この記事の途中に、以下の記事の引用を含んでいます。
Inside SpinLaunch, the Space Industry’s Best-Kept Secret
宇宙への新たな挑戦がはじまる ― SpinLaunchとは何者か?
宇宙は今、民間によってますます身近になりつつあります。
しかしながら、ロケットで軌道にものを打ち上げるコストは依然として非常に高く、多くのスタートアップや科学者、学生たちにとって「自分の衛星を宇宙に」を叶えることはまだまだ遠い夢でもあります。
そんな中、SpinLaunch(スピンローンチ)という企業が、従来とは根本から異なる「回転遠心力」を応用した打ち上げ方式に挑戦し、宇宙ベンチャー界の台風の目となっています。
なにやらSFチックな印象を受けますが、実際SpinLaunchが何を目指し、どんな課題やブレイクスルーを経験してきたのか。
WIRED誌Inside SpinLaunch, the Space Industry’s Best-Kept Secretの記事から、その“内側”を探ってみましょう。
ベンチャースピリット全開!記事が伝えるSpinLaunchの熱狂と創意工夫
記事は、SpinLaunchの創業者たちが「ユニークな発想」と「DIY精神」でもって、宇宙業界の常識に挑んでいく様子を克明に描写しています。
特に印象的なのは、大企業や大規模投資に頼るのではなく、“自分たちで一から全部作る”という、まさにガレージ企業的な泥臭さです。
引用してみましょう。
“The SpinLaunch team decided to build it themselves. As an underwater welder, Hampton had become an expert at crafting airtight seals, which translated well to his new task. Yaney ordered a few vacuum pumps off of eBay and $500,000 worth of steel, and the team set out to build the sixth-largest vacuum chamber, by diameter, in the world. It took them eight months.”
[Inside SpinLaunch, the Space Industry’s Best-Kept Secret]
つまり、一般的な受託生産に頼らず、「ほぼ素人が、eBayでポンプを探し5000万円の鉄を買い集めて、世界6位(直径換算)の巨大真空チャンバーを8カ月で作ってしまう」という異常なまでの突破力が語られているのです。
ここだけ切り取っても、SpinLaunchがいかに型破りな企業なのかが伝わってきます。
また、初期メンバーの募り方や拠点の様子、生活環境の劣悪さについても紹介され、
“You had to have a lot of vision or nothing to lose, one or the other.”
(「大きなビジョンか、あるいは失うものが何もないか、そのどちらかじゃなきゃやれない」)
という現場スタッフの言葉に滲み出ている通り、とても常識的な職場とは呼べない“イノベーションの坩堝”がありました。
既存ロケットと何が違う? SpinLaunch式「遠心加速」打ち上げの技術背景
SpinLaunchの狙いは、シンプルに言えば「巨大な遠心分離機(=centrifuge)を使い、ロケットの初速の大部分を地上から与えてしまう」ことにあります。
従来のロケットは、地上で点火して化学的な推進薬を燃やしながら段階的に加速していくのが普通です。
しかしこの方式では、燃料の大部分が「自分自身を宇宙まで運ぶための」ものとなり、小型衛星しか積めない割に打ち上げコストが膨大になる原因でした。
そこでSpinLaunchが考えたのは、
- 直径40メートル級の巨大な真空チューブ(チャンバー)内に、油でぬるぬるに潤滑したベアリングを内蔵
- 片方の端に超強靭なケブラーやカーボンファイバー製のアーム(Tether)をセットし、そこにペイロードを装着
- 強力なモーターでアームを加速し、遠心力で超高速まで「ペイロード+小型ロケット」を回転させる
- 設定した速度に達した段階で、真空チャンバーの端からペイロードを解放し、そのまま空に打ち出す
最初の加速は完全に「地上発」なため、空中で点火して最終的に軌道投入するのに必要な燃料がぐっと減ります。
「すでに“初速”がついている」ため、従来型の燃料比に比べて大幅なコスト削減が理論上可能になるのです。
この奇抜なアイデアに対し、当然ながら技術的な壁も多かったはず。
記事では、真空チャンバーの巨大さ、アームにかかる応力への課題、時速数千kmの回転体を制御する恐ろしさなど、既存技術の転用だけでなく“新しい方法論の発明”が欠かせなかった事実も描かれていました。
SpinLaunchの創業者Yaneyは、
“There are so many things in science and engineering that have to be uncovered, simply because people don’t try them.”
(「科学と工学には、誰も挑戦しないからこそ未発見のことが多い」)
と述べており、このチャレンジ精神こそがSpinLaunch文化の根幹であることがわかります。
うまくいくのか? SpinLaunchの試みと、その光と影
SpinLaunch方式の本質的な強みは、
- 純粋に力学的な加速・分離を地上で実現できること
- コストが劇的に低減する(例:消耗品である液体燃料の大部分を省略できる)
- 小型衛星打ち上げ市場との親和性(CubeSatなどの需要増加)
にあります。
特に、「打ち上げ費用が圧倒的に下がれば、宇宙インフラは『一部の国家・巨大企業のもの』から『多様なプレイヤーによるアクセス可能圏』に移行する」とされており、社会的インパクトも膨大です。
一方で、物理法則を考えるなら
- 発射時の衝撃(数千Gの加速度)はペイロードに甚大なダメージを与えうる
- そもそも直径数十メートル規模でも“軌道速度(約28,000km/h)”を出すのは理論、実装ともに容易ではない
- ペイロードが真空から瞬時に大気圏に放たれるときの「空力加熱」「強い摩耗」など新たな設計要求が発生
など、従来とは異なる未知の難題も山積しています。
むしろSpinLaunchチームの美点は、この種の大問題から「一歩も引かず、方法自体を根本から発明しなおす」思考様式にあるようです。
既成概念を問答無用で壊しにかかる点は、グーグル創業初期やSpaceX草創期のようなエネルギーを感じます。
イノベーションの真髄は「Just Try!」にある──日本企業が学べるもの
記事全体を通じて感じるのは、「失敗を恐れず自分たちの“やり方”を作り出し、最後まで諦めない人材の集団」こそが新しい業界地図を描くのだ、という強烈なメッセージです。
これは日本の多くの大企業、公的研究機関とは真逆の姿勢とも言えます。
「できる範囲」「過去に前例があるか」「予算内か」という枠組みで発想が収束しやすい環境に比べ、SpinLaunchの“とにかくやってみる”カルチャーは、まさにイノベーションの本質と言えるでしょう。
SpinLaunchが最後まで本当に人類を遠心力で軌道投入できる存在になるかは、まだ分かりません。
それでも、
- 「やる前から無理」と決めつけず
- 現場の泥臭い努力(失敗も含む)を価値とみなし
- ゼロから自分たちの“やり方”で未来を切り拓く
という姿勢、その「組織マネジメント」や「エンジニアリング」の精神性は、現代日本のあらゆる業界に対しても一読の価値がある、と私は考えます。
結論:SpinLaunchに学ぶ“やってみなけりゃ分からない”の力
SpinLaunchの記事が明らかにしたのは、単なる理論や計画では決して到達できない、“動き出してしまったからこそ見える世界”の存在です。
彼らのしていることが常識外れであればあるほど、人類の未来を変える可能性もまた高まります。
宇宙だけでなく、AIでも、エネルギーでも、既存の枠組みをぶち壊しながら「地平の彼方」を目指す人々が、新しい産業・社会を切り拓く——SpinLaunchの挑戦に込められたそんなメッセージを、私たちも日々の仕事や勉強に応用したいものですね。
categories:[technology]
コメント