最先端AIの話題があふれる今、「AIを使って仕事しています」と言いながら、実はこっそり自分の頭脳でタスクを進めている――そんな人がどれほどいるでしょうか。
2025年7月、米国で実施された調査によると、全従業員の6人に1人が“AIを使っているフリ”をしているという驚きの実態が明らかになりました。
今回は、The Registerの記事「One in six US workers pretends to use AI to please the bosses」(https://www.theregister.com/2025/07/22/ai_anxiety_us_workers/)をもとに、急速なAI接受社会における職場の“見えにくい本音”と、これが私たちの仕事の現場にもたらす課題を深掘りします。
■ AIはなぜ「使っているフリをする」対象になったのか?データが示す驚愕の現場
記事によると、米国の企業現場では“とりあえずAIを使う”ことが半ば当然の姿勢として求められています。
- 「従業員の4分の3は、なんらかの形でAIテクノロジーを使うことを雇用主から期待されている」
- 【引用元】The Register, 2025年7月22日
しかも、全体の22%が「AIに自信がないのに、圧力を感じて無理に使っている」と回答し、その裏返しとして「AIを使っています」と嘘をつく人が16%(約6人に1人)も存在するといいます。
更に、第三者機関の調査では、2/3の労働者がAIの出力結果を検証せず“鵜呑み”にしてしまっているという現実も判明しています。
■ 企業の「AI活用」号令がプレッシャーになる理由
AI導入の理想像は「効率UP」「生産性の向上」ですが、現実はそれほど単純ではありません。
AI利用を現場に強制・推奨する企業の思惑と、現実にAI利用を強要されたり、成果を求められたりする“働き手”側のギャップは大きいもの。
AI活用について、「使い方を学んだり、間違いをチェックしたりするのが、結局AIなしの作業と同じだけ大変と感じる人が3分の1もいる」(記事より)
AIに“楽をさせてもらっている”以上に、むしろ「AIに合わせること自体が仕事を複雑化させている」ケースや、“AI時代の適応競争”で焦燥感や不安につながっている実態が読み取れます。
◯ AI活用の「嘘」には正反対の2パターンがある!
記事が興味深いのは、“AIを使うフリ”の裏側に、「本当は使っているのに上司に隠すケース」まで存在するという指摘です。
「Slack社の調査(2024年10月)によると、全世界のデスクワーカーの48%が『上司にAI利用を言いたくない』と考えている。“ズルをしている”と誤解されたくない、不真面目と見なされたくないと不安なのだ」
【引用元】The Register, 2025年7月22日
この“AIジレンマ”が、あらゆる立場・年齢・業務で起こりつつあるのです。
■ AI時代の「安心して働ける場」はどう作るべきか
AI活用推進は社会的なトレンドとなり、多くの企業で標準的プロセスになりつつあります。
ですが現場では「使い方の研修もなくAI利用を求められる」「成果だけが問われる」「上司もどこでAI入っているかわかっていない」など、現実的な不安が山積しています。
記事でも指摘されていますが、「4人に1人はAIに関するトレーニングを一切受けていない」状態です。
AIプロジェクトを進める企業経営サイドも、なぜAIを使う必要があるのか――その狙いや業務ごとの有効性、限界、リスクを明確に伝えず「とにかくAIで効率化」という表面的な合言葉だけが現場を圧迫させています。
「企業リーダー自身が、自社の業務プロセスでAIをどう使うのか把握できていない。レガシーな(旧式の)システムにAIを無理やり組み込んだ結果、現場は混乱している」
(記事より、Forcepointのデータ戦略責任者Ronun Murphy氏の発言要約)
■ 私たちはどう“AI不安”を乗り越えるべきか――個人と組織の両視点から
この現代的な「AI不安(AI-nxiety)」――記事はこれを「SNS不安、メール過多、Zoom疲れ」などの現代病と同列視しています。
ごく身近な例では、職場会議で「便利なツールを全員使っている」と言われて戸惑った経験がある方も多いのではないでしょうか。
- AIを使わないと“遅れている”と見なされる恐怖
- 逆にAIを使うことで“ズル”や“怠け”扱いされる懸念
- 自分だけ使い方が分からず取り残される孤独感
これらの葛藤が、組織の中で“沈黙の不安”として蓄積していきます。
◯ AIを「正しく使わずに鵜呑み」「使えなくてもフリをする」リスク
AI出力のチェックを怠ったまま業務に使うと、致命的なエラーや顧客トラブルにつながります。
一方、「上司や同僚の目を気にして使っているフリ」を続けていれば、個人のスキルも組織の健全度も損なわれます。
また、俳優組合などクリエイター現場でも「AI生成コンテンツの無断使用」など、倫理的な問題もすでに表面化しており、AIリテラシーに加えて“誠実な説明責任”が問われる時代になっています。
◯ 心理的安全性とリスキリングが必須
記事では「率直で前向きなコミュニケーションが重要」「現場で感じる不安や疑問を対話できる職場づくりが必須」と強調されています。
「会社側が従業員サポートは当然だが、個人も好奇心と適応力を持つこと」が重要
(Howdy.com代表Jacqueline Samira氏発言要約)
加えて、「AI使わせっぱなし」ではなく、リテラシー教育や使い方研修、定期的なフィードバック体制こそ不可欠です。
■ 結論:AIとの向き合い方が、個人と組織の“未来を決める”
AI全盛時代、私たちはもはや「使う・使わない」という二元論を超えて、「どう付き合うか」というフェーズに入っています。
職場でAIが圧力や不安のタネになっている今こそ、「失敗も疑問も共有できる安全な環境」と、「学びなおしやリスキリングに向き合い続ける姿勢」が試されています。
AIは決して“万能の魔法”ではありません。
ですが、適切な使い方と丁寧なコミュニケーション、そして組織・個人それぞれの責任ある姿勢があれば、AIは私たちの強力な“右腕”となるはずです。
現場で不安を感じているあなたも、まずは率直な声を発すること。
企業も、テクノロジー任せにせず「人」を中心に据えた新たな働き方を設計すること――。
それが、AI時代を生き抜く最大のヒントなのではないでしょうか。
categories:[society]
コメント