この記事の途中に、以下の記事の引用を含んでいます。
A New and Dangerous Kind of Fame
リアクション動画文化が切り取る「今この瞬間」の“感情”と“炎上”
私たちはいま、“リアクション動画”という独自の文化に浸かっています。
素人から有名人まで、ネットの誰もが他人の「感情」を即時に切り売りし、それを商品として消費している。
気軽な娯楽のように感じるかもしれませんが、実はこの潮流こそ、現代社会が抱える「危険な有名さ」の実態をえぐり出しているのです。
The Atlanticの話題記事［A New and Dangerous Kind of Fame](https://www.theatlantic.com/culture/archive/2025/09/charlie-kirk-influencer-hasan-piker/684208/){:target=’_blank’}では、インフルエンサー（政治コメント欄や動画配信者等）が、かつてない現実的な暴力のリスクにさらされている現状を鋭く取り上げています。
チャーリー・カークという右派系インフルエンサーがイベント中に銃撃され、その反応を配信したハサン・パイカー（左派系配信者）を取り巻く社会とネット文化、その危うい接点に着目し、「新たな有名人のリスク」を論じているのが本記事の骨子です。
「インフルエンサーが“命の危険”にさらされる」時代——記事が語る衝撃の現実
まず、記事の中核部分を一部引用しつつご紹介すると、著者はこう書いています。
“Kirk was his peer in an ascendant content-creator class now under mortal threat from the very culture it helped shape.”
カークは、まさに自らが形作ってきたネットカルチャーによって、命の危険にさらされる存在となった。
この記事では、カークもパイカーも、政治的意見やスタイルだけでなく、「ふつうの人間のようなリアルな感情」をネットで即座にシェアする文化の旗手であると指摘。
カークは、右派の若者向け運動「Turning Point USA」を率い、“かわいい、スポーティな”雰囲気で論戦を盛り上げる現代的政治エンターテイナーでした。
パイカーは左派系で、ゲームや社会問題を語ることで若年男性層に支持される一方、過激なコメントで何度も炎上してきた人物です。
両者に共通するのは、「ネットの向こうの観客と異様なほど近い距離」で、日常の一部・感情の表出ごと自分自身を“コンテンツ”化した、いわば「現代型の有名人」だという点です。
「本物の感情」が消費される社会——ネット空間の加速と暴力の温床
一見無害に思えるリアクション動画や政治系配信。
しかし、そこには現実とバーチャルの垣根が消えた危うさがあります。
この文化が「危険な有名さ」を生む理由は大きく分けて2つです。
1. 無意識の“感情消費”と「共感」の暴走
記事はこう断言します。
“Scrolling on one’s phone can be a deadening experience, but here’s someone feeling, or at least pretending to feel, a genuine feeling—even if the abundance of these videos surely numbs us further.”
“本物の感情”または“それっぽく見せる感情”を消費することで、退屈を紛らわせるのが現代。
しかし、その「感情の切り売り」が、逆に人間の共感力を麻痺させたり、攻撃性を増幅させたりする点が極めて問題だと著者は警鐘を鳴らします。
このような配信文化では、視聴者との距離があまりにも近くなり、「彼らにリアルタイムで触れたい」「相手を倒したい」という一方的な憧れや憎悪、さらには妄執が容易に育まれる。
実際に事件直後、パイカーに寄せられたコメントには——
“Someone had left a comment on YouTube saying it should have been Piker who was killed.”
という、まるでゲームのように「死ね」と煽る実名アカウントまで現れたと言います。
2. イデオロギー闘争の“ゲーム化”と現実への波及
記事ではさらに、配信者同士の論争や炎上、そしてファンの過激化が、“ゲームの勝ち負け”のごとく現実に持ち込まれている危険性を指摘します。
“He didn’t seem to be trying to pull his audience back from a view of the world that thinks in terms of wins and losses, and that turns the other side into non-player characters whose lives don’t matter.”
政治の話、社会問題すら“ウィン/ルーズ”で語られ、相手を「ノンプレイヤーキャラクター」扱いするような冷たさが蔓延してしまっている。
この二元論とゲーム的な発想は、暴力の正当化や、現実世界での極端な行動を誘発する源泉になり得ます。
現代型“有名人”リスクの本質を考える――私はこう見る
記事が描くインフルエンサーのリスクは、芸能人や政治家の「有名税」以上に、デジタル時代ならではの複雑さと危険をはらんでいます。
例えば、従来の有名人は雑誌やテレビ等、限定的メディアを通じてのみしかファンと繋がれませんでした。
一方、配信者やネットの論客たちは、24時間あらゆるプラットフォームで、ファンどころか敵対者とも直接接触してしまいます。
「推しとつながれる」時代は、「誰でも無差別に脅せる、リアルに危害を加える」時代でもあるのです。
配信者も例外ではありません。
パイカー自身はこれまで「過激な煽り」「強すぎる物言い」で炎上し、たびたび「表現の自由」「左派の論理」として自身の攻撃的言動を正当化してきました（例：米国9.11を巡る不適切発言議論）。
しかし、それが日本でも海外でも、一部のリスナーに「敵側を本当に攻撃してもいい」「ネットバトルが現実の暴力へ」という危険なメッセージとして伝わってしまう瞬間があります。
この構図は決して米国だけの特殊な現象ではありません。
日本でも人気配信者への誹謗中傷や襲撃事件、議論の場での人格攻撃が深刻化しており、「有名であるだけで命が危うくなる」風潮が静かに広がっていると危惧します。
“バーチャル”と“リアル”の境界が消えた今、私たちが問われること
記事では最後にこうまとめます。
“If we are, as is frequently said, living in an era of extraordinary political violence, it cannot be understood as separate from the rising cultural hunger to reach out and touch—or do much worse to—the people on our screens.”
つまり、「画面の向こうの存在」だったはずの有名人を、本当に触れ、危害すら加えようとする“群衆の欲望”が、ネット時代の暴力と直結している――この構造を見落としてはならない、と強く警告しているのです。
SNSや動画配信の普及により、「ファンと繋がれる」喜びと、「敵意までも直接飛んでくる」脅威は表裏一体となりました。
今後は、配信者・インフルエンサー自身が「現実の暴力がいつでも降りかかる」宿命を背負う時代です。
「議論のゲーム化」「“感情”の切り売り」文化が、思いがけない憎悪や暴走につながりかねないことを、われわれ視聴者もまた認識しておく必要があります。
結論：あなたも“巻き込まれうる”時代の鑑識眼を
この事件が、たまたま米国で、著名なインフルエンサー同士に起きた出来事だと矮小化してはなりません。
日本でも“推し活”の熱狂やネット論争の過熱、不当にさらされるSNSでの誹謗中傷など、「バーチャル」と「リアル」の境界が消えつつあるのは誰の目にも明らかです。
特に今後、インフルエンサー的な働き方はより増え、私たち一人一人が「有名人」になりうる社会が到来します。
その際、単なるバズや再生回数の陰には常に、現実的なリスクと暴力の種が潜んでいること——、そして「配信者の感情消費」「バトルのゲーム化」に加担していないか自問自答する新しいメディアリテラシーが、全ての人に求められる時代なのです。
将来、あなたの「推し」あるいはあなた自身が、この“新たな危険な有名さ”の犠牲にならないよう、いま一度ネット文化との向き合い方を問うきっかけにしてほしい——そう強く願います。
categories:[society]
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