この記事の途中に、以下の記事の引用を含んでいます。
Announcing the 2025 DORA Report: State of AI-assisted Software Development
1. 史上最も現実的な「AI活用の今」を暴くレポート登場!
2025年のDORAレポート(正式名:DORA State of AI-Assisted Software Development)が発表されました。
今回は、世界中の5,000人近くの技術者の知見と100時間超のインタビューをもとに、「AI時代のソフトウェア開発」のリアルな実態と、その功罪まで踏みこんでいます。
このレポートが意味するものを、解説・考察を交えながらブログ形式でお届けします。
2. AIは「チームの鏡」──強者がより強く、弱者は課題が露呈する
まずはレポートの最も重要なメッセージを原文の引用で紹介します。
“The report reveals a key insight: AI doesn’t fix a team; it amplifies what’s already there. Strong teams use AI to become even better and more efficient. Struggling teams will find that AI only highlights and intensifies their existing problems. The greatest return comes not from the AI tools themselves, but from a strategic focus on the quality of internal platforms, the clarity of workflows, and the alignment of teams.”
Announcing the 2025 DORA Report: State of AI-assisted Software Development
この一節が示すのは、AI活用は「魔法の杖」ではなく、既存のチームの良し悪しを増幅させる「拡声器」だという事実です。
強いチームはAIを使いこなして、さらに効率やパフォーマンスを上げる。
逆に、組織の足腰が弱いと、AIを導入してもその不安定さや課題がさらに明確になってしまうのです。
また、こうしたAI導入の成果は単にAIツールを導入すれば出るものではなく、「高品質な内部プラットフォームや明確なワークフロー、チームの方向性の揃い」が不可欠であり、それらへ戦略的に投資することの重要性をレポートは強調しています。
3. ここがAI導入の「落とし穴」!──加速の裏で不安定化も
AIは開発速度を爆速化するが、安定性は要注意
DORAレポートが指摘しているもう一つの核心は、「AI導入は開発速度(throughput)とプロダクトパフォーマンスを大きく向上させる一方で、システムの安定性(stability)には負の相関がある」という点です。
“Unlike last year, we observe a positive relationship between AI adoption on both software delivery throughput and product performance. … However, AI adoption does continue to have a negative relationship with software delivery stability.”
Announcing the 2025 DORA Report: State of AI-assisted Software Development
AIを導入したことで開発のアウトプットが増えるものの、「変更の量」が増すことでテストや品質保証が追いつかず、不安定化を招くリスクも増えているというリアルな現場の課題が描かれています。
ここから学ぶべきは、AI導入が万能ではなく、その効果を最大限に引き出すためには、「自動テストやバージョン管理、迅速なフィードバックループ」による堅牢なコントロール体制が不可欠だという点です。
内部プラットフォームの品質がAI時代の「土台」
レポートは、90%以上の組織が何らかの内部プラットフォーム(Platform Engineering)を採用している点、そして内部プラットフォームの品質が「AI導入成功」の鍵となっている点を強調しています。
“Our data shows that 90% of organizations have adopted at least one platform and there is a direct correlation between a high quality internal platform and an organization’s ability to unlock the value of AI, making it an essential foundation for success.”
Announcing the 2025 DORA Report: State of AI-assisted Software Development
つまり、APIやCI/CDパイプライン、開発用の統一環境などを含む内部プラットフォームの整備が、単なる業務効率化だけでなく、「AIによる成果最大化」に直結するということです。
特に、「AIだけ入れれば勝手に変わる」と考えている企業にとっては、非常に示唆的な指摘でしょう。
4. AI時代の「三つの罠」と「真の勝者」──私的分析
このレポートをもとに、私自身が感じた特色や日本の読者に伝えたいポイントを整理します。
(1)AI活用格差はさらに広がる
元々「強かったチーム(例:自動テスト、バージョン管理、継続的デリバリーができている)」が、AI導入によりより強くなる一方、「弱いチーム(非効率な手作業、ブラックボックスなシステム)」はAI導入で課題が露呈したままパフォーマンスを上げられません。
これは、(DXやDevOps同様に)AI導入によって「開発現場の格差」がさらに拡大する時代に突入した、と言い換えられます。
現場のリーダーや経営層は、「AI導入=現場改革の終着点」ではなく、「AI活用に耐える基盤作りこそ勝負」という意識改革が必要です。
(2)「AI生成コードの信頼問題」は2025年も続く
AI活用者の約8割が「生産性が向上した」と感じている一方で、「AIが生成したコードを信頼しきれない」とする回答が依然30%ほどあるとレポートは述べています。
これは「AIの出力=正解とは限らない」ことの現れであり、例えばセキュリティや保守性が問われる現場では、AIのアウトプットを鵜呑みにせず、人間のチェック体制が不可欠であることを示しています。
(3)「ユーザー中心主義」の文化がAI活用を最大化
AIが真価を発揮するのは、「誰の、どんな課題を解決するのか」が現場で明確になっている環境だとレポートは指摘しています。
逆に「AIありきのPoC(検証)や用途不明の自動化」を進めると、成果が出ない・期待を下回ることも多くなるのです。
開発現場のみならず、サービス経営全体で「ユーザー中心」の問い直しが進む潮流にAIも同調するというのは、非常に本質的です。
5. 結論──「強いチーム」しかAIの恩恵を最大化できない時代へ
2025年DORAレポートは、AI時代のソフトウェア開発をめぐる幻想と現実そのものです。
AIを導入しても「楽になる」のではなく、むしろ「現場に問われる力」がよりシビアに可視化される時代が到来したと言えます。
今からでも、「自動化・テスト・プラットフォーム整備」など現場の足腰を鍛えることこそ、AI時代の勝ち組となる最大の布石です。
裏返せば、AI活用で期待通りの成果が出ないと悩む現場は、まず自分たちの基盤・ワークフロー・文化そのものを問う絶好の機会なのかもしれません。
最後に、この記事から得られる最も大きな気づきは:
「AI導入はゴールではなく、真の現場改革のスタートライン」
この認識を持てるかどうかが、次世代開発の命運を握るでしょう。
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