この記事の途中に、以下の記事の引用を含んでいます。
Hyperscope
まるで異世界?話題の「Hyperscope」とは
もしあなたの目が、突然アンテロープ(カモシカ)のように離れた位置についたら、世界は一体どのように見えるのでしょうか。
今回紹介する「Hyperscope(ハイパースコープ)」は、そんな突飛な発想を基に開発された非常にユニークな観察装置です。
この記事では、Hyperscopeがいかに視覚体験を変革し、人間の知覚や遊びの幅を大きく広げてくれるかを解説します。
また、そもそも私たちが「奥行き」や「立体感」をどうやって判断しているのか、この装置がもたらす「不思議」の背景にも迫ります。
「目の距離が3倍に?!」— 画期的な視覚トリック
まず、この装置の特徴を記事はこう紹介しています。
“The Hyperscope is a viewing device that uses a system of mirrors to increase the distance between your eyes so that your eyes are as far apart as those of an antelope. This allows you to see the world in a different way, more exciting and with more depth.”
(出典:Hyperscope)
つまり、ミラー(鏡)の組み合わせによって、私たちの目の間隔(両眼間距離)を通常の3倍である約190mmに「錯覚させる」のがHyperscopeの最大の特徴です。
なぜこんなことをするのかというと、私たちが奥行きや立体感を把握する際、左右の目で見ている微妙なズレ(両眼視差)がそのカギだからです。
目の間隔が広いほど、このズレ=立体感がより強調される仕組みです。
記事によれば、
“The average eye separation is about 65mm. The Hyperscope increases this to 190 mm, i.e. by a factor of 3. As a result, your ability to detect changes in depth is enhanced by a factor of 3. By optically increasing the distance between your eyes the Hyperscope extends your vision and remaps space in new and visually exciting ways.”
立体感の知覚力が理論上3倍にアップする、という驚愕の事実が示されています。
立体視の「意義」と人間の認識をめぐる背景
この装置は、単なるオモチャではありません。
人間の「空間認識」がどれだけ両眼のズレに依存していたのか、自分の体で実感できる装置です。
そもそもヒトは、両目が前方に並んでいることで「視差」を得て奥行きを把握しています。
頭部や目が大きい動物ほど視差の幅が広く、立体感も鮮明です。
反対に片目しか使えなければ距離感の把握は格段に難しくなります。
この原理はVRゴーグルや3D映画、外科手術の3D内視鏡など様々な分野で応用されています。
Hyperscopeはこうした専門領域の「技術」を、手軽に日常体験として落とし込んでいる点が極めてユニークです。
また、記事では実験例も紹介されています。
“Try asking a friend to stand about 10 feet away and stretch their hand out towards you, noting that instead of their hand looking larger as you would expect, it is smaller – why? Next, test their ability to catch a ball. Most people find this difficult to do while looking through the Hyperscope, and withdraw their hands from the path the ball is following, just as they are about to catch it.”
手を伸ばして見せ合ったり、ボールを投げて受け取るだけでまったく感覚が狂ってしまう。
それほど「視差」に頼って生きている証左です。
体験者の視点—日常と非日常が交錯する
私自身(解説者)はHyperscopeを現物で使った経験はありませんが、VRゴーグルやインタラクティブな3Dパズルを体験した時の感覚と近いのではと推測します。
具体例として、両眼間距離が大きい動物——たとえばウサギやカモシカ——は空間把握が抜群ですが、逆に人間は精密な手作業や顔の認識に長けています。
Hyperscopeを使うことで、まるで自分が別の動物の「視界」を手に入れたような不思議な没入感が味わえるのだろうと想像します。
しかも、この記事では以下のように「現実感の喪失」までも言及しています。
“Three dimensional space becomes bigger while objects seem smaller but more dramatic, and you will be able to appreciate three dimensional form at much greater distances. You will also notice changes in proportion: friends will have Cyrano de Bergerac noses, and if you look at your feet, they will look smaller, more remote, but somehow deeper – a kind of ‘Through the Looking Glass’ experience.”
この「Through the Looking Glass」とは、ルイス・キャロルの『鏡の国のアリス』に登場する異世界体験のこと。
自分の身体のバランスや周囲の景色が大きく歪むことで、普段は意識しない知覚のしくみや「脳の不思議」を直感的に味わえる希少性があります。
また、立体スケッチや建築模型、インスタレーションアートの鑑賞にも応用可能性が広がります。
実はこうした「視覚の再構築」は、盲点の位置や色覚の違い、脳の錯覚現象など、人間の脳科学/神経科学でもきわめて興味深いテーマです。
日常の応用例と注意点
さらに、記事は意外な実用性も紹介しています。
“The Hyperscope can also help to clarify complicated two-dimensional images such as PDI’s (Perceived Depth Images), or stereograms, the richly textured images which spring into 3D when viewed correctly, and which have become so popular. The ability to see them still eludes some people, but the Hyperscope can be used to help you see them as you are meant to.”
つまり、3Dステレオグラム(絵柄が3次元的に浮き上がる画像)が苦手な人でも、Hyperscopeなら正しく立体を知覚できる可能性が示唆されています。
2Dの画像ですら、見方が変われば情報量も質も大きく変わるのです。
ただし、装置に依存できる条件には注意が必要です。
“many people can see the effect in the Hyperscope, but it does completely depend on the viewer having full stereoscopic vision, and we have also heard that it does not always work so well if you are wearing glasses.”
つまり、両目の視力バランスや「両眼視差」が機能している人しかフル体験はできません。
眼鏡ユーザーは注意が必要で、体験には個人差が大きい点も正直に述べられています。
「知覚を遊べ!」——変化の先に見つかる世界
Hyperscopeが示すものは、単なるおもしろグッズを超えた「知覚の拡張」です。
私たちは日常生活で何気なく世界を「見て」いますが、それが意外と「脳の再構築」に頼りきりであることに気付かされます。
たとえばVR・AR・3D映像技術、さらには神経科学やインターフェースデザイン分野まで、知覚の構造を理解することは次世代の問題解決やイノベーションにも直結します。
子どもが環境に体当たりで学び、物の形や距離をつかんでいくプロセスも、同じ視覚の「リマッピング」に他なりません。
Hyperscopeは「目の幅」の違いによって得られる新しいビジョンを、極めて手軽に、楽しく、時にコミカルに体験させてくれます。
3000円程度で手軽さもあれば、数分で組み立てられ、道具も不要とのこと。
教育現場や心理実験、家族の会話のタネとしても活躍が期待できるでしょう。
世界の「見え方」を問い直す——感覚を研ぎ澄ます第一歩
本記事で紹介したHyperscopeは、日常の「当たり前」に疑問を投げかけ、見慣れた風景を一変させるポテンシャルを秘めています。
空間とは? 距離とは? 物の形って本当に物理的なものだけ?
それはあなたの「目」と「脳」との絶え間ない協働作業の成果です。
時にはこの装置のように、物理的な「設定」を変えてみることで、見過ごしていた豊かな現実にアクセスできるかもしれません。
人間の知覚とは、ここまで不安定で、遊び心に満ちていたのだと実感することでしょう。
科学好き、教育者、ものづくり愛好家はもちろん、この世界にひと味違う角度から迫ってみたい方に、Hyperscopeは新鮮な示唆を与えてくれるはずです。
categories:[science]
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