この記事の途中に、以下の記事の引用を含んでいます。
The present and potential future of progressive image rendering
1.「プログレッシブ画像レンダリング」は何が新しいのか?
画像がじわじわと鮮明になっていく──
Webで写真が表示されるとき、いきなりくっきり全体が現れるのではなく、まずはぼんやり低画質な全体像、そこから細部が徐々に描き足されるあの体験。
これこそが「プログレッシブ画像レンダリング(Progressive Image Rendering)」です。
今やWebページの“見た目”の7割は画像データと言っても過言ではありません。
高速・快適・スマートな画像配信は、ユーザー体験の質を大きく左右します。
今回紹介する記事では、
「JPEG」「PNG」「WebP」「AVIF」「JPEG XL」など、現代Web画像フォーマットの“ちら見せ(プログレッシブ)”機能と現実の実装状況を比較。
そして、「何がベストで、どこに課題と展望があるのか?」をエンジニア視点から徹底検証しています。
2.「実際どの形式がどう違う?」──記事で述べられる主張とデータ
記事の中心となる主張は、こうです。
“Progressive image formats allow the decoder to create a partial rendering when only part of the image resource is available. Sometimes it’s part of the image, and sometimes it’s a low quality/resolution version of the image.”
(プログレッシブ画像フォーマットでは、一部のデータが到達した段階で画像の一部や低画質バージョンを表示できる。)
さらに、以下の引用も重要です。
“With JPEG, progressive rendering seems to be free in terms of quality/size, but it isn’t free in terms of decoding time.”
(JPEGのプログレッシブレンダリングは、画質やファイルサイズの点でコストフリーに思えるが、デコード時間には影響する。)
AVIFやJPEG XLについても実測による比較が掲載されています。
“Regular AVIF doesn’t support any kind of progressive rendering. You get nothing, then you get the whole image … But, AVIF does have a little-known progressive rendering feature! … It’s experimental …”
(通常のAVIFはプログレッシブレンダリングをサポートしないが、実験的な機能として”layered”が存在する。)
3. 「何が体験を決めるのか?」──実例で理解する進歩と課題
実際のユーザー体験
現在のWebサイトにおいて、画像の遅延表示に不快を感じるユーザーは少なくありません。
特にモバイル回線や状況によって速度が揺らぐ際、最初に大まかな全体像が見えることで、ユーザーは「何の画像か」を迅速に認識できます。
これは表示順や見た目のインパクトだけでなく、ページ離脱率の低下にもつながっています。
代表画像フォーマットごとの挙動
JPEG
- “プログレッシブ”エンコードが主流。多くのモダンツール(例:Squoosh)でデフォルト設定。
- 少量データで大ざっぱな全体、以降数パスで細部を向上。
- ファイルサイズ増はごくわずかだが、デコード時間は非プログレッシブより「約40%」遅くなる。
PNG
- インターレース(Adam7方式)で疑似プログレッシブ可。ただしファイルサイズ肥大のため非推奨。
WebP
- Chromium系とFirefoxは「上から下」方式でレンダリング。Safariはプログレッシブ表示自体未対応。
AVIF
- 基本は「all-or-nothing」=全部受信するまで何も表示されない。
- ただし“–layered”オプション(実験的)により、ごく初期の低画質バージョンをまず表示、全体受信後に詳細化できる。現状は実験段階で、各種制約多し。
JPEG XL
- 本来プログレッシブにとても強い仕様。
- ところがSafariが唯一の対応状況で、しかもプログレッシブ表示を生かしきれていない(バグ事案もあり)。
- デコードもSafari実装だとAVIFの「約2.5倍」遅いとされる。
「理想のプログレッシブ」と現実──帯域&技術的制約
どんな画像フォーマットでも、「受信が分割してスムースに進む」ことが前提です。
記事中では、
“Congestion and bufferbloat make data arrive in laggy bursts rather than slowly. Very bad signal strength also tends to be on/off.”
(輻輳やバッファ膨張によって、通信は細かく断続的なバーストになる。)
と指摘しています。
現実的には「徐々にデータが届く状況」よりも、「しばらく何も、急にどかっと届く」パターンが増えており、理論上のメリットが発揮されづらい側面もあるのです。
4.「プログレッシブの価値、幻想か現実か?」──筆者&私の考察
・本当に“必須テク”なのか?
記事筆者も、「強い推奨」をする気満々で書き始めつつ、調査を重ねて“ユーザーへの確実な恩恵は限定的”という見解に落ち着いています。
特に、現代的な圧縮フォーマット(AVIFなど)で十分小さい画像なら、「最初から全部表示」でも待機ストレスは小さく、プログレッシブの恩恵が「目に見える場面」は選ばれるのです。
私自身もこの点には同意です。
たとえばECサイトやSNSのサムネ表示のような、画像点数・バリエーションが膨大なケースでは、「1枚ごとの部分描画」は管理コストや検証コストも無視できません。
現状のWebPやAVIFの採用伸長は、「ファイルを極限まで小さくできる」メリットがプログレッシブ体験のそれを凌駕している、と感じます。
・「ワンファイル+部分受信でレスポンシブ」構想は?実現困難なワケ
記事では画像の「レンジリクエスト活用」に言及:
“I’m sorry to be the bad news guy, but I’m pretty certain this won’t work.”
(申し訳ないが、この方式は機能しないと思う。)
つまり、「巨大な1枚を送り、その途中で必要解像度が分かった時点で停止」する運用は、ネットワーク制御の遅延やCORS等の超実装依存課題が山積。
結果的に「現行のsrcsetアプローチの方が現実的で柔軟」とのこと。
・JPEG XLの真のポテンシャル
JPEG XLのプログレッシブ描画は「指向性のある詳細化(たとえば顔優先)」すら理論上できる点が興味深いです。
だが現状は
“cjxl lets you specify a point to use as the ‘center’, but a smarter encoder could detect things like faces and prioritise them.”
(中心点指定は可能だが、より賢いエンコーダで顔検出優先も可能かも)
と、あくまで「将来的な応用」段階。
また全般的に「デコードが重い」「早期リリース実装ではバグ・遅延が多い」という、“絵に描いた餅”感は拭えません。
5.「Web画像配信の未来」から得られる示唆
画像のプログレッシブ表示は、エンドユーザー体験をワンランク上げる“マジック”のように語られがちですが、本質は「伝送環境・実装状況・運用コスト」とのバランスにあります。
特に2024年以降では、
– AVIF/HEIC系の抜群のファイル小型化
– “Web対応度”と“デコーダの多様化”
– 現行のレスポンシブ画像管理技術(srcset等)の成熟
によって「プログレッシブ無し」でも体験向上は十分実現可能になっています。
ただし、超レイテンシ環境のグローバルWeb・あえて“じわじわ現れる”こと自体が体験価値となるサービス(写真家サイトやアート系デザイン)など、“狙ったプログレッシブ体験”には今も光明あり──それが私の結論です。
また、AVIFの「blur付き低解像度プレビュー埋込」提案のように、“ユーザー体験優先 & 実装コスト低”な新提案は今後も現れるでしょう。
**あなたがWeb画像配信を手がけるなら、
「プログレッシブは“デフォルトの正義”ではなく、“ターゲットに応じ使い分けるテクニック”」
として冷静に捉えましょう。
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【まとめ】
- 各画像フォーマットのプログレッシブ機能と現状の「本当の恩恵」「隠れた課題」を整理した上で、小型化と質のバランス、実装の現実性を軸に最適解を考え直すべき。
- 今後はAVIFの「プレビュー内蔵」やJPEG XLの「部分的ディテール優先表示」など体験主導の新技術にも注目。
- プログレッシブ表示は“万能薬”ではありません。
まずは標準的なファイル最適化で通信コストを減らし、必要な場面でのみプログレッシブ機能を導入するアプローチが賢明です。
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