この記事の途中に、以下の記事の引用を含んでいます。
Afghanistan Taliban internet crackdown
驚愕の報道──「通信遮断」という新たな圧政のかたち
2025年9月、タリバン政権下のアフガニスタンで、インターネットが完全に遮断される事態が発生しました。
わずか数週間前から、光ファイバー回線の遮断を皮切りに通信網が段階的にダウンしていき、とうとう全土で「通信ブラックアウト」に陥ったのです。
この記事は、現地の混乱や背景、そして市民生活や人権の重い影響に焦点をあてています。
「道徳」と称される遮断──タリバン政権の主張を読み解く
記事では、ネット遮断の理由について以下のようなタリバン側の説明が引用されています。
the ban had been ordered by their leader, Haibatullah Akhundzada, “to prevent immoral activities.”
(禁令はタリバン指導者Haibatullah Akhundzadaによって、「非道徳的行為を防止するため」に発令された)
また、ネット監視団体Netblocksの発信にもこんな記述があります。
“Afghanistan is now in the midst of a total internet blackout as Taliban authorities move to implement morality measures, with multiple networks disconnected through the morning in a stepwise manner; telephone services are currently also impacted,”
(現在アフガニスタンは、タリバン当局が「道徳的施策」実施の一環として、徐々に複数のネットワークを切断し、電話サービスにも影響が及ぶ「完全なインターネット・ブラックアウト」の真っ只中にある)
タリバン政権下の「道徳」による統治、そしてそれを理由としたインフラ遮断が、公式には全土のインターネット規制の根拠として明言されているのです。
「通信」という生命線を断たれる市民、国際社会との分断
なぜインターネット遮断がこれほどまでに市民や社会全体に打撃を与えるのでしょうか。
現地住民、特に若年層や事業者にとって、インターネットは単なる「娯楽の道具」ではありません。
引用では、元IMF・世界銀行の上級顧問Torek Farhadi氏が次のように語っています。
“For Afghanistan’s youth, it is definitely another costly fallback if it continues. It closes the door on online education, it severely handicaps business owners who communicate with clients,” Farhadi said. “It is a deliberate decision to lead society to a blind spot.”
(アフガニスタンの若者にとって、これは非常に大きな後退だ。オンライン教育の道を封じ、顧客と連絡を取る事業者にも深刻な障害をもたらす。社会を「盲点」に導く意図的な決定だ)
つまり、通信遮断は
– オンライン授業の停止による教育機会の剥奪
– 事業主・労働者の取引・求人および生産活動の停滞
– 家族・友人との連絡、国外との情報共有の断絶
など、生活のあらゆる側面を根本から奪う危機です。
現地テレビ局TOLOも「通信規制の影響で放送が妨害された」とし、さらに
“mobile phone internet services have been shut down. …mobile services could soon be restored but with a lower-capacity 2G signal.”(携帯電話のインターネットも遮断。今後2Gの低速通信として制限付き再開される可能性あり)
と伝えています。
「通信」に依存した現代社会で、それが突然奪われることの重大性は想像以上でしょう。
根本にあるのは“支配のための情報遮断”
今回の全土的なネット遮断措置が、タリバン政権の権威維持・統制手段として実施されたことは明らかです。
記事の背景説明では、近年のタリバンによる圧政強化にも言及されています──
The country’s Taliban rulers have dramatically rolled back the rights of women and girls, detained journalists, and cracked down on public dissent since retaking power.
(女性や少女の権利剥奪、ジャーナリストの拘束、異議者への粛清などが急速に進められてきた)
ネット遮断は、その流れの延長線上に他なりません。
現代の権威主義体制は、武力や言論封殺に加え「情報流通の遮断」「デジタル孤立化」を、支配力強化の根幹としています。
外部からの情報や国際メディアの目を巧妙に遮断することで、国内の反発や世界世論の影響を最小限に抑え、批判をコントロールしやすくする──。
これは中国の「グレートファイアウォール」、ロシアのネット規制、あるいは過去のエジプト・ミャンマーなどの統治とも類似した手口です。
さらに今回のような「完全な遮断」は、教育水準を下げ社会を意図的に“無知化”させ、体制批判や反抗の芽を未然に摘む効果も狙われていると思われます。
通信は単なる技術ではなく、“民主主義”や“個人の自由”の根幹インフラなのです。
危機的な人道状況の“追い打ち”──今こそ問われる「アクセス」は人権か?
アフガニスタンはすでに、地震被災(約3000人死亡)、難民帰還(190万人)、対外援助の大幅カットなどで、世界最悪級の人道危機に直面しています。
このような中での通信完全遮断は、外部からの支援や正確な被害情報の把握、安否確認、物資調達など、あらゆる救援活動を一層困難にします。
現代において「インターネットアクセス」は、日本を含む自由主義社会ではほぼ“水や電気と同列の公共インフラ”となっています。
国連も「インターネットへのアクセスは人権のひとつ」との立場を採用しており、世界では「デジタル権利」の重要性が高まる一方です。
しかし、実際には紛争地や権威主義国では、ネット環境が初歩的な人権として確立されていません。
今回のアフガニスタンの事例は、ネット遮断が
– 現地社会の自立・発展の阻害
– 国際社会からの孤立・“デジタル難民”化
– 想像を超える脆弱化を国家にもたらすこと
を示しているのです。
“デジタル断絶”が問いかける私たちの未来への教訓
本記事で描かれる現実は、どこか遠い世界の特殊な出来事ではありません。
ネット遮断やアクセス制限は、国際社会で近年増加の一途をたどっています。
日本では“言論の自由”や“アクセスへの権利”を当たり前と感じがちですが、これらは当たり前ではなく、不断の注意と世界市民としての連帯が必要です。
インターネット技術の進展が人類にもたらしたものは、情報だけでなく教育・経済・健康・安全・民主主義の発展です。
その灯火を、統制や「道徳」の名のもとに消すことは、社会全体を何世代にもわたり損なう暴挙といえます。
これを他国のことと軽視せず、「アクセスは人権」「情報の自由な流通は世界共通の公共財である」という視点を持ち、国際社会の監視と支援、人道的取り組みの必要性を常に意識すべきでしょう。
categories:[society]

コメント