心できる仕事環境とは何か」を、改めて問い直すタイミングに来ているのかもしれません。
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